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第六十九話:ドMとクラスメイトとこれからどうするか会議

 四ヶ月くらいに及ぶ人魔大戦が終わって、なんか世界中にホッとした空気が流れている。

 昔の大戦の被害って、こんなものじゃなかったとか言うけど、記録がしっかりと残ってないから正確には分からないんだって。


「だから、私はこの世界の記録を集めて回ろうと思っています」


 階さんが言うと、委員長が噛み付いた。


「階さん、だって、あなたが戻らなかったらみんなが元の世界に帰れないのよ? あなたには、みんなの命を預かっている責任が……」


「これは私にしか出来ません。私がやるべきことはここにあったんです。そのためなら、私はどんな悪い人にだってなります。みんなの命も、人生も、全部背負ってやるべきことをやります」


「うっ」


 階さん一歩も退かない。

 いつも斜に構えた感じで、無粋な突っ込みばっかりして、ハキハキと場の空気を読まないようなことばかり言う階さんが!

 全然別人みたいだ。それに、吹っ切ったみたいで、今はすごく自分に自信を持っているように見える。

 彼女は聖王国から、ザンバーさんと二人でやってきた。

 敵国であるイリアーノを通過するわけにはいかないから、大回りしてやってきて、結構大変な旅だったみたいだ。

 でも、階さんはちょっと逞しくなったように見えた。

 うん、これは説得とか言いくるめるのは無理だね!


「だけどよー、そうなるとうちのクラスの連中、二十人くらいは行方不明のまんまかあ」


「まあ、一大事ではあるな」


 富田くんがしみじみ言うと、馬井くんが頷いた。

 熊岡くんとしては、特に階さんの決定に異論はないっぽい。柱に背中を預けているけど、なーんていうか凄く歴戦の戦士風になっている。


「熊岡はああ見えて、アマイモンの攻撃を二回も弾いたんだぜ」


「えっ、それは純粋に凄いんだけど」


 あれをまともに受けた僕からしてみると、熊岡くんがアマイモンの攻撃を食らったら死ぬ。間違いなく死ぬ。だけど、その前に飛び出してきて攻撃を受けきったわけだから、これは凄い話だ。

 熊岡くんは人魔大戦中、序盤はイリアーノで戦って、イリアーノが落ち着いた頃にこっちに来て戦ってたそうだ。

 イリアーノの兵士も、フレートの兵士も、みんな彼を尊敬の眼差しで見るのはそのせいか。

 馬井くんや富田くんも、一目置かれている気がする。

 みんな立派になったなあ。


「いや、お前と新田はおかしいから」


「えっ、それはちょっと人聞きが悪いよ富田くん!!」


「うむ……あっしたちは割と状況に流されるままに、適当に世界をぶらぶらしていただけっす」


「いやあ……そんなぶらぶらしてた奴が、黒貴族を二人で撃退するかよ。見たぜ、あのドラゴンみたいなのを真っ向から受け止めたの。新田の魔法も凄かった。お前らだけは別格なんだよ」


「なるほどー。道を行くたびに兵士の人とか侍女の人が道をあけてくれるから、嫌われてるのかと思ったよ!」


「あっしはてっきり張井くんが避けられてるのだとばかり思ってたっす! 危うく張井くんと行動するのを止めるところだったっす!!」


「そ、そんなことを考えてたのか新聞屋!!」


『精神がアップ!』


 ガーンって感じだ! ぼ、僕を裏切ったなぁ! なんちゃって。


「あらら、そもそも亜美はさ、そうじゃなかったら張井くんと自然と一緒に行動しちゃってたんでしょ?」


「そそそそんなことはないっす」


 あっ、出羽亀さんに突っ込まれて、新聞屋の動きがカクカクになった。


「張井くんも張井くんよ。あんたたち、どこからどう見ても付き合ってるのに、どうして頑なにそれを認めないのよ……」


 晴れて馬井くんと付き合い始めた出羽亀さん。

 あっちの世界だと、人の色恋とか事件とかに首を突っ込んできて写真を撮りまくる人だったのに、随分まともになったなーと思う。


「ま、こうやって生き残ってるのが、ツッコミ不在だからね。仕方ないんじゃない? さと子がまとめてくれたお陰で、あたしたちはこうして一緒にいられるようなもんだし。あたしは感謝してるわよ」


 あっ、お久しぶりですマドンナさん!


「そっかー。それでさ、マドンナはどうするの?」


「ん、あたし? あたしは結婚する」


「えっ」


「えっ」


「ええっ」


「おおっ」


「はあっ!?」


「ほへー」


「ふむ」


「……」


 僕、新聞屋、出羽亀さん、馬井くん、委員長、富田くん、階さん、熊岡くんがそれぞれに反応した。

 いやあ、なかなかびっくり。


「アベレッジは、ちゃんとあたしの事見てくれるのよ。あたしがやってきた悪い事とか、あたしが性格悪い事とか、全部分かった上で結婚して欲しいって。なんかさ、あたしもあいつの事、好きになっちゃって」


 照れた顔で笑うマドンナ。

 なんか、僕にはそんな彼女が、今までで一番きれいに見えた。

 色々背負ってたものとか、抱え込んでたものから解放された顔だ。


「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ間戸さん!? あなた、間戸グループの令嬢でしょ!? それが帰らないなんて……大事件になるってば!」


 うちのクラスの常識枠、委員長。

 ただ、彼女も大虐殺をやった過去がありますからねー。


「いいのよ。戻ったって、意味があるのはあたしの肩書きだもの。でもこっちでは、あたしはただの間戸小百合でいられる。あたしは、こっちに残る」


 以前は僕の事を好きだなんて、とち狂ったことを仰ってたマドンナ。

 僕としては、なんだかんだ言って人に媚びない彼女が好きだったので、助けた直後よりは今の彼女の方が好ましい。

 うんうん頷いていると、委員長が焦った顔で僕のわき腹をつねってきた。


「あいた!?」


『HPがアップ!』

『体力がアップ!』


 どうやら僕の体力って、可愛い女の子の攻撃に対しては普通に痛がるみたいだ。

 うんうん、この痛み……! いいじゃないかいいじゃないか。


「恍惚としてないでよ張井くん!? このままじゃ、クラスがバラバラになっちゃう!」


「いやー、でも、マドンナが決めたことだし、僕はそれでいいと思うけどなー」


「よっ、幸せもの! その幸福をおすそ分けして欲しいっすなー!」


「なに言ってるのよ。亜美も張井と結婚すればいいじゃない」


「あー、それはー、そのー、なんと申しましょうかー」


 うん、新聞屋はクラスのみんなに決定的な弱点を握られたな。僕もだけど。


「大体、井伊はどうしていまさら、そんなに頑張るんだ?」


 ふと馬井くんが尋ねた。

 そもそも、委員長はマドンナにベルゼブブの前へ突き飛ばされ、クラスのみんなに裏切られてからぶち切れちゃった過去がある。

 それで人間絶対殺すビームの能力に目覚めて、クラスメイトを次々カードに変えちゃったのだ。

 で、そんな彼女と戦ったのがマドンナ。

 マドンナの能力は、目を合わせた人を操り人形にする能力。

 これで、なんかクラスメイトのほとんどがカードになった。つまり一回死んだわけ。

 で、二人はアッバースの町に降り立って、そこで町の人を巻き込んで権力闘争!

 聞いただけでも四桁近い人が死んだらしい。

 で、その後で新聞屋が町を吹っ飛ばして五桁近く死んだのは秘密。


「あれは事故っすなあ」


 遠い目をして新聞屋が言った。


「事故よね」


 マドンナが同意した。


「そ、そう言う事にしておく」


 委員長も同意だ。

 正直な話、この世界って命が軽い。だからって殺したのが正しいって訳じゃないけど、そうでもしないと自分が死んでたとか、色々あるわけだ。

 僕たちはこの世界に来てから、そんな風に変わったように思う。


「でもさ」


 委員長は続ける。


「私がそういうの気にしてやらないと、みんなは誰が思い出すっていうのよ」


 いきなり異世界!

 で、特殊能力を与えられて、黒貴族ベルゼブブがクラスメイトを殺して……。

 どうしてもパニックになるし、みんなおかしくなるよね。

 委員長は多分、やってきたことを後悔してるんだろうか。


「まあ、でも、今こうやって生き残ってるのは僕たちだけなんだし。みんなでさ、この世界で、色々やってきて、色々なものを見てきて、色々な事を考えてきたわけじゃない? だったら、僕はみんなの選択を尊重したいな」


「……なんでだろうなあ。張井に言われると反論できねえな」


 富田くんが笑った。

 彼はいじめっ子だったけど、今では僕をすごくリスペクトしてる。


「そうだな。誰よりも厳しい道のりを歩いてきた君が言うなら、俺たちには反論できないよ」


 馬井くんが肩をすくめる。

 彼はクラスで目立たない男だったのに、今じゃみんなのまとめ役だ。


「…………」


 熊岡くんは腕組みをしている。だけど表情は優しい。

 何を考えてるか口にはしないけど、ずっとみんなの盾になってきた男だ。その顔が、僕のいう事を支持すると言ってるように見えた。


「ありがとう……ございます」


 らしくなく涙目の階さん。

 なかなか十五歳で人生最大の選択をするみたいなのって、無いよね。


「はいはい。それじゃ、これからやる事決めなくちゃね。……まあ、決まりきってるだろうけど」


 出羽亀さんが手を叩いて注目を集める。


「ふう……そうよね。まずはこれが終わらないと、これからのこと考える事もできないし」


 委員長はホッとした顔をしてた。

 なんか、僕の言葉で楽になった感じ。


「あの生意気なお子様悪魔に、目に物見せてやろう!」


 マドンナは力強く拳を握る。

 これから行くのは、この世界でも一番やばい相手のところだけど、死ぬ気なんて全く無い。


「よーっし! それではみんな、あっしの盾になれーい!」


 唐突に新聞屋が叫んで、女子たちによってたかってぺちぺち叩かれた。


「ぎゃああああ!? な、何をするっすかー!? クラス最大の攻撃力のあっしを肉壁になって守るのがあんたたち最大の栄誉のはず!!」


「思ってても口にするかなーあんたは」


「最低です」


「新田さんって基本クズよね」


「亜美ぃ~。あんたを盾にしてもいいのよー?」


「グエー」


「仲良き事は美しきかな」


 僕はその光景を見て、うんうん頷いた。

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