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第七十二話:ドMとラストダンジョンと見送りの悪魔ようじょ

 ちょっとのんびりした後、僕たちはディアスポラを後にした。

 これが最後だって思うと、なんだか名残惜しい。

 ぐちゃぐちゃした雑多な街並みが遠ざかっていく。

 フレートみたいな大げさな見送りは無い。

 ディアスさんと、僕と新聞屋に関わった人たちだけがひっそり見送りに来た。

 彼らは、僕たちが異世界から来たってことを知ってたみたいだ。


「あんな魔術、見たことも聞いた事もありませんしな。二人の魔女にしても、ブンヤー様にしても、突然我々の前に現れましたから。伝承に聞いた、異世界からの旅人であろうと思っておったわけですよ」


 ディアスさんはわっはっは、と笑った。

 そんなこんなで、ディアスポラでこれからの道行きの食料を分けてもらって、いざベルゼブブの住むお城なのだ。

 ここから途中には、もう何も無い。

 ひたすら真っ直ぐに道が進み、人が住む集落も全く無くなった。

 やがて、荒野の真ん中に突然その城が現れた。


「うわっ、なに、あれ」


 出羽亀さんが顔をしかめる。

 彼女には、お城のステータスみたいなのが見えてるんだろうか。


「分かるわよー。あれ、お城なんてものじゃないわ。あれそのものが、魔法がかかった巨大な……アトラクション? そういう風に出てる」


「さすがベルゼブブ、その辺徹底してるなあ」


 僕はふむふむと感心。

 すると、馬井くんが怪訝な顔でこっちを見てきた。


「張井、まるで奴のことをよく知ってるみたいな物言いだが……あれ以降に会ったのか?」


「うん、エリザベッタ様を治した時に会ったよ。あの時はとても勝てないなーなんて思ってたけど」


「うおお、張井からなんだか自信みたいなものを感じるぜ……!」


「亜美ー、頼りがいのある彼でよかったわねえ」


「や、やめるっす!? さと子、ここであっしの精神にダメージを与えて何か得する事があるっすか!?」


「でも正直……私はトラウマ」


「……あの時はホント……ホントごめん!」


 委員長とマドンナのやりとり。

 マドンナ大人になったなあ。それを笑って許してる委員長も成長したものです。


「ハリイは何ニコニコして二人を見てるの?」


「子供の成長を見守るお父さんの気持ちですよ!」


「ふうん」


「あ……扉が見えてきました」


 階さんが声をあげた。

 彼女が指差す先に、荒野のど真ん中に立った大きな門が見えている。

 門だけが一つ、どーんと突っ立っているんだ。


「怪しい……なんてもんじゃないっすねえ……」


 新聞屋の呟きが、僕たちみんなの気持ちを代弁してた。

 そして、僕らの目の前で扉が開いていく。

 そこに、奴が立っていた。


『ようこそ諸君! わずか一年でここまでやって来られるとは……! 僕としては、嬉しい誤算だったよ。さあ、ここから先が、君たちの求めた帰り道。そこに続く最後の試練だ。せいぜい僕を楽しませて欲しいな』


「ベルゼブブ……」


 委員長が青ざめた顔でその名を呼んだ。マドンナが、彼女の肩をぎゅっと抱く。

 出羽亀さんは、そいつが立体映像だっていうことを伝えて、馬井くんは彼女が差し出した手を握っている。

 階さんはいつもみたいに、あんまり表情を変えてない。だけど、呼び出したカードファイルを握る手が真っ白になっている。

 富田くんは、「ななな、なんだよ、大したことないぜ」虚勢だけど、今はそういう元気って大事だよね。

 熊岡くんは無言だけど、いつでも剣を抜けるようにしている。

 エリザベッタ様、鼻息も荒く、両手を握りしめて「やるぞー!」

 で、僕と新聞屋はというと。


「ねえ張井くん。いい加減こいつのドヤ顔に付き合うの、めんどくさいんだけど」


「あっ、新聞屋、やる気だね」


「もちろんっす! ぺらっぺらの門の内側、見たところなんかダンジョンが広がってるっす。ってことは……ここってどこにも繋がってないかもしれないっすねえ……」


 いやーな笑みを浮かべた。

 ベルゼブブ、それを見て首をかしげる。


『うん? どうするつもりだい?』


 ちょっと彼の顔が引きつってる気がする。


「ふはははは!! あっしは人が嫌がることを率先してやるのが大好きなんすよ!! まずは小手調べぇ!! ”光の黙示録ライトニングアポカリプス”!!」


『や、やめろーっ!?』


 ベルゼブブが焦った顔、初めて見たかもしれない。

 本邦初公開、新聞屋が放つ超広域殲滅魔法!

 僕はみんなを全体ガードで守る!

 まず、周囲に光の波紋が広がった。

 で、目の前にある門に大部分が飲み込まれた。そのお陰で随分規模が小さくなったみたいだけど、それでも荒野全部を飲み込んだかもしれない。


「行くっすよ……!」


 意識して放つのは初めてな新聞屋だ。緊張で声がかすれてる。

 僕は、彼女の手をぎゅっと握った。新聞屋は振り返ると、ちょっとだけ笑顔になった。


「……炸裂っ!!」


 なんだその叫びは!? とか思ったけど、新聞屋が宣言した瞬間、視界が全部金色に染まった。


「うおああああーっ!?」「ぐおおおお!?」「…………!!」「きゃあああああ!?」「ひええええ!」「うひえええええ!」「ふむううううう!?」「きゃーーー!! すごーい!!」


 最後のはエリザベッタ様だね。


『うわあああああ!? ぼ、僕の迷宮があああああ!!』


 何もかも、視界にあるものが全部粉々に砕かれて消滅していく。

 ゴゴゴゴゴ、という重低音が響き続けているけど、これが何もかもが形を失っていく音なんだろうか。

 あのなんか意味ありげな門ですら、形を失って粉々になっていく。

 その向こうにやたらややこしいダンジョンが見えたけど、それも全部、何もかも消滅!

 ついでに、ベルゼブブの城も巻き込まれて消滅!!


 物凄く長かったような、ほんの一瞬だったような気もする。

 だけど、目を開けるとそこには……。

 見事に何も無かった。

 僕たちが立っているところだけが小高く盛り上がり、他は全てクレーターみたいに陥没してる。

 更地どころじゃない。

 地面を抉り取ってしまったんだ。

 少ししてから、どうやら何もかも消滅したわけじゃなくて、分解されて吹っ飛んでたらしい。それらが雨みたいに降ってきてクレーターを埋めていく。

 で、新聞屋の魔法の威力を一手に受けた僕のHPがごそっと減り、ステータスがモリモリ上がった。

 

「やれやれ、しゃれにならないです」


 聞き覚えのある声がした。

 頭にくるりんとした角を生やしたようじょが、僕たちの目の前に浮いている。


「あ、グレモリーちゃん」


「ハリイ、アミ、おわかれをいいにきたです」


「うーむ、グレモリーちゃんは無事だったっすねえ」


「アミのまほうがおわるのをまって、ゲートでてんいしてきたです」


「なるほどー」


 さすがに付き合いが長い悪魔ようじょ。

 色々分かってる。


「グレモリーがベルゼブブまでのみちをつくってあげるです。あいつ、いまショックでまっしろです。やるならいまです!!」


 なんか力強く拳を握ってみせる。


「あれ、グレモリーちゃんってベルゼブブ嫌い?」


「あいつをすきなあくまなんていないです」


 嫌われてるなー。

 ちなみに黒貴族って、重要な役割を持ってるからそういう地位にいるだけで、悪魔たちを支配してるわけじゃないんだそうで。

 名前がある悪魔はみんな、独立採算制なんだって。


「アリトンだけはぶかみたいに、あくまをかかえてるですね」


「ほうほう」


 まあそのアリトンっていう悪魔に会うこともないだろう。

 僕たちは、グレモリーちゃんが作ってくれた道に向かって踏み出した。

 それは、消滅してしまったベルゼブブの城に向かう道なんだけど……明らかに、それよりもずっと上空に向かってる。

 あの城も本当にアトラクションで、あいつの住んでる城じゃなかったのだ。


「あ、最後にグレモリーちゃん」


「なんですか?」


 グレモリーちゃんがきょとん、として首をかしげた。かわいい。


「ヴェパルさんっていう悪魔の女の子が、グレモリーちゃんを好きなんだって」


「ほー」


「うおー、張井くんそれを本人がいないところで漏らすっすか……!」


「ハリイはデリカシーがないよねー」


「ねー」


 なんだか新聞屋とエリザベッタ様が結託している気がする!!


「なるほど、こころにとめておくです」


 グレモリーちゃんはそう言うと、僕と新聞屋に近づいてきて、その手をぎゅっと握った。


「あくまがこんなこというのは、へんですけど。がんばるですよ」


「ありがとう!」


「任せるっすよー!」


 グレモリーちゃんは、ばいばい、と手を振って、ゲートの魔術で消えていった。


「……あれって、一年前にいきなり襲ってきた悪魔じゃねえか?」


「おっ、富田くん覚えてたんだ」


「衝撃的な事件だったからな……。あれで張井と新田が三、四ヶ月行方不明になっただろ。完全に死んだと思ってたんだぜ」


「まさか友達になっていたとは……」


「悪魔って言うけど、凄く人間的な人ばかりだけどなあ」


 多分この世界に残って調べる事ができれば、もっと色々な事がわかってくると思う。

 僕と新聞屋は、そういう世界の入り口にいた。

 だけど、僕らは元の世界に帰ることを決めている。今、僕たちがどうこう言うことじゃないかな。


「さあ、行こう」


 僕の言葉に異を唱える人はいなかった。

 みんなで、上り坂を歩いていく。

 足元に広がっているのは、一面の荒野……どころじゃなくて無尽の地。

 あそこのどこかに、ベルゼブブが作ったラストダンジョン(笑)の欠片が埋まってるんだなあ。

 そんな事を考えながら歩いてたら、あっという間にゴール地点に到着した。



 いきなり、広い広い部屋に出た。

 あちこちに、作りのいいテーブルが並んでいる。

 テーブルの上にあるのは、ボードゲームとかカードゲームの数々。

 あれ? こういうゲームって、この世界だと見たことが無いんだけど。明らかに僕たちの世界で作られたような電源を使わないゲームがたくさん並んでいる。

 そんなゲームの山の真ん中で、豪華な椅子に座っている銀髪の少年。

 こいつがベルゼブブだ。


「なんてことだ……」


 なんか凄く凹んでいた。

 顔を覆って、天を仰いでる。


「こつこつ、三百年掛けて作ったのに……。本邦初公開だったのに……」


 ダンジョンのことかしら。

 あまりに落ち込んでいるので、ちょっとかわいそうになってきた。

 そうしたら、ベルゼブブ、溜め息をついて目頭を揉んで、なんか柔軟運動をし始めた。


「何してるっすかね?」


「気分転換じゃないかな。ストレスのセルフケアって大事だよね」


「原因の張本人である君たちに言われたくは無いな……。だけど、やってしまったものは仕方ない。君たち二人はそもそもバグなんだしね。だから」


 次の瞬間、立ち上がったベルゼブブが物凄い気配を発した。

 そこにいるだけで、周りの空間がゆがんで見えるような、そんな存在感。


「せめて、楽しませて欲しいな。見事僕を倒した暁には、君たちには元の世界に戻る権利を与えよう!」


 いつの間にか、彼の背中には真っ赤なマントが出現してて、ぶわーっとそれがはためいた。

 ラスボスとしてのモチベーションを保つこの努力……!

 こいつは凄い奴だと僕は思った。

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