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第四十七話:ドMと幼馴染と大苦戦

 なんということだろう。

 ここに来て、予想外の登場人物が出てきてしまった!

 小鞠さんは姉の同級生で幼馴染。

 僕にとっても幼馴染になるんだけど、ちっちゃくて可愛い外見に見合わぬ、激しい気性を持った人だ。

 なんか、退かぬ、媚びぬ、省みぬ! っていうのを体現した感じの女子高生。

 この、一見すると新聞屋よりも年下に見える、つるぺたでお団子ヘア二つを頭の両側から、ねずみの耳みたいにはやした女の子。

 彼女の凄さを僕は誰よりも知っているのだ!


「あわわわわ……!」


「張井くん何をブルってるっすか!! 相手はただの人間! 魔法で灰にしてしまえば楽勝っす! うりゃあ、死ねえ!! ”岩石の…(ロック)”」


「遅いわ……よっ!!」


 うわお!

 小鞠さんが素早く新聞屋の背後に回って、あれはチキンウィングフェースロック!

 そのまま大きくブリッジして……反り投げたー!!


「ほぎゃあああああっ!?」


 腕と頭をがっちり固められて投げられた新聞屋が、悲鳴を上げながら地面にめり込んだ!

 凄い! 新聞屋を子供扱いだ!


「中学生のやることなんてたかが知れているわっ! 女子高生をなめたらだめよ!」


 女子高生って凄い……!!

 いや、新聞屋だってベルゼブブのルールですごく強化されてるはずだし、中学生とかそういう次元じゃないと思うんだけど。


「うぐぐぐ……! あ、あっしを舐めてもらっては困るっすよ! これしきの打撃では倒れないっす! っていうかなんであんた強いんすか!? 意味がわからないっすよ!」


 とか言った新聞屋の頭に、小鞠さんがチョップした。


「ギニャー!! 頭が、頭があああ! 今あっしの脳細胞が数千個死んだっす!!」


「年上に向かってあんたとは何よ! 何? あんた何なの? ははーん、もしかしてあれでしょ。辰馬の彼女なんでしょ! 中学生のくせに彼女とか!」


「ななななっ!? 何を言ってるっすか!?」


 新聞屋の膝がガクガク震えだしたぞ!

 なんだかよくわからないけれども効果は抜群だ!


「あああああっしが張井くんとお付き合いですって!? めっそうもございません! あっしはフリー! 至ってどフリーっす!!」


「フフフ、若いわね……ッ! まるで小学生男子のような恋愛観……!! その様子じゃキスだってまだしたことが無いんでしょう!」


「なななななな――――ッ!?」


 新聞屋が傍から見てても見てても分かるくらい顔を真っ赤にして、たじたじと後退りする。

 なんか、この間の酔っ払った時みたいな顔になってるぞ!?

 ひえっ、新聞屋が普通の女の子みたいな表情をしている!

 なんで唇とか触ってるの!?


「…………あたしだってまだだって言うのに、あんたまさか辰馬の唇を!? くうっ、う、うらやま……いやけしからん子だわ!! 食らえ天誅!!」


 小鞠さんが跳んだーっ!


「な、なにぃーっ!? ぶぎゃあっ」


 壁を利用して高らかに飛び上がっての、ジャンピングヒップアタックだ!

 新聞屋が真後ろに吹き飛ばされて、バウンドしながらごろごろ転がっていった。

 あっ、壁に衝突した。

 動かないぞ。


「は、張井くん……あっしはもうだめっす……」


 なんか心ここにあらずって感じの声が聞こえてきた。


「こ、心を折られたっす……! あっしはもう、立ち上がれないっ」


 うん、なんかよく分かったよ!

 小鞠さんは新聞屋にとっても天敵だね!


「さあ辰馬、次はあんたよ!」


 小鞠さんがびしっと僕を指差した。


「うぬぬ……!」


 僕も思わず身構える。

 チョップ状態にした両手を顔の前で平行に構える、いわゆるウルト〇マンポーズだ。


「ふっ、子供子供と思って接してきたけど、まさか異世界に転移していたと思ったら、キスまで経験していたとは……!! うらや……けしからんわ!」


「ほ、本音がさっきから漏れてるよ小鞠さん!」 


「ぐぎぎ……! なんか発言からも余裕が溢れてきているように感じるわ!! でえい、天誅!」


「何が天誅!? ふぎゃー!」


 小鞠さんのビッグブーツ(正面から足を高く振り上げて蹴る、フロントハイキックだよ!)が僕の顔を捉えた!

 小柄な体からは想像もできないパワーで、僕は吹っ飛ぶ!

 白! 今日の色は白だった! 小鞠さんはいつも白だ! 素晴らしい!!


『HPがアップ!』

『HPがアップ!』

『体力がアップ!』

『知力がアップ!』

『愛がアップ!』


 おっ!?

 なんか凄くステータスが上がったんだけど、ちょっと気になったことがある。

 まるで元の世界にいた時みたいに、どばっとダメージを食らった気がしたんだけど……。

 ええい、ステータスオープンだ。



名前:張井辰馬

性別:男

種族:M

職業:M

HP:558,700/372,400→978,890

腕力:6

体力:670→963

器用さ:8

素早さ:6

知力:9→12

精神:588→744

魔力:305→420

愛 :888→1150

魅力:39


取得技:ダメージグロウアップ(女性限定、容姿条件あり)

    クロスカウンター(男性限定、相手攻撃力準拠)

    全体カウンター(男性限定、固定ダメージ)

    河津掛け(相手体重準拠)

    反応射撃(射撃か投擲できるものが必要、相手攻撃力準拠)

    全体ガード

    気魔法行使レベル3

    毒耐性

    即死耐性

    魔法カウンター


 あっ、HPに桁が分かり易くなる表記が加わってる。

 これでどれだけHPが増えたのか一目瞭然だね!

 ……じゃない。

 ええと、今の小鞠さんのキックで、僕のHPが10万くらい減ったのだ。

 え? え? ありえなくない?


「疑問を感じているようね辰馬」


 小鞠さんの足音が聞こえる。

 彼女は倒れた僕の横まで来ると、僕の胸を小さな足で踏みつけるのだ!

 また白! そしてこのグリグリ! なんて、なんてツボを抑えた攻撃なんだ……!

 確かに、彼女に比べたら、新聞屋なんてまだまだ子供だ。

 僕の幼馴染でもある小鞠さんは、僕の弱点を知り尽くしているし、しかもその攻撃方法を年々成長させてきている!

 ただ殴ったりするだけではだめなのだ!


「教えてあげようか?」


 ぐりぐりぐり。


「あ、はい気持ちいいです! じゃない、教えてよ!」


「……だめよ!」


「うっ!」


『HPがアップ!』

『HPがアップ!』

『体力がアップ!』

『知力がアップ!』

『精神がアップ!』

『魔力がアップ!』

『愛がアップ!』

『魅力がアップ!』


 な、なんてことだ!

 また僕のHPがごそっと減って、ステータスが凄く上がった!

 一体どういう力が働いて……いや気持ちいいからこれはこれで……!


「は、張井くん……!」


「はっ!」


 僕は我に返った。

 近くまで這ってやって来ていた新聞屋が、僕の手を掴んだのだ!


「Mであるあんたが気持ちよさに負けそうなのは分かるっすが、ここで屈したらゲームオーバーっすよ……!」


「そ、そうだった!」


 僕たちの視線の先には、目を回して倒れているエリザベッタ様。

 とろいエリザベッタ様では、小鞠さんを視界に収める前にノックアウトされてしまうのだ。

 っていうか視界に収められたら僕が困る。

 そして、僕たちの目的は、エリザベッタ様を即死の魔眼から解放する事なのだ!


「ほおー、あんたまだまだ余裕がありそうねっ!」


「え? あ、あっしはもうボロボロっすよ! 抵抗もできないっす! だから、平に平にお許しを! やるなら張井くんをやってっすよーっ! うぎゃあー! 来るなっすー!? ぎょええええ!?」


 見事な海老固め!

 新聞屋は体が硬いのか、ボキボキ音がしてる!

 今度は完全にノックアウトみたいだ。


「ぐはあ……。あ、あっしの腰が、腰が……」


 あ、まだ元気だ。

 だが、これ以上新聞屋をやらせるわけにはいかない。

 僕は決然とした意思を持って立ち上がった。


「小鞠さん……! たとえ小鞠さんだって、これ以上新聞屋をやらせはしないぞ! その技をかけるなら……僕にかけてください!!」


「張井くん、その後半が本音っすね!?」


 ばれた。

 だがまあ、僕も不思議な事に、新聞屋を守らねばなんて思ってしまったのだ。


「麗しき友情……いえ、これは恋人同士の愛情ってやつかしらね!」


 小鞠さんは不適に笑った。

 僕と新聞屋は恋人とか愛情とか言われて、居心地が悪くて仕方なくなり、背中とか肩とかぼりぼり掻く。


「や、あの、そういう物言いは勘弁してください」


「うむ……あっしたちの精神が先にやられてしまうっす」


「あらそう? まあそこまで恋人同士じゃないって言うなら許す」


 おっ、小鞠さんの表情がちょっと晴れやかになった。

 この人まだ彼氏いないんだろうなあ。


「それじゃ、そろそろとどめを刺すわよ辰馬!」


「どうぞ!」


「どうぞじゃねえっす!」


 痛い! 新聞屋、アリキックはやめて!

 元気じゃん!


 向かって来る小鞠さん。

 僕の攻撃方法は河津掛けオンリー。

 だけど、河津掛けは相手の体重が重くないと意味が無い。

 小鞠さんは新聞屋みたいなむちむちした中学生よりもなお体重が軽いので、効果がほとんど無いのだ!

 僕はあっという間に腕を取られて……。


「あたしのフェイバリット! 食らいなさい!」


 こ、これは、コブラツイスト!!


「ぐわー!」


 僕のHPがごそっと減った!

 分かった、分かったよこれ。

 小鞠さんの攻撃って、割合ダメージなんだ!

 僕のHPの一割から三割のダメージを与えてくる!

 だから、HPがどんなに多くても意味が無いんだ!


「馬鹿な、不沈艦張井くんがこうも簡単に!」


「し、新聞屋! この人には、防御、とか、意味がないんだっ」


「なんですとーっ!?」


 なんとか立ち上がった新聞屋が恐れおののく。

 こうしている間にも、僕のHPがゴリゴリ減っていく!

 割合ダメージだから、ゼロにはならないんだけど……これは今までで最強の相手だ!

 全く攻略方法が思いつかないぞ!

 ちなみにこうしている間にもステータスはどんどん上がってるけど、そのステータス上昇は小鞠さんに対しては何の意味もないのだ!


「くっ、ま、待っているっす張井くん! あっしが攻略方法を考えるっす!」


「お、お願い!」


「ふふふ! あたしを攻略するですって!? 中学生が二人で頑張ったところで、女子高生であるあたしを倒そうなんて百年早いわよ!」


「いや、年齢差は三歳くらいだよね!?」


「こ、言葉のあやよ!!」


 突っ込んだら、照れ隠しから締め付けが厳しくなった!

 うわ、割合ダメージが増えたよ!?

 これって下手をするとHPがゼロになるかもしれない!


「うぬぬ、この人の弱点、弱点……! 何か、何かあるっすか……!?」


「アミ……!」


 かすれた声がした。

 これは、エリザベッタ様!


「うう、目に砂が入って開けられないわ。でも、アミ、あなたは迷ってるけど、もう答えはわかってるはずよ!」


「エリザベッタ様!? そ、それはなんすか!?」


「愛よ! ラブ!」


「愛!」


「愛!」


 僕は体をもぞもぞさせて、新聞屋はかゆそうに背中を掻いた。


「ま、まさか、エリザベッタ様、冗談っすよね?」


「冗談じゃないわ。それしかこの場を潜り抜ける方法は無いのよ……。アミ、勇気を出して」


「いや、今しらふなんでキツイっす」


「アミ!」


「いや、でもーそのー。噂とかされると恥ずかしいしぃー」


「アぁミぃ……!」


「いや、しかし、あっしと張井くんはそんな関係では断じて……!」


「いいからやんなさい!」


「は、はいぃっ」


 なんかエリザベッタ様に発破をかけられた新聞屋がふらふらやってくる。

 小鞠さんは目を細めた。


「ほほー、二人がかりってわけね! いいわよ、どっからでも来なさいよ! 女子高生のお姉さんの強さを見せてあげるわ!」


「くっ、あふれ出るつわものオーラ……! はっきり言って逃げたいっす! だ、だがっ」


 新聞屋は背後にエリザベッタ様からのプレッシャーを感じてるみたいだ。

 彼女は近づいてきて……。


「張井くん、目を閉じるっす」


「え、なんで?」


「いいから目を閉じろぉ!」


「ぎゃーっ! 目潰し!?」


「なにぃ! あんた一体何を……!? ぎゃーっ」


 目潰しで目をつぶった僕の唇に、柔らかいものが押し付けられた。

 小鞠さんの悲鳴が聞こえて、拘束が緩くなる!

 今だ、脱出だ!


「おっ!? ちょ、ちょっと待つっす張井くん!? 体勢がーっ! むぎゅっ」


「むぎゅっ!?」


 僕は柔らかいものと一緒に倒れこんでしまった。

 だけど、小鞠さんの攻撃からは逃れたみたいだ。


「あああ、あんたたち、人前でなんて破廉恥な! 中学生めええ!」


 小鞠さんの怨嗟を感じる声がする。

 こわい!

 まだ僕の視界は暗いままだったけど、頬に柔らかい指先を感じた。


「さ、さっさとどけるっすよ! ”光の治癒(キュアライト)”!」


 懐かしい暖かさとともに、僕のHPが全快した!

 目潰しも治った!

 そして明るくなった視界で見えるのは……僕が押し倒したみたいな形になってる新聞屋。

 ちょっと離れてわなわな震えている小鞠さん。


 ……一体何がどうなったんですか!?

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