表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/75

最終話:ドMとユートピアと元の世界

 結論から言うと、ベルゼブブは凄くサービスしてくれた気がする。

 全員が帰ってくることが出来たのだ。

 コスト消費されたはずの、橋野本くんと糸井岬くんも!

 ただ、あの二人はなんだか以前とは別人になったような気がする。えーと、具体的に言うと多分あの二人はドッペルゲンガーが代理をやってる。

 こっちの世界に来て良かったのかなー。

 親御さんとか最後まで騙せるのかなあ。


 クラスのみんなは、異世界の事なんて何も覚えてない……わけじゃなかった。

 カードになったまま、何もかも、全部を見てきていたらしい。

 え、じゃあ、橋野本くんと糸井岬くんは意識があるままコスト消費されたの?

 あ、考えない事にしよう。


 で、これはびっくりしたんだけど……マドンナと、階さんと、熊岡くんがいた。


「え、なんで!? 三人ともあっちの世界に残ったんじゃないの?」


「残ったわよ?」


 マドンナが、凄く落ち着いた風に言った。


「ちゃんと、あちらの世界の人間として生きたわ。やることはみんなやったわね。本当に満足したわ」


 ……なんだろう。マドンナが凄く老成してる。間違いなくマドンナなんだけど、すっごい違和感。


「間戸さん、あなた、ちょっとおかしくなってる……?」


「それはそうよ。私も、瑠美奈も、熊岡も、みんな向こうの世界で人生を全うしたんだもの」


「ええええ!?」


 これは三人を除くクラスの全員の叫び。


「と、ということは、お子さんとかお孫さんとかいるっすか!!」


 新聞屋が食いついてきた!


「子供も産んだわね……。最後はアベレッジと北方の国を切り開いて、領地を作ったわよ。あそこはどうなっているかしらねえ……」


 なんか遠くを見る目をした。

 大人だ。

 階さんはというと、やっぱり別人みたいになっていた。

 自信に満ち溢れていて、なんていうか、全身から達成感があふれ出してる。


「私は四十五歳で死んだんですけどね。ザンバーの子供を産みました。全てをやり遂げることはできませんでしたけれど、私が目指したものは、次の世代に受け継がれています」


「ひえーっ」


 僕と新聞屋は並んでひっくり返った。

 な、な、なんということになっているのだ。

 あ、例によって熊岡くんは話してくれなかった。


 そして、僕たちは日常に帰ってきた。

 僕はいじめられる事がなくなった。

 というか、あっちの世界の僕を見て、僕をいじめようとする奴なんていなくなってしまったのだ。

 女子たちまで僕に優しくなって、とっても居心地が悪くなった。

 彼女たちは僕をいじめてくれても構わない……いやむしろいじめてください!!


 戻ってきたとき、僕たちの時間は巻き戻っていた。

 僕たちがあっちの世界に転移した時から、時計の針はほとんど動いていなかったのだ。

 ということで、マドンナと階さんの話に、僕と新聞屋がひっくり返ってたら担任がやってきて、不思議そうな顔をした。


 家に帰ると、


「お帰りなさぁい」


「あ、帰ってきたわね辰馬! まだいじめられてるの!?」


「そこはちょっとビミョーなことになってまして」


「はあ!? また意味分からないこと言って! 正直に話さないとこうよ!」


「ひゃあ! 小鞠さんのコブラツイストだあ!! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 姉も小鞠さんも普通どおりだった。


「そう言えばね、小鞠ちゃん」


「うん? どうしたのよ洋子」


「一年生に、編入生でね、外人さんが来たのよー」


「二組にもいたわよね? 何かしら、外人ラッシュ?」


「さあー」


 姉と小鞠さんの高校に編入した外人さんなら知っている。

 マドンナが、彼女の身請け人になったのだ。

 紫の髪のお姫様は、見るものみんな珍しいらしくて、休日のたびに僕と新聞屋を引っ張り出す。

 今度の休みにも、色々と予定がたくさん。

 嬉しいような、大変なような……。


 そうそう。

 こっちの世界に来て、僕たちが持っていた能力は消えた。

 覚えた魔法も、技も、みんな消えてしまった。

 僕たちは普通の中学生に戻ってしまったのだ。

 あれは、ベルゼブブがあの世界の力を使って僕たちに配っていた、借り物の力だったわけだ。


 普通の中学生になった馬井くんと出羽亀さんは、清く正しい中学生らしい交際をしてる。

 彼は凄く目立つようになって、委員長を押しのけてクラスのリーダーシップを取る事も多い。

 委員長はと言うと、なんかクラスのみんなに大変恐れられるようになって、彼女の言葉に逆らうクラスメイトは、あの時の仲間以外いない。

 富田くんは、まあいつも通りだ。

 友達とつるんで、いつも馬鹿な話をして笑ってる。

 ただ、変わったのは、僕を変にリスペクトしてくるところだ。他のクラスの人が僕をいじめにくると、富田くんが体を張って守ろうとしてくれる。

 ありがたいんだけど、なんかむずがゆい。


「ぎゃっ、黒猫が横切ったっす!」


 隣を歩いていた新聞屋が大げさな悲鳴をあげて飛び跳ねた。

 僕は咄嗟に反応できなくて、黒猫と正面衝突……というところで、猫は僕をするっと避けていった。

 かわりに衝突したのは……。


 ブレーキの音がして、何か重いものがボーンと飛んでいく音がした。

 僕は頬をぽりぽり掻く。

 見上げると、僕に追突したスクーターが電信柱にひっかかって黒い煙をあげている。

 腰を抜かした運転手の人は、僕を見て、唖然。


「やばい、逃げよっか、新聞屋」


「新田さん」


「に、新田さん」


「おっけー!」


 新聞屋……新田さんが僕の手を握って走り出す。

 そう。

 まあ、もうじたばたしても仕方なくなって、僕たちは付き合うことになって……。

 こうしてごく普通の中学生として過ごすことになったのだ。

 ただ、ちょっとだけ僕は、人よりも打たれ強い。人より頑丈。だけど、とろいのは変わらず。


「あっ」


 つるんと、僕は何もないところで転ぶ。


「うおっ!」


 新田さんから手が離れて、思わず掴むものを求めて手が空をひっかいた。

 そしたら引っ掛かったのが、新田さんのスカート。

 転ぶ僕の体重がかかって、スカートがストーンッと落ちてしまったのだ!


「ぎゃーーーーーーっ!?」


 新田さんがすっごい悲鳴をあげて、


「ええい、張井くん死ねえええ!!」


 見事なキックが僕を襲った。

 これ!

 このリアクションだよ!

 僕の心が満たされていく。

 割とすぐに手が出る彼女となら、まあ上手くやっていけるのかもしれない。

 脳天を貫く衝撃を覚えながら、僕は満足げに頷いた。


『HPがアップ!』 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ