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第五十八話:ドMと魔女と再会の聖騎士

 階さんがこんなに自分の意思をはっきり示すのは珍しい。

 いつもは、ずっと無粋な突込みを入れ続けてる人なのに。

 そう言ったら、エカテリーナ様は首をかしげた。


「ハリイは何を言っているのだ? ルミナは元々、物事をはっきりと言う娘だぞ。ただ、物事を口にする時に、言葉を飾ることなく本質から話すので理解しづらいだけだ」


「おお、なるほど」


 階さんがする会話の仕方が、僕らと違っていたということか。

 学校では、階さんとまともに会話できる人はいなかった。

 階さんも階さんで、人と合わせる気なんかないようだった。

 小学校とか中学校っていうのは、人と違うところがる子を排除したりいじめたりする気がする。

 当然のように、変わり者で頑固な階さんはいじめられた。

 だけど、それでも頑として自分を変えなかったから、最後には無視されるようになった。

 こうしてそこそこみんなと会話するようになったのは、こっちの世界に来てからの事だ。


「え、別にあっしは無視してなかったっすよ?」


「新田さんは私と言語が通じない」


「おお、なるほどぉ」


 新聞屋は弱いものに強く、強いものに媚びるひどい人格をしてたけど、まあ陰湿ないじめはしなかったし、他人を無視したりもしなかったなあ。

 二人があまり接触してなかったのは、キャラが違いすぎて言葉が通じないから、だったのだ。

 あ、ちなみに僕はあれだ。

 他の女子にいじめられる事に忙しくて喋ってなかった。

 はて、だとすると何故僕はいじめられっ子だったのだろうか。

 謎だ。


「あっしはあんたほど変わってる人は見たことないっすよ」


「人聞きが悪いなあ」


「ええ、アミとハリイの馴れ初めの話? 聞きたいなあ」


 エリザベッタ様が顔を突っ込んできた。

 さて、なんかみんなでわいわい喋ってるんだけど、ここは実は、聖王国に向かう旅の空の下。

 善は急げって言う事で、一番旅慣れた僕と新聞屋が階さんの護衛に選ばれた。

 次に、僕と新聞屋が行くなら一緒じゃなきゃいやだと駄々をこねたエリザベッタ様がついてきた。

 最後に、何故かエカテリーナ様がついてきた。

 新婚早々、新妻が旅に出てしまうのかしら。


「なに、気にするな。責任ある立場のものも行くべきだろうからな。それに、年若い者ばかりなのだ。保護者が必要だろう」


 えっ! エカテリーナ様、あなたもまだ十六歳だったはず!

 ともあれ、僕たちよりもよほど階さんのことが分かっているらしいエカテリーナ様だ。

 出羽亀さんと一緒に、エカテリーナ様の近くで過ごすことが多かったと聞くけど、階さんが心を開くなんてよっぽどだなあ。


「エカテリーナは昔から、動物と仲良くなるのが得意だったものね」


「ああ、随分昔の話だな」


 おお、エリザベッタ様から妹視点でのエカテリーナ様の話が!

 動物……!

 じっと階さんを見たら、


「私は張井くんの言葉も意味がよく分からない」


 とか返された。

 むむっ、階さんからすると僕が動物扱いか。

 新聞屋がお腹を抱えて笑っていた。

 他人事じゃないぞー。



 今回の旅は、二頭立ての馬車で割りと飛ばしていくことになった。

 常に宿場ごとに連絡が入っていて、馬と馬車、御者の人を交換しながら走っていく。

 夜は宿場に止まるけど、昼の間はずーっと馬車で飛ばしてるわけだ。

 これはこれで疲れるみたいで、エリザベッタ様と階さんはちょっとぐったり。

 交代交代で御者の人の横に座らせてもらって、気分転換してたみたいだ。


 この日程、行きだけで人魔大戦初戦の日取りまでギリギリ。

 開戦にはエカテリーナ様がいた方がいいから、とにかく馬を潰す勢いで走って、帰りはニックスさんの瞬間移動の魔術で戻ってくることになるんだそうだ。

 あの人、そんな魔術も使えるんだなあ。


 ちなみに宿場では、エカテリーナ様とエリザベッタ様が同じ部屋。

 新聞屋と階さんが同じ部屋。

 僕は一人部屋だ。


「新聞屋と階さんって、どういう会話するんだ……?」


 新聞屋は喋ってないと死んでしまうタイプの人間なので、どうでもいいことをいつも喋っている。

 階さんは口数が多くないし、結論から話すようなタイプ。

 二人の部屋の様子は想像もできなかった。

 翌日に見た二人は、喧嘩した風もなくてふつうだったので、何も起こってないとは思うんだけど。


 五日くらいでイリアーノに到着。ここからイリアーノ半島を横断して、港から船で聖王国に向かう。

 船は部屋に余裕がないということで、二部屋に分けることになった。

 今度はエリザベッタ様の希望があって、僕と新聞屋とエリザベッタ様が同じ部屋。

 うん、なんか見慣れたメンバーだ。


「おおーっ! ついにこの世界で船に!! 船に乗ったっすなあ! なんで今まで陸路ばかりだったのか……!!」


「海を行くっていう選択肢が思い浮かばなかったよねえ」


「海ーっ! 見るだけじゃなくて、船で海の上を走るなんて素敵! 船の旅なんて、本でしか読んだことないもの!」


 まあ、ほんの三日間の旅なんですけどね。

 王女様ご一行ということで、僕たちはそれなりによい船室をもらった。

 窓がついてて、潮風が吹き込んでくるのだ。


 そして船は二日目に嵐に突入してエリザベッタ様が轟沈した。

 まあ、ひどい酔いで動けなくなったのだ。

 で、まあ、嵐の原因はと言うと。


「我が名は悪魔フォルネウス! 人魔大戦の前哨戦として、人間どもの中でも名高いエカテリーナ姫に一手指南を……」


「おい、やってしまえアミ」


「いえっさー! ”光の電磁砲ライトニングレールガン”ッ!!」


「ほぎゃー!?」


 嵐は晴れた。

 なんだったんだろうあれは。

 一瞬、新聞屋の魔法で海がモーセの十戒みたいに真っ二つに割れたけど、見なかったことにしよう。

 なんかイカみたいな悪魔がぷかぷか浮かびながら潮に流されていく。



 ということで、聖王国に到着だ。

 長いようで短い旅だった。

 途中で悪魔がしれっと出てきてるあたり、結構危険な旅だったんだと思うけど、まあ海の上なら何にも気兼ねしないでぶっ放せるよねえ。


「本当です聖騎士様! 突然、嵐の海から真横に稲妻が走って! 俺の家を丸焦げに!!」


 見なかったことにしよう。


「うう、まだ足元がふわふわしてるわ。ハリイごめんね、お洋服に戻しちゃって」


「いえいえ!! むしろご褒美ですよ!」


 そうそう!

 エリザベッタ様、あの嵐の夜によろけて僕に支えられたんだけど、そのショックで僕目掛けてえれえれえれーとやったのだ。

 そこでびっくり。

 HP以外のステータスが結構伸びた。

 つまり僕は、可愛い女の子からの攻撃だけじゃなく、ああいう感じでえれえれーっとされる事でも強くなるのだ。

 楽しくて強くなる。

 最高じゃないか。


「張井くんはしみじみと変態っすなあ……。何故吐瀉(としゃ)物を受けると強くなるのか……!」


「新聞屋のときはもっと凄かったよ! 何せ口移しだったから!」


「そ、その話はやめろーっ!?」


 慌てて僕をスリーパーホールドにする新聞屋。

 あっ、こ、この姿勢、後頭部がおっぱいに包まれて大変気持ちいい!


「……新田さんは張井くんとキスをしたのですか?」


 あ、なんか階さんが目を爛々と光らせてこっちを凝視している。


「意外すぎる組み合わせです」


 あなた楽しんでるね?



 僕たちが到着する話は、伝書鳩で先に到着していたようだ。

 出迎えとして、見覚えのある人がやってくる。


「貴様らか……。どういう因果なのだこれは」


「あ、どもでーす」


 僕が挨拶したら、彼はイラッとした顔になった。

 彼はザンバーさん。

 聖王国の聖騎士団でナンバー3の地位にある人で、僕と新聞屋がアッバースを去る時、一戦交えた相手でもある。

 その時はザンバーさんが恐ろしく強くて、僕は危うくやられてしまいそうだった。

 今はどうだかは分からないけど、僕の中で強さの基準の単位がザンバーになるくらいには衝撃を受けた事件だった。

 ザンバーさんくらいの強さを1ザンバーとすると、ピエール王子は大体1.2ザンバーくらい。エカテリーナ様は1.4ザンバー。

 いや、ザンバーさんがまだ本気を出してなくて、彼自身が1.5ザンバーくらいである可能性もあるね。

 そろそろザンバーさんだらけで、頭がこんがらかってきた。


「うひょー!? あの人あっしを睨んでるっすよ!? ひぃー、あっしは無実! 今まで一度も罪を犯したことが無い無垢な羊っすー!」


「うそだー」


「うそだぁ」


 なんか新聞屋が昔のノリに戻って僕の後ろに隠れている。

 うんうん、あの時、ザンバーさんをやっつけようと、新聞屋がぶっ放した魔法がアッバースの町を半分吹き飛ばしたんだよね。


「……この非常時でなければ、貴様らなぞと組みはしないのだが……今は人類の一大事だ。仕方あるまい」


 おお、ザンバーさん、今にも鞘に納めた剣に触れそうな指先を必死に抑えている。

 指先とか頬とか眉とかがぷるぷるしてる。


「……ハリイ。お前たち、ザンバー殿と何かあったのか?」


「あ、はい、まあちょっと昔」


「えっへっへ、大したことじゃないっすよー」


 僕と新聞屋は笑ってごまかした。


「して、そちらのお二人は?」


 ザンバーさんの言葉に、エリザベッタ様が完璧な作法どおりの会釈をした。


「初めまして。イリアーノ王国第八王女、エリザベッタと申します」


「なんと、魔眼の姫であらせられたか! しかし、失礼ながら魔眼の力を制御できず、塔に住まわれていると聞いたが」


「それは、ハリイとアミが助けてくれたのです」


「なにぃ」


 ザンバーさんが目を剥いた。

 面白いなー。

 さっきからザンバーさん百面相だなー。


「そして、そちらのお子は」


「階瑠美奈と申します」


「アストン殿から話は聞いている。エカテリーナ様の侍女に、異常に頭の切れる娘がいると。それがお主か」


「そうだ。ルミナは凄いぞ。そして、私の代わりに使者として、イリアーノとフレートの意思を代行する役割として、聖王国に滞在する」


「なんと!」


「なんですと!」


「なんですって!」


 ザンバーさんと僕と新聞屋が同時に驚いた。

 階さんがちょっとドヤ顔をする。

 そ、そんな話になっていたのかー。

 確かに、エカテリーナ様が自ら来てるのに階さんが行くのはおかしいと思ってたけれど。


「それと、ルミナにはちょっとした構想があるようでな。ニックス殿にも会わせたい」


「あの方は多忙だ。だが……恐らくは興味を示すだろうな」


 苦虫を噛み潰した顔でザンバーさんが言った。

 ということで、僕たちは聖王国のお城、グレートホーリーに案内された。

 かくして、フレート、イリアーノ、聖王国連合が成立する。

 いよいよ人魔大戦に向けて、人類側の準備が整ったのだ。

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