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第七十一話:ドMと歓楽の都と残念プリンセス

 旅をどんどん続ける。


「おっ、あんなところに廃墟があるぜ……。こいつはひでえ。まるで町が一つ隕石の雨に飲まれたみたいだぜ!!」


 御者担当の富田くんの言葉だ。

 うん、すまない。

 それは僕と新聞屋とエリザベッタ様がやった結果なんだ。

 反省はしていない。


「あっ、なんか懐かしいよね。ここでハリイとアミが初めてキスしたんだよね」


「えっ」「えっ」「えっ」「えっ」「……」「えっ」「えっ」


「ぎゃ、ぎゃわーっ!? な、なんでここでその話をぶちまけたっすかー!?」


 集まる視線に耐え切れず、新聞屋が荷馬車を飛び出した。

 凄い動きでガサガサガサーッと幌を登っていって真上に乗っかってしまう。


「うあー! うああー! せ、せっかく記憶が薄れていたところだったのにぃぃ!! 殺生すぎるっすよエリザベッタ様ああああ」


「エリザベッタ様は僕らのやってきた恥ずかしい事とか洒落にならない事を結構たくさん知ってるからなあ」


「うふふ、でも、あれももう半年以上前になるのね。本当にあっと言う間だわ」


「張井くんと新田さんがキス……!? ま、まさかそこまで関係が進んでいたなんて……! 不純異性交遊、うらやま……いえ、けしからんことだわ!」


 委員長がちょっと本音を漏らした。

 出羽亀さんなんかは面白そうな目をして、幌の上に逃げ込んだ新聞屋に声をかけている。


「ちょっと亜美~! どうして私に話してくれないのよ、水臭いわねえ! あんたやっぱり張井くんと付き合ってたんじゃない! 私とあんたの仲でしょー! 詳しい事教えなさいよー!」


「や、やめて欲しいっすー!? あっしが悪かったっすー!!」


「くっ」


「……」


 富田くんと熊岡くんが沈痛な面持ちをしている。

 そうか、二人ともまだなんだね……。

 ……!?

 馬井くんが余裕っぽい顔をしているぞ。何「さと子、かわいそうだからあまり言ってやるなよ」なんだ? ま、ま、まさか君も出羽亀さんとキスとかしてるのか!?

 くっ、なんて主人公っぽい奴なんだ……!


「張井、なぜ俺をそんな仇を見るような目で……」


「まあ、ちょっとショックと言えばショックよね……。未練があったんだわ」


 マドンナはケロッとしてたけど、さすが、新しい恋を見つけた女の子は強い。

 その分、委員長のダメージが凄いみたいだけど。なんか荷馬車の床の上でじたばたしている。


「くううっ、もうっ、もうっ、もうっ、リア充どもは死ねばいいのに! 死ねばいいのに! ああああ、また人を殺すビームの能力に目覚めそう!!」


 お願いだから目覚めないで!?

 その後ろで階さん。

 じーっと僕を見ている。


「張井くん」


「はい」


「聞きたい事があります」


「なに?」


「キスはどういう味がしましたか」


「ぶはっ」「ぶほっ」「ぐわーっ!」


 マドンナと委員長がむせて、上で新聞屋が断末魔の悲鳴をあげた。これは致命傷だったかも分からんね。


「実はキスなどという生易しいものじゃなかったんだよ。あの晩、新聞屋はひどく酔っていて……」


「ほうほう」「ごくり」「え、え、まさか、もっと先の大人の階段を……!? いやー!? 不潔! で、でも気になる!」「へえ、亜美がねえ」


 女子たちの反応は様々。

 男子はなんだかもじもじいづらそうにしている。


「ぐわわーっ!! こ、こうなったら、みんなを殺してあっしも死ぬしかないっすー!!」


「張井くん、亜美の魔力が膨れ上がっていくんだけど、あれを何とかしないと冗談抜きでこの世界が滅びるかもしれないわよ」


「ええー……。仕方ないなあ……”魔法カウンター”!」


 発動しかけていた、未知の大魔法を打ち消しておいた。

 そんな僕たちが向かう先は、歓楽都市アッバース。

 委員長やマドンナにとっても因縁の地なんだけど、幸いというか何というか、彼女たちに敵意を持っている人たちは全部新聞屋が消し飛ばしている。実は二人にとっても安全な都市になっているのだ。

 最近だと、ディアスさんの町ということでディアスポリスとか呼ばれてるみたい。呼びにくくない?


「よく言われますよ」


 出迎えてくれたディアスさんも同意していた。


「じゃあ、なんかディアスでポリスっていうのをもじって、ディアスポラとかなんとかいう名前にしておけばいいんじゃないですか?」


「お、それ呼び易いですな。それにしましょう」


 ということで、元アッバースの都はディアスポラという都に変わった。


「張井、お前、なんでこの都市の偉い人と対等に会話してるんだよ」


「あれ、言ってなかったっけ? この街の創始者が僕と新聞屋なんだけど」


「聞いてないよ!?」


 おお、富田くんが物凄く驚いている。



 ディアスポラは平常運転だった。

 この街を襲いに悪魔たちがやって来たようだったけど、傭兵を集めていたディアスポラは上手い事撃退したらしい。

 運よく、SMクラブを利用していた人に準勇者級の傭兵がいたそうなんだ。

 その人とはとても分かり合えそうな気がする!


「しかし、人魔大戦を乗り越えて、この都は一層栄えていくばかりですな!」


「はっはっは、あっしらの見る目は確かだったっすな! こうなる事を見越してアッバース……いや、ディアスポラにあっしらは投資していたっすよ!」


「おお、魔女ブンヤー様!! なんというご慧眼!」


 新聞屋が口からでまかせ、尻から屁まかせなことを言ってるのはディアスさんも分かってるみたいで、適当にノリを合わせてくれる。

 本当によく出来た人だなあ。


「あーっ、そ、そ、そこにいるのはへっぽこ魔術師!! お前ー!!」


 なんか甲高い声が聞こえた。

 見覚えのある女の子が、どだだだだっと凄い勢いで走ってくる。


「おやあ? あんたは誰だったっすかねえ? はっ、さてはあっしのファンっすね! ハハハ、人気者は辛いっすなあ」


「死ねえ!!」


「もぎゃーっ!?」


 あ、思い出した!!

 砂漠で出会ったお姫様で、ベレッタさんだ。

 育ちがいいのに、とても卑屈で卑怯なお姫様なのだ。どこか新聞屋に似てる。

 この二人、同族嫌悪で大変仲が悪い。


「おーまーえーがー!! 砂漠を密林にするからーっ!! 開拓が大変じゃありませんかーっ!!」


「ぐわーっ! マウントパンチぐわーっ!! 張井くん助けぐわーっ!!」


 おー、見事なマウントからの駄々っ子パンチだ。

 見れば、ベレッタさんと一族の人たちがこの街にやってくるところだったみたい。


「ちょっと資材の買い付けにきたのですわよ! あの密林に私たちの帝国を築くんですよ! この未来計画! さすが私ですね!!」


「……張井くん、なに、この人」


 出羽亀さんが自己完結するベレッタさんに、大変戸惑った様子で尋ねてきた。


「こういう人なんだ。深く考えてはいけないよ」


「な、なるほどね……。亜美が二人に増えたみたいだわ」


 委員長とマドンナも同意する。


「ベレッタさん、国の名前は決まったんですか?」


 僕が聞いたら、彼女はえっへんと薄い胸を張った。

 この世界の女の子は胸を張るのが好きだなあ。


「ガルム帝国ですわよ! もちろん! 私が初代皇帝ですよ!! さすがですね!」


「うおう……俺、あの女の子苦手だわ……」


 富田くんがげんなりした表情をしてる。

 馬井くんもあまりお近づきになりたくはないようだ。


「あら、どうしたんですか? さては、私の凄さに気づいてみんな押し黙ってしまったんですね! ふふふ!」


 彼女は得意げ。

 それを下敷きになっていた新聞屋が蹴り倒した。


「でえーい!! いつまで上に載ってるっすかー!!」


「ぎゃーす!」


 ベレッタさんのお付きの人たちも、なんか呆れた様子で見守っている。

 うんうん、命の危険があるわけじゃないし、この人ずっとこのノリなら、真面目に付き合い続けてたら過労死しちゃうもんね。

 結局彼女は、僕たちに自慢しに来た……わけではなくて、たまたま再会したので声をかけただけらしい。

 それだけでこの騒がしさ。恐ろしい。

 でも、僕たちが関わった元砂漠である密林も、何かと事態は進展しているみたいだ。

 きっと僕たちがいなくなっても、世界は動いていくし、変わっていくんだろう。



 夜になると、富田くんが熊岡くんを誘って外に出かけていった。

 あれだね。

 大人の男になりに行くんだね……!

 SMクラブは、いいぞう……!


「いやー。違うんじゃないっすかねー? あっしは違うと思うなー」


「そうよね、ハリイは趣味が特殊だもん」


「なんですって人聞きの悪い!」


 馬井くんは出かけて行きたそうだったけど、出羽亀さんが凄い目で睨んでくるので、夜の歓楽街に繰り出せないでいる。

 こう見えてディアスポラって、結構安全な街だ。

 国が運営してるわけじゃないから、この街にいる人それぞれがルールを守って暮らさないと、この都市を維持できない。

 だから、店の人も、住んでいる人たちも割りと意識が高い。プロ意識も高い。

 自警団があって、それが凄く細い路地まで、一晩中くまなく巡って歩いている。

 ということで、多分この世界でもトップクラスに安全なんだけど。


「なんだか、ねえ」


「いかがわしいわよね。ちょっと夜に出歩く勇気は無いわ」


 僕と新聞屋が築き上げた、現代日本なみの安全度なのに!

 欲求とかそういうのは、全部お店で発散できるので、道行く男の人たちはみんな賢者モードだ。

 お金がないとそもそも街に入れてくれないので、お金を使わずに女の子を襲うような人は入り込めない。

 ただまあ、女の子一人で出歩くのは良くないよね。それはちょっと危険かもしれない。


「え、瑠美奈が一人で出て行ったわよ」


「なんですって」


 階さんは何をしているのか!

 僕は慌てて彼女の後を追って飛び出した。

 幸い、興味深げに怪しいお店の様子を観察しているところを保護する事ができた。


「男女の生態を研究していたのです」


 平然とそんな事を言うけど、なんだなんだ。

 この間のキスの話といい、今日といい、もしや階さんにもついに思春期がやってきたとでも言うのだろうか?

 この局面で!?

 でも結局のところ、その後何も起こることは無かったのだけど。


「うーむ……私もそうなるのでしょうか。ちょっと想像がつきません」


 誰か階さんが気になる男性がいたり?

 いや、まさかね。

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