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第五十話:ドMと半魔娘と金貨のお風呂

 イリアーノの王様は、末のお姫様であるエカテリーナ様をとても可愛がっている。

 他の王子とか王女がエカテリーナ様を疎ましく思ってても、表立って排除できないのはそういう理由みたい。

 というのも、双子の妹であるエリザベッタ様を、王様は可愛がることができなかったからだ。

 エリザベッタ様は即死の魔眼を持ってて、見た相手を殺してしまう。

 だけどその魔力も、僕と新聞屋の協力である程度中和することができていて……。


「おお、おお……! エリザベッタ……!! エリザベッタなのか! 本当に大きくなって……! ずっとお前を閉じ込めていた私を許しておくれ……!」


「お父様、なの……? あんまり実感がないわ……」


 戸惑うエリザベッタ様を、だばーっと涙を流した王様がぎゅっと抱きしめているところだ。

 ここはもう謁見の間じゃない。

 王様の私室……つまり後宮とかそんなところなんだけど。

 基本、王様、王子様以外の男子は入ってはいけないらしい。

 僕は新聞屋とともに、エリザベッタ様のたっての願いで入室する事ができた。


「お主たち、ハリイとアミと言ったか。どのような魔術師にも成し得なかった事を成してくれた……! そなたらはエリザベッタの人生を救ったのだ! なんでも褒美を遣わそう!」


 王様に連れ添ってきていた他の王子たちが嫌そうな顔をした。

 特に第一王子は、多分内心だと、僕たちを処刑とかしたくて仕方ないんだろう。

 彼のメンツを潰してエリザベッタ様を助け出したのは僕たちだし、もしかしてエカテリーナ様に差し向けられた暗殺者は、この人がよこしたのかもしれないからだ。


「えっ、本当っすか!? じゃあねえ、あっしは、金銀財宝……いやいや、金貨の湯船……? 酒池肉林……うひょー!」


「新聞屋が低俗な願いを!!」


「張井くんはバカっすなー。こういう機会でもないと、こんな絵に描いたようなブルジョワジーな願いは叶わないっすぞ!!」


「金貨の風呂か……。随分変わった願いなのだな。良かろう」


 えっ、叶うのそれ!?


「ええと、じゃあ僕は、サドッ気のある綺麗なお姉さんが仲間で欲しいです!」


「ほう! そういえば後宮の護衛で、お主とも面識がある兵士がおったのう。それを遣わそう」


「……面識? それはともあれ!! イヤッホウ!! 綺麗なお姉さんだー!!」


「張井くんは相変わらず欲望に忠実っすなあ。ここ最近、禁欲生活だったっすからなあ」


「新聞屋もエリザベッタ様にかかりきりだったしねえ」


「ハリイ、アミ、本当にありがとう!」


 談笑する僕らを、駆け寄ってきたエリザベッタ様がまとめて抱きしめた。

 うんうん、エリザベッタ様の匂いはいい匂いだ。

 これで僕をいじめてくれさえすれば完璧だったんだけどなあ。




「張井くん!!」


「張井!」


「ギエー」


 僕は飛び掛ってきた委員長とマドンナに押しつぶされて悲鳴をあげた。


『HPがアップ!』

『体力がアップ!』

『愛がアップ!』


「もう、本当に心配していたんだから……! ふた月もいなくなるなんて……!」


「あたしたちだって、出来ることならついていきたかったわよ……!」


「でもさすがね。亜美がまさか人のために動くとは思わなかったわ。張井くんに影響されたの?」


「それはないっす」


 出羽亀さんがちらりと新聞屋を見ると、新聞屋は真顔で否定した。

 ええー、旅の途中で色々あったのに。

 僕が思っていると、顔色を読んだらしくて、新聞屋は鬼の形相をした。唇が、『あのことは黙っているっす!! 喋ったらコロス!!』と語っている。喋ってしまった時の新聞屋の折檻はなんか想像するだけでゾクゾクしてくるんだけど……喋っちゃおうかなー。


「やれやれ……お前らはまだ無事だったのか……」


 ふいに、聞き覚えがある声がした。

 ちょっとハスキーな凛々しい女の人の声。エカテリーナ様とはまた違う。

 振り返ると、褐色の肌をした女性の兵士がいた。

 おっぱいとかお尻とか、どーんと張り出した大人の魅力。ウエストはきゅっとくびれてて、でも鍛え抜かれてる。足はすらっと長くて、腰に佩いた長い剣がかっこいい。耳の上から、ヤギの角みたいなのが生えていた。


「ああーっ、あ、あなたはーっ」


 なんと、彼女は僕がエカテリーナ様の部隊に捕まった時、一緒に牢屋に入っていた人……、半魔娘のイヴァナさんだったのだ!

 彼女が僕おつきの兵士になるらしい。

 どうやら、エカテリーナ様に気に入られ、剣を教えてもらっていたみたい。

 でも一番得意なのは棍棒だって。身につけた腰布の影に、金属製の棍棒が隠されている。


「まさか、お前らとまた一緒になるとは思わなかった……。あたしは後宮の護衛に就職して安泰だと思ってたのに……」


 なんか嘆いている。


「……誰?」


「誰よ?」


 委員長とマドンナが怖い目で僕を振り返る。

 ひえっ、その目つきたまらないね!!


『精神がアップ!』

『魔力がアップ!』


「どこかで見たことがあるような……」


「あたしはお前を忘れないがな」


 首をかしげた新聞屋を睨むイヴァナさん。

 そういえば、あの時の新聞屋は誰よりも早く僕たちを裏切って、エカテリーナ様の腰ぎんちゃくになっていたね! すぐに切り捨てられたけど。


「ともかくです!! ウェルカム、イヴァナさん!」


 僕は熱烈なハグをするべく、イヴァナさんに飛び掛り……。


「ええい、寄るなーっ!!」


「ぷぎゃー!」


 顔面を蹴り飛ばされたのだ!

 これ! この感覚!!


『HPがアップ!』

『体力がアップ!』

『精神がアップ!』

『魔力がアップ!』

『愛がアップ!』

『魅力がアップ!』


 おお! 新たな女の子からの新鮮などつきに、僕のステータスも喜んでいる!


「張井くん!?」


「あんた、何するのよ!」


「いやいや待つっす。これは張井くんにとって極上のご褒美っす!」


 すっかり僕の事を理解している新聞屋である。

 そういえば二人で一緒に行動するのもかなり長くなる気がする。


「張井くんへの理解度の深さを示すことで、二人を牽制しているんですね」


「違うっすよ!? あっしは張井くんに気などないっ!!」


 階さんの突っ込みに、新聞屋はむきになって反論した。


「新田さん、そんなにむきになって……!?」


「怪しい! 亜美、あんたもしかして……!!」


「えっ、えっ!? 亜美にとうとう恋の予感なの!? 亜美も恋をするんだー! 木の又から生まれてきたんだと思ってたー!」


「出羽亀きちゃまー!!」


「……お前、案外もてるんだな」


 イヴァナさんが意外そうな目で、踏みつけた僕を見た。

 そう、これ!

 ナチュラルに倒れた僕を踏みつけるイヴァナさん!

 これいいぞぉ。

 王様からの最高のプレゼントかもしれない!


『HPがアップ!』

『体力がアップ!』

『愛がアップ!』


「ああっ、またこいつ張井を踏みつけてる!」


「やめなさいよ!」


「うん? こいつは喜んでるぞ?」


 うーむ、僕を巡っての美少女たちの争い。

 これはこれで男心をくすぐるものがあるね。

 とかやってたら、新聞屋の方も用意が整ったらしい。


「さて……あっしはちょっと野暮用に出かけてくるっすよ」


「亜美どこ行くのよ?」


「乙女の夢……っすかね」


 金貨のお風呂は断じて乙女の夢なんかじゃない。

 少しして、新聞屋の「ヒャッハー!! 見渡す限り金貨金貨金貨っすー!!」という叫び声が聞こえてきた。


 ところで、テンション高めの女子たちに比べると、男子勢は静かだ。

 特に馬井くんのテンションの低さがやばい。

 隅っこの椅子に座って、燃え尽きたボクサーみたいな感じでしんなりしている。

 あー、こいつエカテリーナ様好きだったもんなあ。

 それが嫁入りするかもってなってて、意気消沈?

 なんか、富田くんが馬井くんを励ましている。

 熊岡くんの姿はないけど、どうやら彼は昇進して、エカテリーナ様の護衛の一人になってるらしい。あのパリィという技の精度も上がってて、王子たちですら熊岡くんを無視できなくなってきてるとか。


「なあ張井……! 望まぬ結婚をしなきゃいけないなんておかしいだろ。エカテリーナ様はあんな奴と結婚しなくちゃいけないのか? そんなの間違ってる! 好きになった相手と結婚しなきゃいけないんだ!」


「くそー、馬井くん相変わらず主人公みたいだなー」


「やめとけ馬井! 張井には一見言葉が通じているようで通じてねえよ」


 富田くんのくせに的確な判断だ。

 馬井くんがなんか青臭いことを言ってるなーというのは分かる。

 エリザベッタ様とふた月一緒に旅した僕と新聞屋は、王族っていうのがどれだけ大変な仕事で、どれだけ自由が無いのか色々聞かされてきた。

 エリザベッタ様も本で得た知識だったけど、現に彼女は能力の事だけじゃなく、エカテリーナ様に対する人質としても囚われていたわけなのだ。エカテリーナ様の力があれば、エリザベッタ様を助け出すのは簡単だっただろうけど、それはやらなかった。王族の間で表立って争いなんかあったら、王国は大混乱になる。そしたら困るのは誰だろう。国民なのだ。

 まあ、僕たちはまだ中学生くらいの若造だし、青臭い事いっても許される気はする。

 とりあえず馬井くんが王子様になりでもしなきゃ、この結婚は止められないよなーとか思う。


「なんだハリイ。お前悟ったような顔してるな」


 イヴァナさんに小突かれた。


「まー……。僕が馬井くんに言う事もないですからねー」


「そんなもんだよな。あたしも王族連中のややこしい事情に首を突っ込むのはごめんだ。ほどほどに仕事を勤め上げて、適当な男を見つけて一緒になるくらいでいいんだよ」


「おっ、イヴァナさん現実的ですね!」


「張井くんはあげないから!」


「張井はあたしたちのものよ!」


「いや、いらねえから」


 委員長、マドンナは一々イヴァナさんに張り合うなあ。

 三人の中心にいる僕は、いがみ合いの余波を受けて、小突かれたり蹴られたり、巻き込まれて引っ張られたり。

 うん、これはこれで大変良い。

 ステータスは上がらないけど、なんかハーレムって感じがしてきたぞお。


「いや、あたしは本当にハリイはいらねえから」


「ズバッと仰る!」


『精神がアップ!』

『魔力がアップ!』


 はぁはぁ……。

 今のところ、イヴァナさんが僕の中では有望株だ。

 委員長やマドンナにも精進して欲しいところです。


「二人の思いは通じそうにないですね」


 階さんの呟きに、出羽亀さんが重々しく頷いていた。

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