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第三十九話:ドMと姫と国境突破2

 僕たちはとりあえず、イリアーノ国境を越える事にした。

 そうしないと、聖王国地方にいけないし、聖王国の南西にいるベルゼブブに会えないのだ。


「グレモリーちゃんには来て欲しかったんだけどなあ」


「グレモリーでも、そのそくしのまがんには、たえられないです。そのまがんは、とてもきょうりょくです!」


 どうやら悪魔であるグレモリーちゃんでも対抗できないほど凄い力らしい。

 エリザベッタ様は凄いけど、こういう同行者がいなくなっちゃう意味では難儀だよね。

 安全さの理由から、僕と新聞屋とエリザベッタ様の三人で行く事になった。

 まあグレモリーちゃんが一緒だった時も、子供チームみたいな外見だったから、むしろ今回はエリザベッタ様のお陰で平均年齢が上がってるよね。


「エカテリーナ様は他の王族から怪しまれている。直接君を激励には来れないとのことだ。だが、エリザベッタ様を頼む、と言伝を貰った」


 すっかりエカテリーナ様の腹心になってる馬井くんだ。

 出羽亀さんと馬井くんで、エカテリーナ様の右腕と左腕だね。

 最初の右腕を自称してた新聞屋は、こうしてプーになって僕と一緒にいる。


「ん? 何を見てるっすか。さっさと行くっすよ!!」


「外の世界って、生まれて初めてだわ。なんだかわくわくするわね」


 僕たち用に荷馬車が用意されていて、御者はなんと僕だ。

 30分くらいレクチャーされて、大体こんな雰囲気って教えてもらっていきなり出発だ。

 追っ手がすぐかかりそうだし、時間が全然無いんだよ!


「張井くん、健闘を祈る。ベルゼブブには気をつけろよ」


「ほいほい」


 なんて主人公みたいな奴なんだろう。

 こいつがいると僕がメインを張れないじゃないか。

 ということで、僕は生返事して馬を走らせた。


「はいよー」


 ひひーん。


「うわあ、馬がいう事を聞かないぞお!」


「ぎょわーっ!? 張井くん全く馬の御し方分かってないっすよね!?」


「きゃあー! 速い速い!」


 僕たちは馬井くんを放置して、そのまま凄い速度で走り去ってしまった。

 しばらく爆走した後、馬がばててのんびり歩きになった。

 なるほど、こいつをばてさせていう事を聞かせればいいんだな!


 僕たちはパカポコと城下町を離れた。

 検問とかは脱して、外に用意された荷馬車を使っているので、国境までは平和なものなのだ。

 一応、イリアーノと聖王国の間にある大きな渓谷を抜けると、国境の検問もスルーできるんだけど。

 僕と、ブツクサ言うだろうけど新聞屋は余裕。

 エリザベッタ様の体力は限りなくゼロに近いので、途中でダウンする事請け合い。

 ということで、こうしてゴロゴロ街道を走らなきゃいけないのだ。


 街道って言っても、土を踏み固めて草を抜いたような道だ。

 人と馬の行き来が多くて、自然とできた通り道。

 イリアーノの緑にあふれた光景から、だんだん赤茶けた風景に変わってくる。

 聖王国国境が近いんだなあ。


「外の世界はとっても刺激的ね! 暑かったり、寒かったり、明るかったり、暗かったり。暗くっても塔の中より随分明るく見えるわ。それに匂いがこんなにたくさん満ちている。素敵!」


 エリザベッタ様は何を見聞きしても感激していた。

 うんうん、僕としても連れ出した甲斐があったよね。


「ふっふっふ、エリザベッタ様あれがタヌキという動物っすよ! 最も高貴な生き物で葉っぱをお金に変えて人を化かすっす」


 適当な事を吹き込む新聞屋。

 エリザベッタ様も「まあ」とか言って信じてしまっている。


「新聞屋、でたらめはいけないよ!」


「フゥハハー! 何を言うっすか張井くん!! こんな右も左も分からない純粋なお姫様を、自分色に染めるこの快感!! 今しか味わえないっすよ!」


「ええい、やはり新聞屋は悪! 最近では僕をいじめないですっかりエリザベッタ様にかかりきりとは!!」


「フフフ」


「本当に二人は仲がいいのね?」


「とんでもない!」


「恐ろしい事をいわないで欲しいっす!!」


 そんな言い合いをしていたら、馬のお腹が減ったみたいだ。

 ちょうど小川の近くだったので、ここで小休止。

 追っ手がかかってると思うけど、のんきなものだ。


 僕たちはお城から持ってきたお弁当を食べる。

 水袋からお茶を出して飲む。


「まさかこうやって、誰かとお出かけする事ができるようになるなんて、思ってもいなかったわ」


「これからどんどんできるようになりますよ!」


「ええ、そうなってくれると嬉しいわ。でも、たとえ駄目だったとしても私は恨まないからね」


 エリザベッタ様は天使みたいな人だなあ。

 どこかのワータヌキとは大違いだなあ。


「むむっ、張井くん何かよからぬことを考えてるっすな!!」


「うわっ、痛い痛い! 新聞屋、食事中に蹴るのはやめろよう」


『HPがアップ!』

『体力がアップ!』

『愛がアップ!』


 さくっ。


 あいたっ!

 だけどこれはステータスがアップしないぞ。

 僕の頭に当たった矢がころんと落ちる。


「なにっ、俺の”貫きの矢(ペネトレイトアロー)”が!!」


「うおっ、追っ手っすよ!!」


 新聞屋が文字通り、座ったまま飛び上がった。


「あらー」


 エリザベッタ様は状況が理解できないらしくて、お弁当を手にしたまま目を丸くしている。

 でも、矢が飛んできた方向を見ないあたり、即死の魔眼を使わないように意識してるみたいだ。


「撃てーっ!!」


 ひゅんひゅんという風切り音とともに、無数の矢が降ってくる。

 僕はとりあえず、


「”全体ガード”!!」


 エリザベッタ様と新聞屋と馬と荷馬車を範囲に指定だ!

 お弁当箱片手に仁王立ちする僕に、次々矢が降り注ぐ。

 カキンカキン弾いている。


『HPがアップ!』


 あっ! 射手に女の子がいるぞ!!

 できることならその子だけで僕を射撃して下さい!!

 しかも僕のステータスが上がると言う事は、なかなか可愛い子のはずだ。

 僕のステータスアップは面食いなのだ。


「張井くん、全体ガードってどれくらい持つっすか?」


「そんなに持続時間は長くないんだよね。五分持たないんじゃないかな」


 今までは一瞬で発動して使うことが多かったから、持続時間を計ったことは無い。

 なので、あんまりこれに頼り切るのも危険な気がする。

 ちなみに全体ガード、一回使うと次に使うために、十分くらい充電時間がいるのだ。


「よっしゃ、あっしが一発吹き飛ばしてやるっすかね!」


「えっ、新聞屋は大量殺戮魔法以外にふっ飛ばすだけの魔法が使えたのかい!!」


「きちゃまー!!」


 うわー!!

 仲間をガードで守ってるのに後ろから新聞屋が蹴ってくる!


『HPがアップ!』

『体力がアップ!』


「し、新聞屋、やめるんだ! どうせ蹴るなら後ろからじゃなくて前から僕を!」


「変態めえ!!」


「ぐわー!」


『HPがアップ!』

『魔力がアップ!』

『精神がアップ!』


 降り注ぐ矢の雨をものともせずに内輪もめをする僕たちを見て、追っ手はちょっと呆気に取られたようだ。

 矢が一瞬止む。

 そこへ、


「はーっはっはっは!! 死ねえ!! ”光の奔流ライトニングストリーム”!!」


 新聞屋が放つ広範囲虐殺魔法!!


「虐殺しないっすよ!? 体力があれば生き残るかもしれないっす!!」


 ひどい!!


 周囲の岩場を砕き、木々を根こそぎ引っこ抜いて細切れにし、追っ手は身につけてる鎧とかを砕かれて、みんな宙を舞う。

 うむ、イリアーノの兵士が子ども扱いだなあ。


「よっしゃ、今の隙に移動するっすよ!」


「あのー、足音が聞こえてくるんだけど」


 ずっと目を隠しているエリザベッタ様が言う。

 彼女が目を開けると、それこそ助かりようのない大虐殺が周囲に生まれてしまう。

 新聞屋の魔法の方が、まだ食らった相手が生き残る可能性が高いのだ。

 だけどまあ、ド派手なのが弱点で。


 お陰で国境の辺りから、つめていた兵士たちがこっちにやってくる。


「ええい、十人も百人も同じじゃあ!!」


「あっ、新聞屋が切れた!」


 僕は慌てて仲間たちを全体ガードで守る。

 次の瞬間、国境線を含む半径百メートルが光の魔法で薙ぎ払われたのである。



”国境線のイリアーノ軍壊滅!!”


「……なんていうニュースが今頃伝わってるんじゃないかなあ」


「あああ、あっしは悪くない!」


「綺麗な魔術だったわねえ。アミは凄い魔術師だわ」


「え、そ、そうっすか?」


「魔法が綺麗なら綺麗なほど人の命がなあ……」


「うう、うるちゃーい!!」


 ということで、こっそり国境越えをするつもりが、非常に派手に国境破りをしてしまった僕たちである。

 これって絶対に聖王国にも気づかれている。

 でもまあ、行くしかないんである。

 荷馬車はコトコト走り、イリアーノ国境を抜けた。

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