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第六十七話:ドMと誕生日と人魔大戦終盤

 ぐるり、三ヶ月くらいかけて世界の半分を周ってきた。

 それを考えると、この世界はやっぱり箱庭みたいな世界なのだ。

 半年もあれば一周できてしまうかもしれない。


 フレートを目前にしたところで、そろそろ、新聞屋の誕生日になった。

 正確じゃないけど、多分この辺ってところで誕生日を祝う事にしたのだ。

 彼女は僕より、一つ年上になった。


「フハハー!! あっしは十五歳!! 年上を敬うっすよ張井くん!!」


「あっー! いきなり新聞屋の態度がでかくなったぞ!!」


「あっしは威張れるタイミングを見逃さない女っすからな!! さあひれふせー!!」


「ははーっ」


「アミはついに成人ね! これでもうすぐハリイと結婚できるわね」


「えっ」


「えっ」


 ノリノリで適当な事をやってた僕たちは、エリザベッタ様の言葉でスッと現実に戻ってきた。


「ねえ、ぶっ飛ばしていい?」


 青筋を浮かべているヴェパルさん。

 僕たちは断じてそういう関係じゃないんだけど、彼女は恋人的人間関係を見るとすごくイライラするらしくて暴力的になる。


「まあまあ落ち着きましょうヴェパルさん。きっとあなたにもわかる時が来る」


「ああ!? 何様だお前ーっ! 偉そうな事はそいつとバッチリ決めてから言えーっ!」


 流れるようなヴェパルさんの連続技!

 膝蹴りからの首投げ、そして転倒した僕をフルネルソンからの見事なスープレックスだ!


『HPがアップ!』

『HPがアップ!』

『体力がアップ!』

『きようさがアップ!』

『精神がアップ!』

『魅力がアップ!』


「おー、見事なスープレックスで張井くんが地面に突き刺さったっすな……! あんた本当に肉弾戦得意っすねえ」


「私の能力は局地戦向けだからな。普段はこの拳で身を守らねばいけない」


 なるほどなるほど。

 僕は地面に半分埋まりながら頷いた。

 グレモリーちゃんも割かし肉弾系なので、二人は案外相性がいいかもしれない。



 フレートの城下町までやってきた。

 とりあえず、僕はポケットマネーで新聞屋にプレゼントを買った。


「おおっ、は、張井くんからプレゼントがもらえるとは……。……これはなに?」


 あ、新聞屋が素になった。

 普段は三下みたいな喋り方してるけど、稀にこの子、素に戻るんだよな。

 新聞屋の手には、僕が買って上げた棍棒が収まっている。リボンで可愛くデコレーションしてあるぞ。


「護身用の棍棒だよ。新聞屋、素手だとてんでダメじゃない。これなら相手を殴るだけだから、ぶきっちょな新聞屋でも安心だね……きゃーっ! 暴力反対!」


「なんて! デリカシーのない! プレゼントっすかー!!」


『HPがアップ!!』

『体力がアップ!!』

『精神がアップ!!』

『魔力がアップ!!』

『愛がアップ!!』


 おっ!?

 プレゼントした棍棒でぼっこぼこにされた僕だけど、なんだろう。

 ステータスの上がり方が凄い!

 しかもアップのよこの!マークが!!になってる。

 さて、ここで久しぶりにステータスを見てみよう!



名前:張井辰馬

性別:男

種族:M

職業:M

HP:2,522,400/3,600,950

腕力:6

体力:963→1,644

器用さ:8→10

素早さ:6

知力:12

精神:744→1,090

魔力:420→770

愛 :1,150→1,833

魅力:39→63


取得技:ダメージグロウアップ(女性限定、容姿条件あり)

    クロスカウンター(男性限定、相手攻撃力準拠)

    全体カウンター(男性限定、固定ダメージ)

    河津掛け(相手体重準拠)

    反応射撃(射撃か投擲できるものが必要、相手攻撃力準拠)

    全体ガード

    気魔法行使レベル4

    毒耐性

    即死耐性

    魔法カウンター


 もうこのHP訳が分からないな……。

 新聞屋のステータスも僕の能力と連動してるらしいから、べらぼうな数字になってると思う。

 ちなみに体力1644っていうのがどれくらいの防御力かというと、


「お前……私の全力で放ったコンビネーションを食らってもケロッとしてるんだな」


「えっ!? あれくらいのことで全力しないでくださいよ!?」


 ヴェパルさんの全力のプロレス技コンビネーションを受けても、あんまり通用しないくらい硬い。

 まあ、周りから見ると、大きな棍棒を振り回す女の子が、隣にいる僕をぽこぽこ叩いてる瑶に見えるんだけど。

 僕が全く効いた風じゃないので、見世物か何かだと思ったみたい。

 おひねりが飛んで来た。


 フレートの城下町はかなりくたびれた感じになっていた。

 この三ヶ月、ずっと戦争をしてたのだ。

 悪魔の襲撃だって色々あったに違いない。

 すっかりみんな戦争に疲れてしまっていた。

 なので、僕と新聞屋のどつきあい……というか、僕が一方的にどつかれる漫才みたいなのは、大いに受けた。

 僕のステータスも上がった。

 散々おばかな事をして満足したので、僕たちはお城に向かうことにした。


「こんにちはー!」


「うお!? お、お前たちはなんだ! ……はっ、あ、貴女様はエリザベッタ王女殿下!! どうぞどうぞ」


 エリザベッタ様の紫色の髪って、滅多にいないというか、彼女以外見たことがない髪の色だ。

 その美貌も相まって、エリザベッタ様ってとっても目立つ。

 街中だといつもフードを被ってニコニコしてるので、あんまり彼女だって分からないんだけど。

 だけど、今日はここぞとばかりに姿をはっきり現している。

 僕たちともう半年近く一緒にいるせいで、エリザベッタ様は物凄く逞しくなった気がする。

 少なくとも手足とかに筋肉がついた。

 正直すまんかった。


「おお、エリザベッタ、無事だったか!」


「アミ、回復魔法!」


「あいさー!」


 迎えに出てきたエカテリーナ様は、足を引きずりながら松葉杖みたいなのをついて来た。

 アマイモンにやられて片足の自由を失ってしまったらしい。


「おりゃー! ”光の治癒(キュアライト)”!!」


 治った。


「なん……だと……!?」


 さすがのエカテリーナ様も目を丸くする。


「で、ではピエールの腕も治せるのか! よし、アミ、ついてこい!」


「お安いご用っすよー!」


 エカテリーナ様、新聞屋を引き連れて、今まさに会議中の大部屋の扉をドーンと開けた!


「うおー!?」


「ぬわーっ!?」


 みんな物凄くびっくりしたようだ。

 目を見開いて、腰の剣に手をかけてこっちを見ている。

 彼らの中心にいたのは、髭の男の人と見覚えがあるピエール王子。

 ピエール王子は前よりも顔に傷なんかが増えてて、左腕がなくなっていた。


「君は、ハリイとアミ! エリザベッタ殿下! 戻ったのか! そして……エカテリーナ、足は、どうした?」


「ああ。治った。今からお前たちも治す」


 エカテリーナ様が宣言した。

 新聞屋は三面六臂の大活躍だ。

 ピエール王子の左腕が生えてきて、死を待つばかりだった騎士が全快して、危篤状態だったフレート王が超元気になった。

 最後は非常に微妙な国家の相続問題がまたややこしくなったらしくて、髭の男の人……第一王子のシャルル様が顔をしかめていた。


「ぐわーっ、あっしは、あっしはもうダメっすー」


 明け方まで酷使された新聞屋が戻ってきた。

 僕は回復とか使えないので、とりあえず割り当てられた部屋で待っていたのだ。

 しおしおになった新聞屋が入ってきて、ベッドに倒れこんだ。


「おー、お客さん凝ってますねー」


 新聞屋の肩がパンパンだ!


「ぐふー、張井くんの肩もみが……あっ、あっ、あんっ、そこ、だめぇ、気持ちいい」


「変な声をあげないで!?」


 すぐに新聞屋、ぐうぐうと寝てしまった。

 いやあ、凄い凄いとは思ってたけど、新聞屋の回復魔法は凄い。

 いや、おかしい。

 ずっと出し惜しみしてたからなあ。何か気が変わったんだろうか。


 翌朝、まだぐうぐう寝ている新聞屋をそっとしておいて、僕はピエール王子とエカテリーナ様と朝食をとった。


「戦況は悪くはない。いや、ここまで持ちこたえて、ついにアマイモンを引きずり出す事に成功はしているんだ」


 ピエール王子の話だ。


「私とエカテリーナで挑んだのだが、それなりの勝負は出来るが、追い詰める事ができない。やはり黒貴族はものが違うというなんだろう。だが、奴さえどうにか出来てしまえば、人魔大戦は終わる」


「そうだ。力を貸して欲しい、ハリイ。この戦いはお前とアミにかかっているのだ」


 ピエール王子とエカテリーナ様夫妻に頼まれてしまった、

 うーん、これはどうなんだろう。

 なんか、この戦いって悪魔側でも意図がありそうじゃない。

 そこに僕と新聞屋が介入しちゃっていいのかな?

 色々、悪魔の目的がおかしな事になっちゃうんじゃないかな。


「いいんじゃねえ?」


 突然声がしたので、ピエール王子は腰に手をやった。

 エカテリーナ様は既に剣を振り切っている。

 二人とも武器を携帯していたんだ。

 エカテリーナ様が放ったのは、剣撃を飛ばす技、隼斬り。これって遠距離抜刀術みたいなものでもあるそうで、とにかく攻撃の初速が速い。

 で、その攻撃の前にいたのはヴェパルさん。


「おらぁ!!」


 隼斬りに向かって拳をたたきつけて無理やり相殺した!


「悪魔か……! ハリイたちについて城内に侵入したか……!」


 どうやら、今までドッペルゲンガーとかが城内に出てきて、城の兵士に化けて暴れたりなんかしたらしい。

 なので、お城の中でもみんな武器を携帯しているのだ。

 ヴェパルさんは肩をすくめた。


「私はもうお役目を終えたさ。デレンセン王国を知ってるだろう? あそこをやったのは私さ」


「何っ……」


 ピエール王子の目が鋭くなる。


「だから、私は仕事を果たした。ここの戦争には関わらないってことだ。私が言ってるのは、ハリイがアマイモンと戦うのは構わないんじゃないかってことだ」


「え、そうなの?」


 ヴェパルさんは頷いて見せた。


「黒貴族どもは、余興半分でやりすぎる事がある。連中の強さは桁外れだが、それだけに手加減が苦手なところがあってな。お前なら全力のアマイモンでも相手できるだろ。満足するまで相手をしてやれよ」


「なるほどー」


 多分、アマイモンはまだ本気ではないということだ。

 それでも、エカテリーナ様とピエール王子はひどい手傷を負わされた。

 で、アマイモンが撤退しない理由は、まだ納得してないから、と。


「分かったよ。じゃあ、僕と新聞屋が行きます」


 とりあえず新聞屋の気持ちとかは横においておいて、僕は高らかに宣言した。

 そんなところで、どこからかラッパの音が聞こえてくる。

 本日の人魔大戦が開戦したのだ。

 よし、今日を持って終戦の日にしてやるとしよう。

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