第六話:ドMと姫騎士と初めての閃き
騎士団を襲う山賊なんてあるのかって思ったが、どうやらこれが悪魔と混血の連中らしい。
翼を生やしたやつや、角を生やしたやつがわんさかやってくる。
連中は剣やら槍やら持っているが、そいつをバンバン振り回して、人間離れしたパワーで木や草をなぎ払う。
迎え撃つのは騎士団だ。
なんか、僕が思ってたのと違う。
彼らは武器を構えると、エカテリーナ様が、
「抜刀! 構えっ!!」
ザッと彼らは身構えた。
「放て! ハヤブサ斬り!!」
剣を持った騎士たちが、一斉に、目にも止まらない早さで剣を素振りした。
いや、素振りじゃない。
振られた剣の軌道がそのまま、真空波になって山賊たちにぶつかっていく。
血しぶきと悲鳴があがった。
「突撃!」
エカテリーナ様の号令に合わせて、騎士たちが駈け出した。
剣と盾を携え、盾ごとの体当たりから剣で切りつける。
多分、その身体能力というのだろうか。
騎士たちの動きが、半悪魔の山賊たちに負けないくらい鋭い。
人間離れした動きに見える。
「どうだ、私の部隊は鍛え上げられている。イリアーノでも五指に入る実力を持っているぞ」
「いや、さすがです」
ぶっちゃけよくわかんないけど、おべんちゃらを言っておく。
僕たちはエカテリーナ様と一緒に後方待機。
そもそも、富田くん以外は武器なんか持ってない。
いや、新聞屋がいつも僕を叩いている棒を持っている。
「ん? あっしがどうしたっすか?」
「新聞屋、教室で二人の男子を盾にして地獄に送ったからなあ。なので僕は君のそばに行かないぞ!」
「ガーン!!」
今口でガーンって言ったよね?
「こ、この可愛いあっしを見捨てて、後ろの冴えない女どもを守るつもりっすかあ! ほ、ほら! あっしが一番上手く張井くんを殴れるっすよ!? この価値、プライスレス!」
「わけがわからないよ!」
「新田さんはやり過ぎたのです。人望を失うのは必然」
「亜美……あんたそういう目でうちらを見ていたのね……」
出羽亀さんと階さんが冷たい目で新聞屋を見る。
「ぶひいいい」
あ、富田くんが山賊に斬られてる。
やっぱり付け焼き刃でいきなり実戦はダメだね!
戦況は悪く無いみたい。
騎士の一人ひとりが、ハヤブサ斬り、かまいたちまでを身に着けているみたいだ。
これは、出羽亀さと子さんとお手々を繋いで確認したから間違いない。
「ああーっ!? 張井くんとさと子、いつの間にそんな関係にぃっ!? ふふふ、あっし、関係の進展に興味があるっすよー」
「やめてよ勘ぐりは。うちの能力は、相手と手を繋がないと視覚を共有できないんだから。もう、気持ち悪いこと言って」
気持ち悪い!!
キマシタワア。
騎士たちのステータスは、流石に僕たちより高い。例えばこんな感じに。
名前:アベレッジ
性別:男
種族:人間
職業:騎士
HP:120/120
腕力:33
体力:33
器用さ:20
素早さ:20
知力:12
魔力:0
愛 :14
魅力:21
取得技:ハヤブサ斬り、かまいたち、シールドアタック
HPだけは僕のほうが高いみたいだ。
まあ、僕たちはまだこの世界に来たばかりの素人だし、ここ数日の訓練をしただけで、割りと強くなっているみたいだからこれからってことだろう。
これは楽勝ペースかな、なんて思いながら、新聞屋、出羽亀さん、階さんに囲まれてハーレム気分でいると、騎士の一人が叫んだ。
「殿下!! 魔物が来ます!!」
「ダイヤウルフ一頭! 上に山賊の頭目らしき男が!」
「突破させるな! ハヤブサ斬りで迎撃せよ!」
「了解!」
騎士たちが身構え、次々に斬撃を飛ばす。
だが、
『うるおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉんっ』
獣の叫び声が響く。
ダイヤウルフっていうのは、普通の狼よりも二回りは大きく、あちこちの毛がまとまり、金属のように固くなった魔物だ。
こいつは、吠えながら魔法を使ったみたいだ。
毛が固くなり、ハヤブサ斬りを跳ね返す。
つまり、止まらないってことだ!
騎士たちを跳ね飛ばして、ダイヤウルフが突っ込んでくる。
「エカテリーナ姫!! その首もらったぞおっ!!」
上に乗っているのは、大柄な腕が四本ある大男。
下の右手に握った斧を、振りかぶって投げつけた。
「なんとぉぉぉっ!!」
「どっせーいっ!」
エカテリーナ様を守るように飛び出したのは、僕と、そして教室から逃げ出してきた生徒の一人、熊岡くんだ。
熊岡くんが構えているのは練習用の模擬剣。
だが、そいつを飛んで来る斧に叩きつける。
「パリィ!!」
模擬剣はへし折れるけれど、斧の軌道がそれて近くの地面に突き刺さる。
「くっ」
エカテリーナ様が後ろに下がる。
彼女がやられたらおしまいなのだ。
続いて僕だ!
……あっ、て、手ぶらだ!
っていうかなんで僕は前に出てきたんだ!!
「張井くん! これを使うっすよー!!」
新聞屋が僕めがけて棒を投げつけてくる!
危ない!!
僕の頭に直撃した!!
『HPがアップ!』
『体力がアップ!』
『愛がアップ!』
「邪魔をするな小僧――っ!!」
山賊の親玉が僕めがけて、手にした両手剣を振り下ろす。
あれはやばそう! 当たったら死にそうだ!
それだけは嫌だ!
女の子にぶたれて天国に行くならともかく、男にやられる趣味は無いぞ!!
この生命の危機に瀕した瞬間、僕の頭上にピコーンと電球めいたものが閃いた。
新たな能力が目覚める!
『クロスカウンター』
「すまないが、男は帰ってくれないか!」
叫びとともに、僕は拳をつきだした。
間合いや武器の長さを無視して、僕の拳は両手剣よりも早く、山賊の親玉の頬に突き刺さる。
「ぬうおおおおおおおおっ!?」
親玉が、ダイヤウルフから転げ落ちた。
勢い良く通過していくダイヤウルフは、女の子たちに向かう。
やばい!
美少女たちは世界の財産なんだ!
怪我をさせるわけにはいかない!
「あひいいいっ!? ”土の壁”っすうーっ!?」
ナイス新聞屋!
彼女は土魔法を発動して、地面を盛り上がらせた。
ダイヤウルフは土に頭から突っ込むことになる。
「でかしたぞ、アミ! 食らうが良い、”竜破剣”!!」
エカテリーナ様の足元の地面が爆発する!
彼女はそれくらいの踏み込みで地面を蹴ると、ダイヤウルフめがけて突撃した。
振りかぶって、一閃!
彼女が手にした鉄の剣がダイヤウルフの硬質化した毛を切り裂き、そこで炸裂する。
『るうおおおおおおっ!!』
咆哮を上げるダイヤウルフの肉体に、突き刺さりながら剣が爆発する。
技の威力で、剣が消滅するエネルギーを使ってダメージを与える技なのだ。
「あのお、張井くん、うちの手を強く握るのかんべんしてくれない? 汗がぬめってマジ気持ち悪いんだけど」
『魔力がアップ!』
出羽亀さんと一緒にいると、こういう情報が克明に分かるわけです!
起き上がってきた山賊親玉は、周囲から集まってきた騎士たちになます切りにされてしまった。
これは一応勝利って言う形になるんだろうけど……。
「おかしい……! 混血だからって、こんな無茶なことはしないはず……!」
イヴァナさんが叫んだ。
悪魔ハーフはこんなことしないだって?
だとすると、これって何かの陰謀かしら。