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第四十二話:ドMとクラスメイトと初めてのチュウ

「酒を持ってくるっす!!」


「えっ! 新聞屋、全く懲りてないのかい!!」


 タヌキ耳の彼女が行った宣言に、僕は戦慄した。

 エリザベッタ様が下の階に降りて行くと大いなる惨劇が繰り返されるので、僕たちは部屋で食事をする事にしたんだ。

 そしたら、新聞屋はお酒を頼むと言う!

 この世界に来たばかりの頃、お酒を飲んで僕に向かってえれえれと胃の中の物を吐き出したことがあるのに!

 あと、僕達は中学二年生です!!

 アルコールはいけません!


「お酒はよろしくないよ新聞屋!! ただでさえ乏しい脳細胞が破壊されてしまうよ!」


「きちゃまー!? あっしを煽ってるっすねえええ!?」


「うおー! 新聞屋フォークを握りしめて僕を攻撃するのはよろしくない! 暴力的だあー!」


『HPがアップ!!』

『体力がアップ!』


「お酒……私も飲んだことないなあ。ねえハリイ。アミが言ってることだし頼もうよ」


 エリザベッタ様まで乗り気になってる。

 こうなると二対一だ。僕に勝ち目は無いので、自然とお酒が注文されてしまうのだ。

 ちなみに、注文しに外に出たらさっきやってきた黒覆面の人たちはひとり残らずいなくなっていた。

 僕が全員ぶっ飛ばしたはずなんだけど……回収されちゃったのかな?

 再襲撃あるかもしれないなー。

 なんだろうなあ。

 物騒だなあ。


 宿の中はしんと静まり返ってる感じ。

 下の階は酒場だった気がするんだけど、そこもなんか静かだなあ。

 とりあえず僕だけは気をつけておかないとだ。

 まあ、エリザベッタ様を最初の一発目から守ればもう問題ないと思うけど。



 運ばれてきたご飯は、なんか豪快だった。

 すごく焼いた肉。

 焼いた野菜。

 煮込んだ野菜とお肉のスープ。

 味付けは塩。


「シンプルっすねえ……」


「スパイスも使われてないのね。初めてだわこういうの……」


「お酒は……うわっ、なんか凄いねこれ、葡萄の皮が浮いてるんだけど」


「張井くん分かってないっすねー。これがファンタジーなぶどう酒ってやつっすよ!! 通はこれを飲むっすよー!」


「いやいや、新聞屋は僕と同じ未成年だしそもそも通じゃないじゃん」


 だけど盛り上がってる女子たちは僕の話なんて聞いてくれないのだ。

 二人できゃっきゃ言いながらお互いの木のジョッキにぶどう酒を注ぐと、ぐいっと一気に(あお)った。


「ぷはあ! この雑味! ドロッとしたのどごし! 実にジャンクっすねえ!」


「刺激的な飲み物なのねえ。普段飲んでいた果汁を絞った水とはぜんぜん違うわ」


 エリザベッタ様、すぐにほっぺを真っ赤に染めながらニコニコ。

 かわいい。

 新聞屋もなんだかんだ言ってお酒には強くないので、二杯目を口にするうちに真っ赤になった。

 食事も結構進んできてて、塩味だけとは言え、育ち盛りの僕たち三人はもりもり食べた。

 同時にちょこちょこぶどう酒を飲んでた新聞屋だけど……。


「うっぷ、な、なんかちょっと気持ち悪くなってきたっす」


 ふらふらっと立ち上がった。

 言わんこっちゃない。

 エリザベッタ様はもう、椅子に持たれてすうすう寝息を立ててる。

 よく寝てるなあ。まるでぶどう酒に眠り薬でも入ってたみたいじゃないか。

 ……って、まさか?


「うーっぷ。張井くん、ちょっとこっち向くっすよ」


「うわ、お酒臭いなあ新聞屋!! やっぱり飲酒は良くないよ!」


「いいーっすよ!! 親兄弟がいないこの世界だからこそ、好き勝手をやるーっす!! それにあっしが適当やったら、面倒を見るのが張井くんの仕事っすー!」


「ひどい!! 僕に何の得があるのだ!」


 僕は抗議の声を上げた。

 たとえ女の子にいじめられると気持ちよくなる僕であっても、人権はあるのだ!!


「ちいっ、仕方ないっすねえ……それじゃあ、お給料を……って、何を払えばいいっすかね?」


 新聞屋は真っ赤になった顔、とろんとした目でぶつぶつ言ったかと思うと、


「おっ! あっしにいい考えがあるっす……!」


 ろくでもないセリフを吐いて、僕にくっついてきた!

 うおわっ! やっぱり新聞屋に抱きつかれると物凄く気持ちいいな!?

 そして新聞屋の顔が近づいてきて……って、えええええ!?


「むぐっ!?」


「んぐう……」


 僕の唇の貞操は、見事このワータヌキに奪われてしまったのだった!!

 流石の僕も混乱して、目を白黒。

 そしたら、新聞屋、僕にキスしたまま、


「ぎ、ぎぼぢわるい」


「ひゃ、ひゃめろー!」


「うぷ」


 えれえれえれえれー。


『HPがアップ!』

『HPがアップ!』

『HPがアップ!』

『HPがアップ!』

『HPがアップ!』

『HPがアップ!』

『体力がアップ!』

『体力がアップ!』

『体力がアップ!』

『魔力がアップ!』

『魔力がアップ!』

『魔力がアップ!』

『精神がアップ!』

『精神がアップ!』

『精神がアップ!』

『愛がアップ!』

『愛がアップ!』

『愛がアップ!』


 今までにないべらぼうなステータスの伸びだ!!

 口移しでえれえれーっとされたけど、僕は体の中から沸き上がる未体験のパワーを感じていた。

 こ、これは新しい世界だ!!

 悪くない、決して悪くないぞ!!

 いや、むしろ……!


「ううっ、き、気持ち悪いっす……。……はっ!? あ、あっしは今何を……!?」


 あっ、新聞屋が自分を取り戻した!

 どうやら記憶がきちんと残ってるらしくて、じっと新聞屋がえれえれしたものまみれの僕を見て、自分の唇を触って、わなわな震え始めた。


「あああ、あっしの貞操がああああああっ!?」


「いろいろな意味でご馳走様でした!!」


 覆面の男たちが雪崩れ込んできたのはその時だった。


「なにい!! ぶどう酒にあれだけ眠り草を入れてやったのに、どうしてお前らは起きてるんだ!?」


「うわっ、このガキくせえ! ゲロの臭いがしやがるぜー!!」


 男たちは手に棍棒やロープを持っている。

 今なら分かるぞ。

 この宿は、最初から僕たちを捕まえて、どこかに売り払うつもりだったんだ。

 この世界、女子供だけで旅を出来るほど甘くないみたいだなあ。


「まあいい! どっちにせよガキだからな! 捕まえちまえ!!」


 エリザベッタ様は目を閉じて寝ているから、魔眼の力は発動しない。

 これは危機かもしれない!

 だけど、そんな僕をよそに、新聞屋は男たちをじろりと睨みつけた。


「みみみ、見ていたっすねあんたたち!」


「何をだよ!」


「ガキのキスなんざ見ても面白くもねえや!」


「ムキイ―――――――――――!! あっしの痴態を見られたからには生かしちゃおけねえっすううう!! 諸共に死ねえええ!! ”光の流星群(ライトニングメテオ)”ッ!!」


 一瞬、チカッと空が光ったので、とりあえず僕は新聞屋とエリザベッタ様に全体ガードをしておいた。

 次の瞬間である。

 この宿場町が世界の地図上から消えた。

 そして、僕のステータスがまたさっきと同じくらい上がった。




「あ、水が吹き出してる」


 ちょうどいいので、噴水みたいに飛び出した水で、僕は汚れた顔や服を洗った。

 エリザベッタ様はまだぐうぐう寝ている。この人は大物かもしれない。

 新聞屋はどうやら、今の魔法で魔力を使いきったらしくて、ぶっ倒れている。

 今まで倒れたことがなかったから、今回のはよっぽどすごかったんだろうなあ。

 振り返ると町の跡があるんだけど、見渡す限り続く、グランドキャニオンみたいなクレーターがそこにある。

 端の方からちょろちょろ水が流れこんでるみたいで、じきにここは物凄く大きな湖になるかもしれない。


 白目を剥いて倒れてる新聞屋が、酔っ払った勢いで胸をはだけかけたままだったので、とりあえず服装を直しておいてあげる。

 風邪でも引かれたら大変だし。


「とりあえず、誰か目が覚めるまで見張りかなあ……」


 僕はため息を付いた。

 遠くから、馬がやってくる。

 僕たちが乗ってきた荷馬車だ。

 危機を感じて遠くまで逃げてたらしい。

 まあ、宿場には泊まれなかったけど、荷馬車があるし大丈夫だろう。


 次に行くのはもうちょっとましな町だといいなあ。

 そんな風に思いながら……僕もうとうとと夢の世界に落ちていった。

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