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第四十六話:ドMと姫とデス(?)ダンジョン

 いやあ。

 僕、正直舐めてました。


 何をって、ダンジョン……じゃない。エリザベッタ様の魔眼。


「えーい」


 気の抜けるような声をあげて、エリザベッタ様が迷宮の奥を見る。

 そこには、たくさんの武装した骸骨がいて、カタカタ動いていた。

 どれも動きが鋭くて、一体一体がイリアーノの兵士の人より強いんじゃないかな、なんて思う。

 こんな狭いところでは、新聞屋の大量殺戮魔法も使えないし、個人用魔法だと手間がかかるし、僕はそもそも積極的に攻撃する技がほとんどないし……。

 こりゃあめんどくさいぞ! ……なんて思っていた時期が僕にもありました。


 エリザベッタ様なりの、裂帛の気合とともに放たれた視線が骸骨兵士に降り注ぐ。

 すると、骸骨は動きを止めて、その直後に、パン! パキン! と音を立てて砕け散っていくじゃないですか。

 うわあ、なんだあれ。なんだこれ。

 エリザベッタ様の即死の魔眼、生命の有無とか全然関係ない能力なんじゃないか!

 人型をしたものなら、どんなものだって見ただけで殺せる能力!

 人型じゃないものは……。


「あら」


 エリザベッタ様が、天井から垂れ下がってきた粘液に気づいた。


「うひょお、なんすかあのドロドローっとしたやつは! ベタベタになるのは勘弁っすよ!?」


「あー、ベタベタになるっていうか溶けちゃうやつだねー。あれスライムだよ。レヴィアタンのダンジョンにもいたでしょ。新聞屋が服を全部解かされてしまったのは眼福だったなあ」


「忘れろー!! その記憶を頭からなくしてしまえー!!」


「うわー!? 僕目掛けて魔法をぶっぱなすのはやめてー!」


『HPがアップ!』

『精神がアップ!』


 だけど、今度はそんな心配いらなかったのだ。

 一瞬だけエリザベッタ様とスライムが見つめあったように思った。

 するとすぐに、スライムはネバネバを失って、ドロドロの汁になって崩れてしまった。

 まるで水みたいにびしゃびしゃと地面に降り注ぐ。


 エリザベッタ様の魔眼は、人間じゃないものだと、お互いがお互いを認識しあった瞬間に発動するみたい。

 で、エリザベッタ様と認識しあった対象を即死させる。

 これは単細胞生物だとかゴーレムでも関係ない。

 さっき、鏡みたいに反射する壁越しにゴーレムを一撃死させていたので、鏡越しとかも関係ないみたい。


 僕たちの馬が死なないのは、単純にあの馬が人を人とも思ってない傍若無人な馬だからみたい。



「いやあ……エリザベッタ様がいると楽っすなー」


「うん、まさかエリザベッタ様におんぶに抱っこになるとは思わなかったよ!」


「えへん、私だってやれるときはやれるのよ」


 そのやる、が殺すとかいてやるに聞こえる僕。


「あ、ちょっとちょっと、張井くん」


「なんだい新聞屋」


「どりゃあ!」


「ぎゃーっ!」


 僕はいきなり新聞屋に突き飛ばされた。

 そこに魔法陣みたいなのがうっすらと浮かび上がっていて、僕が乗っかると物凄い音を立てて光り始めた。

 なんか、僕をどこか遠くへ飛ばしてしまいそうな気配を感じるぞ!


「ええい、飛ばされるかーっ!」


 僕は我慢した。

 すると、魔法陣がガリガリ、ピーピー音を立てて点滅し始めた。

 ここでピコーンと僕の頭に電球が灯る。


『魔法カウンター』


「そぉぉぉいっ!」


 魔法カウンターとかいう技が導くままに、僕は腕を振り回した。

 そうしたら、魔法陣から発生している魔力みたいなのに当たって、そのまま魔力を吹き飛ばしてしまったみたいだ。

 魔法陣は消えた。


『精神がアップ!』

『魔力がアップ!』


「やっぱりテレポートさせる罠だったっすなー。大きい魔法陣だったのでどうしようかと思ってたっすよ」


「僕がテレポートしたらどうするつもりだったのさ!?」


 上に載った相手をテレポートさせる魔法陣っていうのは、岩の中とか、ダンジョンの凄く奥に人を飛ばしてしまうので、とっても致命的らしい。

 今は僕が我慢比べで勝ったからよかったけど、負けたら大変な事になるところだった。


「張井くんはほら、罠解除装置っすから」


「説明になってないよ!」


 でも、本当に解除装置みたいな技を身につけてしまったけど。


「えーい」


『ゴゴゴゴゴゴゴ』


 エリザベッタ様が一睨みで物凄く大きいゴーレムを片付けたので、この辺で休憩にする。

 今日は朝からダンジョンに潜ってる。

 入り口が見つからなかったので、新聞屋が街中でいきなり地面に魔法をぶっぱなして大きな穴をあけたのだ。

 ということで、多分結構ショートカットしている。

 仕掛けられてる罠とか、中にいる魔物とかは凄く殺意が高くて、大体みんな強かったり毒があったり酸を使ったりする。

 だけど、唯一そういうのに弱いエリザベッタ様は遠距離から相手を殲滅しちゃうし、新聞屋は滅多に使わないけど、凄い回復魔法を持っている。

 あと、僕は毒とか即死が効かない。


 ということで、ちょっと際どいアトラクションが多いピクニックみたいな感じになっている。

 なんていうか、デスダンジョンじゃなくてデス(笑)ダンジョン。


 本日のお昼ご飯は、双尾の狐の料理人さんが作ってくれた、本格派サンドイッチ。

 厚切りの今日焼きたての白パンに、ローストビーフ……ローストミート? なんかよく分からないローストしたお肉を挟んで、ハーブを散らしたやつ。

 もう、頬っぺたが落ちるほど美味しい。


「美味しい……! イリアーノのお料理は美味しいと思ってたけど、世界はまだまだ広いのね」


「ですねー。僕もびっくりです。元いた世界でもこんな美味しいのはあんまり無いかも」


「うまうまっす! うおー、たっぷり入ってるっすから食べ放題っすけど、こ、これ以上食べたら太るっす……!」


「新聞屋は食べてもおっぱいとかお尻に行くから大丈夫じゃない」


「きちゃまー!? デリカシーという言葉を覚えろっすー!!」


「きゃー! 食事中にフェースロックはやめてー!?」


『HPがアップ!』

『体力がアップ!』


 でも実際、レヴィアタンの洞窟にいたときよりも、新聞屋は育ってる気がするんだよなあ。

 僕も背が伸びたけど、新聞屋はちょっと大人っぽくなった。

 これであの三下みたいなキャラじゃなけりゃもてるだろうに。


「ん、なんすか?」


「いやー、お肉がついたなーって思って」


「ごぶふぉっ!?」


 僕の一言で盛大に新聞屋がむせた。



 さてさて。

 途中まで露骨に人の手……悪魔の手かな? ……が入ったダンジョンだったのが、途中から露骨に天然の洞窟になってきた。

 地面が大きく掘り返されて、何か巨大な生き物が通り抜けていった跡みたいだ。

 ゴツゴツとした壁は、土に岩、鉱石が交じり合っている。

 それなのに安定していて、ちょっと触ったくらいではびくともしない。


「この先にいるみたいっすねえ」


 新聞屋のタヌキ耳がぴくぴくする。

 こう見えて新聞屋、タヌキ耳での人間離れした聴力を持っているのだ。

 あまりに地味すぎて活躍する機会が無いだけなのだ。

 あと、これ以外にも普通の耳もある。つまり耳が四つある。


「このタヌキ耳はどうやら魔法の器官みたいなものっすよ」


「ほほー」


 本来新聞屋に宿った能力は、多分この耳なんだろう。

 ちょっとした噂話でも聞き逃さない地獄耳。

 だけど、何の間違いか魔法を覚えてしまって、しかもその魔法がどんどん強くなっていく。


 時々通路のあちこちから顔を出す、ドラゴンのペットとか孫みたいな怪物を、新聞屋は事もなさげに土魔法をぶっ放して撃退していく。

 どこから出てくるか分からないので、ここはエリザベッタ様だけに任せると危険。

 ということで、前衛新聞屋、後ろで僕が常にかばえるようにして、間に挟まるエリザベッタ様という隊列になっている。

 あっ、また一匹新聞屋がやっつけた。

 この辺はよく怪物が出てくるね。

 エンカウント率が高いっていうやつだ。


「ドラゴンは自分の鱗や分泌物から、低級な眷属を作り出す力があると言われているわ」


 エリザベッタ様が解説してくれる。


「一見すると大きな魔物だけど、ドラゴンっていうのは全部が優れた魔術師で、ドラゴンの肉体全部が魔力を帯びた素材なの。だから、自分の汗や唾や血、脂からも眷属を生み出せるのよ。これは多分、奥に潜んでいる地竜が作り出した眷属ね」


 マニアックな知識だけど、これも本で読んで覚えたのだとか。

 イメージよりもずっとドラゴンっていうのは厄介なんだなあ。

 だけど、眷属くらいだと僕たちには歯が立たない。

 立ち止まってるとどんどん湧いてくるから、先に進まないといけないけれど、面倒くさい以外は特にこれといった危険はないまま。


 それでまあ、やってきたわけだ。

 奥には闇があって、そこから何かがこちらを見てるのが分かる。

 エリザベッタ様がじっと奥を見通そうとしていて、その度に聖王国でニックスさんが張っていた結界みたいなのが、パキンパキンと割れる音がする。

 どうやらエリザベッタ様の力を知っていて、対策をしてあるらしい。

 間違いなく、あの暗い中にいるのは目的のドラゴンだ。


『・・・・・!』


 言葉として聞き取れない音がした。

 次の瞬間、僕たちの足元がまるで大きな生き物の口みたいに開いて、岩の牙が襲い掛かってくる。


「張井くん!!」


 新聞屋がエリザベッタ様を捕まえながら、僕にしがみついてくる。

 任せて欲しい!


「”魔法カウンター”!!」


 僕は地面に拳をたたきつける。

 岩の牙は、僕の拳骨と激突すると、そのまま消滅した。

 これ、ノーリスクで打ち消すんじゃなくて僕もそれなりに馬鹿にならないダメージを受ける。

 僕のHPがめちゃめちゃに多いので、ダメージを受けても問題ないだけ。

 多分、魔法のダメージの何割かを軽減して、カウンターを使う人間が一手に攻撃を引き受けつつ打ち消す。そういう技だ。

 決して真似してはいけない。


 闇の置くから、驚いたような吐息が漏れた。

 そこで攻撃がぴたりとやむ。


 やだなあ。

 このドラゴンかなり賢い気がする。

 何かやるたびに学習して対策を練ってくる。

 同じミスは犯さない。そういうタイプの敵だ。

 ベルゼブブが地竜が手ごわいみたいなことを言ってた理由が分かるなあ。


 次に襲ってきたのはブレス。

 地竜でも炎を吐くんだね。

 これは僕の反応射撃で反撃!

 いい感じでダメージを与えたみたいで、ブレスも止まった。

 またシンキングタイム。


 めんどくさい相手だなあ……。


『汝』


 闇の奥から声がした。


『なれば、汝の天敵を召喚しよう』


 えっ、なんだって。


「張井くんの天敵? 誰っすかそれは! あっしのこと?」


「ないない」


「アミはハリイが好きなのよね」


「ないっす! ないっすわー!!」


 騒いでいる間に、地竜の魔法は完成したらしい。

 闇の中に光が生まれて、そこから誰かが出てくる。

 それが人間だったら、エリザベッタ様の魔眼でいちころだ。

 だけど、出てきたと思ったら、その人はたたっと走ってきて、エリザベッタ様が「えっ?」と振り返る前に後ろからドロップキックした。


「きゃーっ!?」


「ぎゃーっ!?」


 エリザベッタ様と新聞屋がまとめてひっくり返った!

 これはまずい! エリザベッタ様が目を回している! この人耐久力とかは運動不足の深窓の令嬢並みなのだ!


「ふふふ! 必殺の魔眼も当たらなければどうという事はないわ!!」


 その人は、僕よりも背が低い女の人で、つまり小柄な人だ。

 髪の毛を二つのお団子にまとめていて、薄い胸を張ってフンス! と鼻息を漏らす。

 僕はびっくりして、信じられなくて、目を見開いていた。


「え、え、なんで? どうして?」


「なんでもどうしても無いわよ! ここにあたしがいる! それだけよ!」


「僕の天敵って……小鞠姉ちゃん……!?」


 現れたのは、僕の幼馴染にして姉の親友。

 現代世界にいるはずの、板澤小鞠さんだったのだ!

小鞠さん、一話以来の登場。幼馴染タグが仕事をした瞬間である。

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