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第六十六話:ドMと悪魔娘と世界の果てで愛とかを叫ぶ

「この光景を見てくれ。こいつをどう思う?」


「すごく世界の果てです」


 なんか期待されてる気がしたのでそう言っておいた。

 ヴェパルさんは鼻息をむふーと荒くして満足そうだ。


「うおー!? な、な、なんすかこの光景はーっ!! 世界が途切れてるっすー!?」


「あ、そうか、新聞屋は見てなかったんだよね。この世界、空にも果てがあって、その外にも羽が生えた人とかがいるんだよ」


「なんですとーっ!? 新聞部部員としてそんな特ダネを逃すとは……! この新田亜美、一生の不覚っすー!! というか張井くん、どうしてあっしにそれを教えてくれないっすか!? そこは張井くんだけで行ったっすか!?」


「いやあ、それはそのー。新聞屋はその時気が動転してたしー。グレモリーちゃんもいたしで色々大変で」


「あっ」


 いつの事だったか察したみたいだ。

 新聞屋の頬がちょっと赤くなる。


「くっ、い、いっそ殺して欲しいっす」


 なんかそっぽを向きながら僕の脛をぺしぺし蹴ってくる。

 ちょっと痛いけどこれもまたいい感じだ。


『HPがアップ!』

『愛がアップ!』


「あらー」


「おい、お前らボコっていいか?」


 ほっこりしてるエリザベッタ様と、なんか見せ付けられて切れちまったよ状態のヴェパルさん。


「いいか!! 私の前で!! いちゃつくな!! わかったか!!」


「おっ、前向きに努力するよ」


「そもそもいちゃついてなどいないっす!!」


「うふふ」


 そんな訳で、今僕たちは、世界の果てに来ている。

 ここは北の果て。

 目の前に見えない壁があって、ちょうどそこで、地面が一直線に区切られている。

 正しくは、この世界全体を丸く囲んだ見えない壁があるそうなんだけど。

 ここがヴェパルさんのフェイバリットスポットらしい。

 デレンセン王国を出た後、ザハールさんと別れを告げた僕たちは、ヴェパルさんに連れられててくてくとこんなところまでやって来てしまった。

 思えば遠くに来たものだけど、来たかいはあったんじゃないかな。

 見下ろすと、雲海が広がっていて、その隙間から下のほうの世界が見える。

 この世界って凄く上空に浮かんでるのかな。


「まあそういうこったな。人間どもの間じゃ、下の世界は奈落の世界ってことになってる。人間が住めるのはこのガーデンだけってな」


「ほうほう」


「ふむふむ」


「あらあら」


 僕と新聞屋とエリザベッタ様はうなずいた。

 ヴェパルさんは語りたがりみたいなので、とりあえず喋らせておこう作戦だ。


「ここはなあ。私がグレモリーと初めて一緒に昼飯を食べた場所で……」


 なんか彼女の青春の話みたいなのがしばらく続いた。

 もう二百年くらい前の話らしいんだけど、まあどうやら、グレモリーちゃんとヴェパルさんは、悪魔の中ではかなり若い方らしかった。

 で、女の子で名前のある悪魔になれる存在は少ないみたいで、二人ともエリートとして周囲に舐められないように色々大変だったらしい。

 それから、色々あって仲良くなったと。


「だからなあ。ここでこうやって叫ぶんだよ。グレモリィィィィィィッ!! 好きだァァァァァァッ!!」


 おー。

 なんかヴェパルさんの魂の叫びが見えない壁を越えて、外の世界に向かって発される。

 すると雲海に嵐みたいなのが起こって、慌てたように下から羽の生えた人間みたいなのがたくさん飛んでくる。

 で、こっちまで上がってきてからヴェパルさんを見ると、またお前か、みたいな顔をして降りて行った。


「……今のって天使じゃなかったっすか? なんで天使が下から来るっすか?」


「おっ! お前ら天使を知ってるのか。まあそうだよな、外の世界の人間だもんなあ。一応それってこの世界の人間には秘密になってるから話すなよ」


「あらそうなの」


 僕と新聞屋とヴェパルさんの視線がエリザベッタ様に向いた。


「……まあいいや」


 いいんだ。

 ヴェパルさんは現実を見ないことにしたらしい。


「お前らはベルゼブブに挑んで、死ぬか元の世界に帰るかするだろうし、そいつはそのままじゃ、人間の中に混じって暮らせないだろ。だから問題ない。問題ないったら問題ないんだ」


 自分に言い聞かせてるみたいだなあ。

 とりあえず、ヴェパルさんがここで愛を叫びに来るたびに、こうやって騒ぎが起こっているらしい。

 見えない壁を越えてしまえば、ヴェパルさんが嵐を起こす能力も、雲海を乱すくらいしか出来ないとか。

 だけど、天使たちはいつもこの壁が開かないかどうか見張ってるそうで。

 ああやってお疲れ様な視察にやってくるっていうわけなのだ。


「悪魔が上にいて天使が下にいるとか、もうこれ意味が分からないっすな」


「うんうん、普通逆だよね」


「これ以上は話すことはできねえからな! 秘密だぞ!」


 ばれるとアマイモンとかにお尻を叩かれるのかもしれない。なんかヴェパルさんは必死だった。


「それで、僕たちをここに連れてきたのは、この世界の果てを見せるためだったの?」


「うむ」


 力強くヴェパルさんは頷いた。

 本当にそれだけだったらしい。それで、何やら世界の重要な秘密みたいなのをばらしたと。

 この人すごくうっかりなんじゃないか。

 僕たちはこの人魔大戦で大変な時期に、ヴェパルさんに付き合って四日くらい使ったわけだ。

 で、ここからまた四日くらいかけて人里に戻る。

 なんて贅沢な時間の使い方だろう。

 こうしている間にも、人間vs悪魔の戦いは大変な事になってるんだろうなあ。


「私は持ち場の仕事が終わったからもういいんだよ」


「僕たちは終わってないんだけど」


「元々決まった予定とかなかったって言ってたじゃないか」


「うむ、その通りっす」


「今日は面白いものが見れたし、面白い話が聞けたわ。大満足!」


 ということで、四日かけて人里に戻った。

 この世界、ガーデンの北っていうのは、ザハールさんが行ってた通り小さな国がたくさんある地方だった。

 どこかの国はやり過ぎたらしい悪魔に滅ぼされていたし、そうでない国でも大損害を受けて、再建までは何十年もかかるとか言う話だった。

 たまにほとんど被害にあってない国もあって、そういう国はどうやら、準勇者級と呼ばれる強い戦士がいるそうだった。


「ああいう準勇者どもの血統を見極めて、大事に育てる必要があるわけだ」


「なるほどなるほど」


 いちいちヴェパルさんは、大事な機密っぽいのをぽろっと漏らす。

 これって悪魔たちの行動の理由みたいな気がするな。


「でもそれじゃ、ハリイやアミが帰っちゃうと悪魔としては困るんじゃないの? 二人ともとっても強いわよ」


「ああ、そりゃこいつらはイレギュラーだからだ。もう悪魔の間でも多少は有名でな。ベルゼブブが三百年に一度、暇つぶしのゲームをするんだが、第二回目の今回はシステムエラーがあったらしい」


「しすてむえら?」


 エリザベッタ様が首をかしげるけど、僕と新聞屋は突然、元の世界にあったような言葉が出てきてびっくりする。

 まるでコンピューターで何かしらやってるような話だ。


「この世界の中において、召喚されたゲームのコマは能力を与えられる。上限が設けられてるんだよ。だが、二人ばかりバグで上限が無くなっちまった。しかもそいつらは成長要素が深く結びついているときてやがる」


「それって僕たち?」


「ああそうだ。ってことで、お前らがこっちに残ってたとしても意味がないんだ。お前と、そっちの変な耳を生やした女がガキを作るとするだろ。でもそいつには、お前らの能力は受け継がれない。なぜならそのガキはゲームのコマじゃないからだ」


「なななっ!? ああ、あっしが張井くんと子供とか、何を言ってるっすか!」


「うむうむ」


 慌てる新聞屋と、それに同意する僕なんだけど、なぜかヴェパルさんとエリザベッタ様には無視されてしまう。


「それじゃあ二人が残っていても仕方ないのね? 良かったね二人とも。帰れるわよ」


「そいつはベルゼブブに勝ってからの話だな。初回のゲームはベルゼブブが全員を全滅させて終わったからな。表の姿とは言え、あいつが負けるのは想像できないね」


「あら、勝つに決まってるじゃない」


「……凄い自信だな」


「だって二人とも、聖王国でもステップでも名前のある悪魔を軽々撃退してきたのよ? すっごく強いんだから」


「あー……。そっちでは二柱も負けたのか……。まあ滅びてはいないみたいだけど、悪魔の面汚しだなあ」


「一人はグレモリーさんっていう方で」


「グレモリーは優しいからな! お前たちに花を持たせたに違いないぞ!!」


 分かりやすい人だなあ。




 そんなこんなで、僕たちは生き残っている王国に立ち寄って、あちこちの準勇者級の人と交流を持つことにしてみた。


「なんと、ワラル山脈を越えてきたのか! そこでアリトンの城を見た? ほうほう」


 海沿いにある王国の準勇者は、腰にメイスをぶら下げた人だった。

 年齢はそれなりに若い。

 名前はエドガルドさん。


「ああ、うちに来た悪魔は強かったぜ。俺みたいな準勇者は滅多にいないからな。タイマンだよ、もう参ったぜ」


 それでも勝ったんだから大した物だと思う。

 小さな港の王国にいるから、あまり名を知られてない戦士みたいだけど、多分実力的には1ザンバーくらいあると思う(僕が制定した準勇者の強さの基準)。

 とりあえず、人魔大戦を乗り越えて、しばらくは国は再建中。

 エドガルドさんの求心力を使って回りから労働者なんかを集めて、王国を盛り立てていくらしい。

 エドガルドさんは外に行きたがっていたけれど、何日かお話をするだけになってしまった。


「うちは海から悪魔が来たが、海は俺たちの戦場だからな。やっつけてやったぜ。だが備えがない他所はもっと大変かもな」


「あ、確かに二つくらい国が滅びてました」


「悪魔どもは、人間を選別してるのかもしれんな。俺が連中の親玉に勝ったら、サッと引き潮みたいに去っていきやがった。逆を言えば、俺のような存在がいない国はダメだろうな」




 エドガルドさんと別れて、またあちこちの国を見ながら南下していく。

 全体的にエドガルドさんの予想の通りなんだけど、そうとばかりもいえない国もあった。

 例えば、国の兵士全体が聖騎士団みたいに強い国。

 ここは、準勇者とは行かなくても普通の兵士より何倍も強い兵士をたくさん持っていた。

 城壁が壊れてるくらいで国は無事だったから、話を聞いてみた。

 そうしたら、兵士が何十人もかかって悪魔を撃退したんだそうだ。


「そういうパターンもある。判断はそれぞれの悪魔にゆだねられているからな」


 とはヴェパルさんの談。

 そしてまた山を越えて……いよいよフレート王国。

 ここを攻めているのが、今回の人魔大戦の悪魔側総大将アマイモンだ。

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