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第五十五話:ドMと祭りと結婚式2

 あっ

 という間に結婚式の日がやってきた。

 最初の式はイリアーノで。

 次の式はフレートで行われる。

 イリアーノからフレートまでは、早馬で3日くらい。

 結婚式の隊列でバリバリ向かうと、だいたい10日くらいになるそうです。


 僕やクラスのみんなもおめかしして、エカテリーナ様のおつきを担当。

 それなりに自由行動は許されてるんだけど、馬井くんなんかはずっと近辺で警護をするって言ってる。

 エリザベッタ様は間違いがないように、新聞屋とくっついて魔眼の状態を管理してもらってる。

 僕はというと。


「フゥハハー! 張井くんだけが自由行動できるようにはさせてやらないっすよ!!」


 何故か僕の腰に紐をくくりつけて、新聞屋とエリザベッタ様がついてくる。


「ちょっと町を見に行こうと思っただけだよー」


「そんな面白そうなことを一人だけでさせるわけがないっす! あっしたちも連れて行くっすよ!!」


「つれていくっすよー!」


 楽しげにエリザベッタ様が唱和する。

 双子の姉が結婚するっていうのに、この人は気楽だ。

 エリザベッタ様の場合、洒落にならない力の魔眼を持っているため、それを制御できるようになった今でも周りはこの人の扱いに困ってるように見える。

 魔眼は時々解放しないといけないし、エリザベッタ様の今後についても色々問題がありそうだけど……。

 まあ、今はそんな難しい事は考えないのだ。


「おっ、城下町行くのか! 俺も行くぜ!」


「あたしも一緒に行ってあげるわ!」


 富田くんとマドンナがついてきた。

 というわけで五人で城下町を回る。

 あちこちに花が飾られている。

 わざわざこの日のために、花の苗を取り寄せて育てたんだそうで、町中を彩る色とりどりの花は、物凄いお金がかかっている。

 マドンナはちょっと浮かれた感じで、街角で髪に飾る花細工を配っていたおじさんから、黄色い花細工をつけてもらってご機嫌。

 彼女が魔女だった頃はちょっとぽちゃっとしてたけど、今はきちんとダイエットして、クラスメイトだった頃と同じくらいスリムになってる。伊達にマドンナと僕が呼んでいない。彼女は子供っぽく見られがちな僕たち日本人の中で、きちんとこの世界の人たちに女性として見られてるみたいだ。

 実際、騎士の人から求婚されたりしてるみたい。

 ……そういえば後ろから、若い体格のいい男の人がついてくるような。


「ねえ張井、どうかな? 似合う?」


「うん、マドンナに良く似合ってると思うよ!」


 確かに、花弁が長くて先端でふんわりと広がった黄色い花は、長くてこしのあるマドンナの黒髪に良く似合う。

 彼女は性格とかちょっと……いやかなり残念なんだけど、見た目は抜群に美少女なんだ。それも和風の美少女。

 エキゾチックな魅力とかで、この世界の男の人にももてるのかもしれない。


「うーん、間戸さんはちょっと大人っぽくなったっすねえ。やはり恋を知ると女は変わるっす! 今度インタビューしてみるっすかねー」


 他人事みたいに顎を撫でながら言う新聞屋。

 すぐ横でエリザベッタ様が何か言いたそう。

 

「おっ! トンダの兄ちゃんじゃねえか! 元気か!」


「おう! 元気元気!」


 富田くんは町のおじさんたちとも顔見知り。

 すれ違ういかついムキムキのおじさんたちと、親しげに挨拶してる。


「おうおう、綺麗どころばかりつれて、あれだな、モテる男はつらいよなあ?」


「あ、いや、そ、そういうのじゃないんで」


 ちょっと富田くんの表情がひきつった。

 ちらちらっと僕を見る。

 ん~? なんだね?


「そっちのちびは弟か」


「あ、ダチです。こいつ小さくてもすげえ強いんで」


「ほおー! トンダがそこまで言うなんて、人は見た目によらねえなあ」


 何気に富田くんの評価が高いぞ。


「知ってた? 富田が使う技って他の奴じゃ使えないのよ。だからこいつ、男たちに一目置かれてるってわけ。何せ、相手がなんだろうと二回に一回は殴って麻痺させちゃうんだから」


 マドンナからの情報だ。

 なるほど、それは凄いかもしれない。

 馬井くん、熊岡くん、富田くん、そして僕と、みんな専用の能力を持っている感じだ。

 それは出羽亀さんや階さんも一緒。新聞屋……はどうなんだろうなあ。委員長とマドンナは、新聞屋によって能力を消されてしまって、だから魔法を身につけることができるようになったらしい。それでも、一般的には異常な速度で魔法を習得してるみたいなんだけど。あ、この世界の魔法だから、二人が使うのは魔術か。


 お城の門から広場に続く長い道は、たくさんの出店で彩られている。

 お店を冷やかしながら広場に出たら、そこにはたくさんの椅子やテーブルが用意してあった。

 出店で買ってきたものをここで食べたりもできるのだ。


「おーう、遅かったじゃん」


 手を振ったのは、褐色の肌の角の生えた女の人。

 イヴァナさんだ。すでにたくさんの食べ物を確保して、僕たちみんなが腰掛けられる座席を確保していた。


「先に来てたの?」


「一応あたしはあんたの部下だからな。気を利かせてやったんだよ」


「ははあ、この服装も気を利かせたんですねッ」


「お、おいばか! つつくな!」


 大きく開いたイヴァナさんの胸元から、ふんわりしたお肉がこぼれそうだったので、思わず指先を寄せようとして……僕は彼女にひっぱたかれた!


『HPがアップ!』

『体力がアップ!』

『愛がアップ!』


「張井は相変わらずねえ……」


 あれ、マドンナが怒らない。

 人間が出来てきたのかな?

 新聞屋も気味の悪いものを見る目をマドンナに向けてる。その視線はさすがに失礼だと思うよ?


「王女殿下のご結婚を祝って!」


「乾杯!」


 わーっと向こうで盛り上がっている。

 この町に住む人も、立ち寄っただけの旅人も、一緒になって陽気に飲んで歌って笑っている。

 これから七日七晩の間、この宴は続くんだとか。

 イヴァナさんがあらかじめ呼んでいた、ウェイトレスみたいなお姉さんがたくさんの陶器のジョッキを持って来た。


「よーし、こいつはあたしの主のハリイからのおごりだ! 飲み放題だぞ!」


「えっ!? 聞いてないんだけど!?」


「ひゃっはー!! 高そうな飲み物や食べ物どんどん持ってこいっすー!! あっしの財布が傷まないならいくら食べてもいいっすぞー!!」


「ハリイは太っ腹ね。スリムなのに」


「張井、ご馳走さま」


「おっ、悪いな張井! 存分に飲み食いさせてもらうぜ!」


「僕にはもっとワインを持ってきて欲しいモン!」


 わーっとみんなで飲み食いを始めた。

 むむっ、いつの間にか僕の財布の所有者がイヴァナさんになっていたようだ。

 でもまあいいか。

 僕は別にお金を使うような用事もない。アッブートの双尾の猫とか、エリザベッタ様の件でお金がたくさん手に入ったのだけど、ずーっとそれを遊ばせていたのだ。


「こんなに美味しいものいただいちゃって悪いモン! 今度何かでお返しするモン!」


「いやいや、気にしなくていいですよー」


 僕は、しれっと横に座っていた青い肌の小柄なふとっちょに言った。

 ……あれ? この人アマイモンじゃない?


「気にしなくていいモン! 今日は純粋にお祭りを楽しみに来たモン! 人魔大戦はもう少し先だモン!」


「ヒエッ! 張井くんいつの間にそいつがいたっすか!? ええいこうなればこの町ごと焼き払うしか……」


「だめよアミー」


「グワーッ! エリザベッタ様いきなり強烈なハグをしてくるのはグワワーッ!」


 なんか、お酒を飲んでほんのり頬を染めたエリザベッタ様が、いきりたった新聞屋を熱烈に抱きしめた。

 ほっこりする光景だ。


「あ、イヴァナさんおかわりを……」


 いない。

 アマイモンを見て逃げたな。

 マドンナと富田くんはアマイモンを初めて見るので、警戒心が無いようだ。

 全然強そうに見えないもんねえ。それに食べ物を口にしていると、アマイモンはとても温厚になる。

 もともと自制が効くタイプの人……悪魔なのかもしれない。


「ここで騒いだ後は、フレートでもお祭りだモン? 僕はフレートから攻めるから、お祭りが終わった辺りで始めるモン! 君たちも是非フレートで僕を迎え撃って欲しいモン!」


「なんかそういう話を聞いてると、戦争って感じがしないよね。スポーツとか演習みたい」


「おっ、気づいたモン? だけど本来部外者である君たちには、伝える事が出来ないモン!」


 そういう風に話していたら、いきなり遠くにいたはずの、ムキムキの男の人が駆け寄ってきた。


「くっ、まさか黒貴族アマイモンがじきじきにやってくるとは!?」


 駆け寄りざまの抜刀だ!

 飛び上がって、凄い速度で剣を振り下ろしてくる。

 アマイモンは彼を見もせずに、


「無粋だモン」


 頭上目掛けて、アマイモンはそのぷくぷくした拳を突き上げた。

 拳が剣と激突した。すると、剣のほうがボキっと折れてしまう!


「今日の僕はお客さんだモン? 何もしないから安心するモン。人魔大戦の期日まで、あとひと月あるモン」


「くっ……!!」


 剣が折れた勢いで、吹っ飛ばされた男の人。

 この人見たことあるなあ。エカテリーナ様のお付きの一人で……あ、出羽亀さんの能力でステータスを見た、アベレッジさんか!


「アベレッジ! ”水の天幕(アクアスプレー)”!」


 マドンナが素早く呪文を詠唱して魔術を使う。

 そうしたら、吹っ飛んだアベレッジさんの下から強烈な噴水が吹き上げて、彼を支えた。


「む、無念……!」


「無理しちゃだめよ、アベレッジ」


 びしょ濡れになった彼に、マドンナが駆け寄った。

 お、なんかいい雰囲気じゃないか。

 彼がマドンナに求婚した騎士かな?

 色恋沙汰大好きなエリザベッタ様が目をキラキラさせているし、他人の色恋が好物なのは変わらない新聞屋もニヤニヤ。


「これはあれっすな? 張井くん、ついに愛想を尽かされたっすかね?」


「気持ちが届かない恋は素敵だけれど、苦しいものね。そこにやってきた、愛を伝える若き騎士! ああ、素敵!」


「ブウ」


 富田くんが鼻を鳴らした。

 君には浮いた話の一つもないもんな。

 マドンナはちょっと僕のほうを見て、ばつが悪そうな顔をした。

 少し残念だけど、まあ仕方ないなーという気分。


 アマイモンはというと、こういう話には興味がないみたい。

 完全に食べる方に集中していた。


「お、おいハリイ。近寄っても大丈夫なのか? そいつ、黒貴族なんだよな?」


「多分大丈夫だよ!」


「ご飯を食べてる僕は安全だモン!」


 イヴァナさんがおっかなびっくり近づいてきた。

 そして、


「もうすぐ式の時間だぜ。行かないと……」


 もうそんな時間か!

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