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第七話:ドMと姫騎士と陰謀の帰郷

 騎士団は手加減というものを知らないっぽい。

 山賊たちはみんなやられてしまったようだ。

 だけど、彼らから、何者かが命令を出したのじゃないかっていう証拠みたいなものは見つからなかった。


「おええ」


「えろえろえろ」


「うっぷ……」


 グロ耐性のない女子三人が並んで、口からえれえれ状態だ。

 なます切りの死体がゴロゴロ並んでいればそうもなるだろう。

 僕は多少Mっ気がある人間として、いつでもああなる覚悟はできているので大丈夫だ。

 他の男メンバーの事は気にしない。


「結局どういうことか分からなかったんですね」


「ああ、奴らの目的が何だったのか、分からずじまいだ」


 エカテリーナ様は難しそうに眉をひそめている。

 年齢は16歳らしいけれど、らしくない大人っぽさだ。

 背丈は僕と変わらないくらいなのに、雰囲気からかずっと大きく見える。

 胸とかは大きい。


「なんで……。一体、なんでなんだ……!」


 打ちひしがれているイヴァナさん。

 彼女も山賊たちと同じ、悪魔との混血だから、彼らがとち狂って襲ってきたのが理解できないらしい。

 イヴァナさんを見てると、うちの僕をどつく女子とあまり変わらないので、普通の人間のメンタリティなのになあ、と思う。


「イヴァナさん、僕がいるじゃないですか。元気を出してください」


 僕が馴れ馴れしく彼女の肩を抱こうとすると、鋭い腹パンが僕のみぞおちをえぐった。


「ふぐぅあっ! こ、これはこれで、なかなか……」


 僕はぶるぶる震えながらうずくまる。


『HPがアップ!』

『愛がアップ!』


 ちなみにこの世界の僕たちなんだけれど、他の人たちは首やお腹を切られれば致命傷だけど、異世界からやってきたクラスメイトたちは、正しくHP制みたいだ。

 何をされても、HPがゼロにならないかぎり死なないって言う感じ。

 逆に、こっちの世界の人は部位HPかな。首とかを攻撃されるとダメージが何倍にもなるみたい。

 その代わり、総合的なHPはこっちの人のほうが、初期値は多い。

 今は僕もかなりHPが高くなってるんだけど……なぜか、女の子からのどつきは僕に素晴らしいダメージを与えてくれる。

 お陰で今日も僕は強くなれます!


「ああっ、す、すまん。いつもの癖で……」


 イヴァナさんが慌てる。

 いけない!!

 ちょっとデレかけているんじゃないか? それは良くないですよイヴァナさん!!


「よし、ひとまず遠征は切り上げ、国に戻るとしよう!」


 少し考えたあと、エカテリーナ様はそう宣言した。

 イヴァナさんは言わば捕虜で、僕たちは異世界からやってきた客人という扱い。

 だけど、イヴァナさんは反抗的ではないので、僕たちのお付ということにして今は動けるようにしてるみたいだ。

 反抗すると絞まる首輪みたいなのを付けられているけれど。


「……お前は変わったやつだな」


 帰りの行軍の最中、イヴァナさんにしみじみ言われた。

 彼女って、小麦色の肌に角を生やしたワイルド系美人なのだけど、割りと中身は普通の女の子なのだ。

 年は15歳だって。


「あたしは村では結構もてたんだぞ。なのに、あたしに好かれるのが良くないだと?」


「そういうことではないのです!」


 僕は力説した。


「一人の女性の好意を受けてしまうと、他のみんなが僕をどついてくる時に、かばってしまうじゃないですか! それは違うんです!! 僕は、美しい女性たちが和気あいあいと僕を殴り倒す世界を求めているんです……!!」


 グッと拳を握った。

 イヴァナさんは僕に、気持ち悪いものを見る目を向ける。

 ひええ。


『魔力がアップ!』

『魅力がアップ!』


「ねーっ? 張井くんはきしょいっすよねー? なのでイヴァナさんも遠慮せずに殴ればいいっすよー!!」


「亜美はやり過ぎだと思うけどな、うちは。棒はやり過ぎ」


「なんですとお! じゃあ、さと子はどこまでセーフだっていうんすか!」


「張り手よ! むしろ張井くんにはご褒美だわね」


「な、なんとぉぉぉぉーっ!?」


 鋭い眼差しにショートカット。

 実にかっこいい女子の出羽亀さと子さんは胸を張った。

 残念ながら、その胸は新聞屋に比べると歳相応なのだ。

 だがそれもいい。

 僕はおっぱいを差別しない。

 しかし張り手とは……!

 肉体をいじめるだけでなく、精神にくる素晴らしいお仕置きと言えよう。

 さと子さんは流石だなあ。


「新聞屋も見習った方がいいよ」


「なんだとぉー!! そんな事をいうのはこの口かあー!!」


 躊躇なく僕の顔面を殴り飛ばす新聞屋。

 堂に入ったものである。


『HPがアップ!』

『体力がアップ!』


 それで、階さんは相変わらずみんなの輪に入らず、っていうか入れなくてぼっちである。

 彼女が、死んだ生徒たちを回収する役割である以上、とっても重要な立ち位置にいるんだけど、それはそれ、これはこれなのだ。

 僕としても、僕を殴ったり罵ったりして来ない彼女の扱いには困る。


 そんなこんなで、旅は一週間ほど続いたよ。

 僕はラッキースケベで、新聞屋の着替えに遭遇したり、新聞屋の水浴びしてるところに転げ落ちたり、新聞屋が滑って転んで僕の顔の上に座ってしまったりしたけど、なんで全部新聞屋なんだ!!


「それはこっちのセリフっすよ!! さては張井くんあっしに気があるっすね!!」


「……」


「な、なんすかその顔はあああああ!!」


 ということでイリアーノの国内に入った。

 今まで、遠目に海を見ることはなかったけど、この国に入ると海沿いの街道を行くことになる。

 内海だから、荒れることも少ないんだって。


 一度通り過ぎたのは、イリアーノの中にあるルキフルスというちょっと変わった街。

 街がまるごと、庭園と教会で出来ていた。

 この世界にもキリスト教みたいな宗教があるんだなあ。


「この風景はルネサンス期のヨーロッパのものに近いですね。文化レベルはそれなりに高いようですけれども、あちらこちらの装飾などが、キリスト教様式とは異なっているように思います」


 階さんがぶつぶつ言っている。

 彼女は成績もいいし、勉強熱心だし、知識だってすごい。

 すごいんだけど、誰も彼女の話なんか聞いちゃいないのだ。眠くなるから。

 だけど、僕としては、階さんには殻を脱してもらわなくちゃならない。

 もっと気軽に、僕を蹴ったりなじったりして欲しいのだ!

 ということで、近しい姦計……じゃない、関係になるべく。


「ふーん、そうなんだ! 階さんは物知りだなあ」


「そ、そんな事はないです。これくらい、ちょっと調べれば誰だって」


 あっ、照れた!

 おかっぱ頭の首筋が真っ赤になっている。かーわいい。


「誰でもじゃないよ! 階さんじゃないと分からないと思うなあ! これからも色々教えてね!」


 いじめられっ子である僕だが、僕をいじめてくれたり、いじめてくれそうな雰囲気を持つ可愛い女の子に対しては積極的である。

 自分の欲求を満たす為に、行動を惜しんではいられないからね!!


「あっ! 張井くん!! あっしというものがありながら他の女の子に粉を!! うわっ、自分で言ってて気持ち悪くなってきたっす」


「亜美、脊椎反射で喋るのよくないよ」


 ということで、さらに旅は続き、ついにイリアーノ王国の首都、ロマーヌにやってきたのだ。

 そこは、都市のあちこちにお堀が設けられた、水の都だった。

 授業で習った江戸みたいな感じかな?


 そして、僕たちの到着と同時に、お城から兵士たちが走ってきた。

 エカテリーナ様、当然歓迎されるものだと思って胸を張って出迎えたんだけど……。


「エカテリーナ殿下! あなたに第六王女殿下暗殺の嫌疑がかかっております!」


「な、なんだと!」


「な、なんだってー!!」


 僕たちが強いられている風に集中線を帯びて、叫んだ。

 とんでもないことになっているぞ!!

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