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第四十一話:ドMと姫と宿場町

 エリザベッタ様のおかげで見逃してもらったというか、僕と新聞屋と聖王国の大戦争にならずに済んだ感じ。

 なんか、僕たちってあれかしら。

 指名手配みたいになってきてる?

 まあいいや。


「街道は随分揺れるのねえ」


 ガタゴトいう荷馬車に揺られながら、エリザベッタ様は楽しそう。

 見るもの聞くもの珍しいんだから当然だろう。

 女子供だけで旅をしてる僕たちを、カモだと思って盗賊がやってきたけど、エリザベッタ様と目が合って全員死んだりした。

 その他、動物はエリザベッタ様に見られても、目を合わせないと死なないみたい。

 僕たちが連れてる馬がずっと生きてるもんね。

 人間を即死させることに特化した能力なのかもしれない。


「ふっふっふ、滑稽な連中だったっす! まるで人がゴミのように! 倒れていったっすなあ」


「あんまりご飯が美味しくなる光景じゃなかったよねえ」


 盗賊が襲ってきた件を思い出しながら、干し肉とかをかじる。



 あの時、僕たちは大変不用心な感じで見晴らしの悪い岩場の間の道を通っていたんだ。

 そこへ、盗賊たちがやってきた。


 岩山の上から馬で駆け下りてきて、髭面のいかつい男の人が僕たちの馬車を取り囲んだのだ。


「おう、馬ぁ止めろ!! いやあ、俺達は運がいいなぁ。ガキだけでここをちょろちょろ通ってる奴がいるとはなあ」


「あっ、盗賊だ。初めて見たなあ」


 僕が御者席から感想をいうと、その盗賊の人はむっとした。


「ああん? なんだそのでかい態度は! 大人に対する礼儀ってやつを教えてやろう!」


「ノーセンキューです!」


「ガキが!!」


 盗賊がナイフを抜いて切りかかってきたので、


「すまないが髭面は帰ってくれないか!!」


 叫びながら僕のカウンターが炸裂!


「あふん……」


 盗賊の人はそのまま膝から崩れ落ちた。


「こ、このガキ抵抗を……!」


「いや待て、こ、こいつ今何をやりやがったんだ!?」


 ちょっと警戒した感じになる盗賊の人たち。

 そこへ、お昼寝をしていたエリザベッタ様が顔を出した。


「どうしたの? なんだか騒がしいけど町についたの?」


「! おお! 上物がいるじゃねえ……アバー!!」


 ちょうど正面にいた盗賊が、エリザベッタ様と目があってしまって、そのまま目と耳と鼻と口から凄い量の血を吹いて死んだ!

 これはもうパニックものだ!


「ど、どうしよう……!? 思わず見ちゃったけど……」


 一度見てしまうと、姫さまの好奇心は止まらない。

 視線を動かさないように努力しているんだけど、思わずチラッと横を見てしまって、そこにいた盗賊を五孔から噴血って感じで殺しちゃう。

 うん、好奇心旺盛な性格と、やっちゃダメって思うともっとやっちゃう性格と、この致命的な能力の組み合わせ!


「え、別にいいんじゃないっすか? どうせ社会のダニっすよ!」


 新聞屋が適当に煽る。


「まあ、僕も特に興味とか無いし……。この人達に付き合っても楽しいことないしね」


 僕だってだいたい同じ気持ちだったので、エリザベッタ様の凶行に全面的に賛成することにした。

 ここにブレーキ役はいないぞ!!


「それじゃあ」


 エリザベッタ様、なんか罪悪感とかが吹き飛んだ顔をしてにっこり。

 僕の手を借りて荷馬車から降りると、恐れおののく盗賊たちに向かって振り返った。

 次の瞬間、あたり一面から血の噴水が空高く上がり、すぐに静かになったわけだ。


「おおー……。見事に全員死んだっすなあ」


「その、私、今になって罪悪感がひしひしと。やっぱりこれってやっちゃいけなかったんじゃないかな」


「まあやっちゃったものはしょうがないですよ。でも、街でこれやったら大変なことになりますよね」


 盗賊団一つを壊滅させて、そして今に至るわけなのだ。

 僕たちは聖王国を抜けて、適当な小さい宿場に泊まった。

 エリザベッタ様の頭からフードを被ってもらって、目をつぶって歩いてもらう。

 僕と新聞屋が手を引いて誘導する感じだ。


「えっ、子供だけで旅をしてるのか。不用心だなあ。この辺りには凶悪な盗賊団が出てくるようになってるんだ。もともとはイリアーノと遊牧民の戦争を当て込んだ傭兵だったんだが……」


「えー、こわいっすねえー。盗賊団なんて物騒っすー」


 新聞屋が超棒読みでぶりっ子してる。

 まあ、見た目は可愛い女の子なので、僕たちを出迎えてくれた宿の人は丁寧に盗賊団の脅威を語って聞かせてる感じだ。


「うんうん、全く物騒なんだぞ。そういうわけで気をつけるんだぞ。……ゴホンゴホン」


 宿の人の目線が新聞屋の胸とかお尻ばかりをチラチラしている。

 隠してるつもりかもしれないけどバレバレだぞ。

 新聞屋、ようやく君を女子として評価してくれる人が出てきたぞ!! よかったね!!


 で、そんな宿の人が僕たちの泊まる部屋を用意してくれたんだけど。


「ひゃっほーい! ふかふかのベッドっすー!!」


 ぼすん、とベッドに新聞屋が飛び込んだ。

 用意してもらったのは、真っ白なシーツが敷かれた、とっても上等な部屋だったのだ!


「これは不自然に立派な部屋だね!!」


「んんー? どうしたっすか張井くん、あっしの魅力でこの部屋をゲットしたのが気に入らないっすかあ? ふふふー。ミリキのある女はこうして男を惹きつけてしまうっす! はーっはっはっは! 困ったものっすなあ!」


「うわあ、調子にのってるぞこのタヌキ!」


「どちらにしても、宿に泊まるのは初めてだから楽しみだわ。お食事はどうするの?」


「部屋に運んでもらおうかなーと」



 僕たちが泊まることになった部屋は、宿の三階にある大きなものだった。

 見晴らしがとてもよくて、町の外の風景と、ちょっと離れた海が見える。

 なんちゃってオーシャンビューだ。


「エリザベッタ様、視線を下に降ろすと大惨劇なんで上だけ見ましょう」


「ええ、き、気をつけるわね。チラッ」


「うわあー!! じいさまが突然五孔噴血して死んだー!!」


「ぎゃわー!? エリザベッタ様本当にあんた辛抱がきかない子っすね!?」


 エリザベッタ様が幽閉されたのは、エカテリーナ様を束縛するためだけじゃなかった事を確信した僕たちである。

 うむ、とんでもない人を野に解き放ってしまったのかもしれないと、一緒に旅をして一週間目くらいで思う。

 まあいいか。



 夕食前にお湯が運ばれてきたので、新聞屋とエリザベッタ様がお風呂なのだ。

 僕は強硬に、


「女子だけでは不用心なので僕がこの場に残って君たちを見守るべきだ!」


 と主張したんだけど、ゼロ距離からの新聞屋の土魔法連打を食らって外に弾き飛ばされてしまった。

 壁がちょっと破けたけど仕方ないよね。


『HPがアップ!』

『HPがアップ!』

『精神がアップ!』

『精神がアップ!』

『魔力がアップ!』


「洗うたびに思うっすけど、エリザベッタ様はもっと肉を食うべきっす! 胸とか尻とかもっと大きくするっすよ! 腰回りとかは……う、羨ましくなんかないっすぞ!?」


「きゃはは、くすぐったい! アミは胸もお尻もふんわり柔らかで大きくて素敵ねえ。あら、お腹周りにこれくらいお肉が付いている方が殿方は好きなのじゃなくって?」


「ほひょははは!? く、くすぐったいっすー!!」


 ああちくしょう! うらやましいなあ! 今すぐ乱入したいぞ!

 僕がじりじりしながら壊れた壁から首だけだして唸ってると、近くでギシッと音がした。

 そっちを見ると、なんだか黒覆面の男の人たち。


「あれ、この階の外のお客さん?」


 この階は今、僕たちの貸切状態のはずだけど。

 僕が疑問を発したら、その人たちはものも言わずに僕に向かって、手にした棍棒を振り下ろしてきた。

 当然のように跳ね返す。


「すまないけど、男の人に殴られて喜ぶ趣味はないんだよね!! お姉さんをつれてきなさい!!」


 僕は叫びながら、壁の破片を撒き散らしつつ【全体カウンター】!

 男の人たちはものも言わずに吹っ飛んでいった。


「ななな、何があったっすか!?」


 扉が開いて、湯気がモワーっと出てきた。

 窓をあけてるかもだけど、部屋の中にちょっと湿気がこもりそうだよね。

 それはそうと、うひょー!!


「ありがたやありがたや」


「ぎょえーっ!? き、きさま見たなーっ!!」


 バスタオルなんていういいものはないので、体を拭く布で最小限だけ前を隠した新聞屋。

 これはとても良い物を見たぞ!!

 生きていてよかった!

 今日は最良の日だ!!


「死ねえ!! ”岩石の大斧(ロックバルディッシュ)”!!」


 新聞屋は最近、威力範囲の狭い土魔法を工夫してるらしい。

 これもその一撃だね。

 見事に僕の頭に炸裂すると、そのまま床が砕けて僕は二階に頭から落っこちた。


『HPがアップ!』

『精神がアップ!』

『魔力がアップ!』

『愛がアップ!』


「あらあら、アミ、どうしたの? 顔が真っ赤よ?」


「なんでもないっす! っていうかエリザベッタ様出てきたらダメっすよ!?」


 うーむ……。

 いいものを拝んでしまった。

 多分、この世界に来たばかりの頃より育ってる気がするぞ!

 物凄くドキドキした!

 女子とは魔物だね……!


「ぼ、ボウズ大丈夫か……? 上から落ちてきたが……」


「あっはい、お構い無く!」


 そんな風にして夕食に突入するのだけど、さっきの襲撃者はここからが本番になるのである。

 あと、僕的に大変なことも……!

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