村長タラバガニでマジギレ!前編
「昨日は散々だったのぅ」
村長は少し増えたけど元より少ない頭髪をくるくると指に巻きつけながら椅子を揺らしている。
「良かったじゃないですか。ゲートボール会場も私の敷地で有料で貸し出してますし」
ココロは札束を数えながら悪人面でにやにやしている。
「そんちょー! 髪の毛生やす薬買ってき……とっとっとっひゃぁ!」
ブチブチブチ! ハートが村長にぶつかった拍子に、村長が指に巻きつけていた元から少ない頭髪が抜けてしまった!
「……。ハートや、これはいかんじゃろ、これは……」
村長がハートに鬼のような形相で迫る!
「ひぃい! なんでもするから許してよぉー!」
村長とココロが過敏に反応した!
「ハーちゃん! その台詞は使っちゃだめ!」
「取り消しはなしじゃ! ハートよ、わしの言うことを聞くがいい!」
「村長。もし妹に何かしたら***からの***で*****しますからね?」
ココロは禍々しいオーラを纏った!
「そ、そんなことする訳ないじゃろ! ハートはわしにとって可愛い孫みたいな存在なんじゃ!」
「そんちょー……」
ハートが尊敬と愛情に溢れた瞳で村長を見つめている!
ココロが殺意と怒りに溢れた瞳で村長を見つめている!
「か、肩たたきでもしてもらおうかのぅ……」
「いいよ! まかせてー!」
「肩たたきですか……。ハーちゃん、これで叩くともっと気持ちいいらしいよ」
ココロが明らかに痛そうな棘付のハンマーを取り出した!
「ありがとうおねえちゃん! いっくよー!」
ハートは躊躇なくハンマーを振り上げる!
「ちょタンマお願いだから手でして! して下さいませですじゃ! ……アッー!」
村長の悲鳴は隣村まで聞こえたらしい……。
「ごめんね、そんちょー。治療用のハンマーかと思っちゃって……」
「いいんじゃよ、わしもちょっと調子に乗りすぎてたからのぅ」
ハートは村長の肩に優しく傷テープを張った。
「お詫びにもう一つお願いしてもいいよ!」
「本当にハートは天使みたいに良い子じゃのぅ……。そうじゃ! そんないい子にはイイモノを食べさせてあげよう!」
「なになにー?」
「……っとその前に、ココロはいまどこにいるのじゃ?」
「おねえちゃんならさっきお風呂入ってくるーって家に帰ったよ!」
「ならばココロが戻る前に作戦を伝えておく。聞かれたら厄介じゃからのぅ」
ごくり。ハートが緊張と期待を込めた顔で村長を見つめている。
「作戦名は、タラバガニ・サミット……じゃ!」
~ ハート&ココロの家(庭先) ~
BGM:タラバガニサミットのテーマ
ハートが家の塀に背を向けしゃがみこみながらイヤホン型無線端末で通話をしている。
トゥルル、トゥルル……。
「こちらハート……。そんちょー、聞こえる?」
「うむ、無線は異常無しじゃな。状況はどうなってる?」
ハートが塀からこっそりと家の窓を確認する。
「まだおねえちゃんはお風呂に入っているみたい。状況が変わり次第連絡するね!」
「わかった、無理はするんじゃないぞ。ハート」
タラバガニ・サミット。ココロに気づかれることなく、通販で買ったタラバガニを村長とハートの二人で食べようという作戦だ! ちなみにサミットを付けた理由はなんとなく、だそうだ。
通販で買ったが故に、玄関で受け取るという工程が発生し、ココロに作戦がばれてしまう可能性が高くなっている。
なのでハートにはタラバガニが届くまで村長宅にココロを近づけないようにと指令が出ているのだ!
「そんちょー! おねえちゃんがお風呂から上がったよ! 装備はバスローブに、縞々……!」
縞々と聞いて飲んでたお茶を吹き出した村長は顔を赤らめながら無線を取った!
「ごほっごほっ! ……まだこちらにタラバガニは届いていない! どうにかして時間を作るのじゃ!」
「うーん……。そうだ!」
ハートは何かを思いついたようで、無線を切ると家の中に潜入した!
「ふんふんふーん♪ お風呂のあっとのー♪ やっきプーリンー♪」
ココロは楽しそうに歌いながら冷蔵庫を開けた。
が、そこにあるはずの焼きプリンが無くなっていた!
「ハーちゃん食べちゃったのかなぁ……。まぁミントアイスでも食べ……」
が、そこにあるはずのミントアイスも無くなっていた!
「……。いくら可愛い妹のやることとはいえ、これはお仕置きが必要ですねぇ」
ココロはドス黒いオーラを纏った!
「おねえちゃーん! こっちこっち!」
ハートが可愛らしい笑顔で手を振っている!
「ほう? ドMかな? ドMなのかな? わざわざ自分から出てくるなんて……」
ココロが満面の笑み(天使のような悪魔の笑顔)でハートに迫る!
ハートは恐怖でちびりそうになりながらもココロを別室に誘導した!
「こ、これは……」
「おねえちゃんの大好きな焼きプリンとミントアイスを混ぜて作ってみたの! 食べてみて!」
そこには見るも無残、というか一見食べ物に見えない綺麗な色の物体があった。
怒りで我を忘れていたココロにとってそれは衝撃的な出会いであり、先ほどまでの怒りを忘れてしまうほどだった。
ハートの作戦は、ココロの好物を奪い取り時間を稼ぐことではなく、妹の手料理(魔合成)で感激してもらって時間を稼ぐことだったのだ!
「おねえちゃん、いまおなかいっぱいなのかな……」
ハートがスプーンを持ったまま固まっているココロを不安そうに見つめた。
好物×好物が大好物になる訳ではないことを知っているココロにとって、食すのにとても勇気のいる物体であり、ましてやどう見ても食欲をそそる色ではないことがココロのスプーンを止めていた。
だが、ココロは妹が一生懸命作ったモノを食べないという選択肢は無かった!
「い、いただきます……」
目に涙を浮かべながら、スプーンにその物体をすくいとり、ゆっくりと口に近づけていく。
その様子を満面の笑み(天使のような天使の笑顔)で見つめるハート。
ぱくっ
「ん゛っ!?」
庭に咲いた花が、ぽとりとその美しい生涯を終えた。
~ 玄関先にトラックが止まっている村長の家 ~
BGM:姉の逝き様
トゥルル、トゥルル……。
「こちら村長。ハート、聞こえるかのぅ?」
「聞こえるよー! おねえちゃん嬉しすぎて寝ちゃったみたい!」
「なんのことじゃ? ……まぁいい。タラバガニは無事確保できたから明日、ココロが株主総会に行ったときに一緒に食べよう。それまでは内緒じゃぞ!」
「はーい! おねえちゃんが風邪引かないようにお着替えさせてくるね!」
どんな状況だったのだろうと思いながら、手元にあるダンボールに入ったタラバガニを見て不敵な笑みを浮かべる村長であった。
戦利品:高級タラバガニセットを手に入れた!
完
「あは……お花畑ー♪……あはっ、は……」
あなたは可愛い妹が一生懸命作った謎の物体を食べられますか?
A:もちろんさ! B:無理無理無理無理絶対無理!! C:あーんしてくれるなら食べてやらんこともない……!