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第三十六話:ドMと張り込みと暗殺者

 エカテリーナ様が狙われているのは明確である!

 ということで、護衛をしなきゃいけないね、という話になった。

 彼女の寝室に出入りを許されているのは出羽亀さん一人だけ。彼女は特例で、侍女としての立場を与えられているみたいだ。


 僕たち男がお姫様が寝泊りする辺りにくるのは当然禁止。

 だけどそこは、新聞屋の透明化魔法を使って入り込む事にした。

 エカテリーナ様の部屋まで入ったら、彼女が立場が悪くなるかもなので、自主的に僕は廊下で寝る!

 透明化して寝るぞ!


「きゃあ、なんだか柔らかいものを踏んだわ!」


『HPがアップ!』

『愛がアップ!』


「あっ、配膳ワゴンが何かにぶつかって、熱々のスープをぶちまけてしまったわ!!」


『HPがアップ!』

『体力がアップ!』

『精神がアップ!』


「ねえ、ここ面白いわ。何も無いはずなのに柔らかいものがあるの。踏むとぎゅうぎゅう言うのよ」


「姫様!? こ、これは透明化した曲者です!」


 であえであえー。

 ということで、慌てて僕は逃げ出した。

 ちぇ、あそこはまさに天国だったのになあ。

 最後に僕を踏んだのは、エカテリーナ様の一番年が近いお姉さん。マリアンジェラ様。

 既に北の国に嫁ぐ事が決まってるそうで、王位継承権を放棄するそうなので、他の王族からいじめられずに伸び伸びやってる人だ。


 女子トイレの近く辺りまで逃げ延びた僕、そこでホッと一息。

 なんとこのお城、トイレがあるのだ。

 グレモリーちゃんいわく、こういうのは悪魔が文化として教えてるんだって。

 だけど、女子トイレ。

 なんていうかロマンがあるよね。

 僕はこそこそと女子トイレを覗いていると、後ろからとんとん、と肩を叩かれた。


「あ、はい」


「あなた曲者さんでしょ?」


 あっー!

 あなたはマリアンジェラ様!


「そうです、私がマリアンジェラですよー。曲者さん、なにをしてるの?」


「僕はエカテリーナ様の護衛をしているのです」


 僕は正直に話した。

 マリアンジェラ様、どうやら姿を消している僕が見えているみたいだ。

 だけど気づかない振りをして踏んだのだ。

 見えている僕を踏んだのだ。

 大事な事なのでもう一度言おう。

 僕に気づいているのに僕を踏んだのだ。

 うおー。

 エクセレンッ。


「なるほどねえ。あの娘、才能があるばかりに疎まれているものね。それに、あの娘の双子の妹が人質にとられているのよ」


「えっ、それって重要情報じゃないんですか」


「王宮以外には秘密の話だもの。誰に言ったって与太話だって思われるわ。それに私はもうじきお嫁に行くから、この国の秘密なんてぷっぷくぷーのぷーよ」


 あっ、この人面白い人だ。


「それに、私、あなたと女の子がが姿を消して、エカテリーナを守るように近くにいたのを見てるもの。悪い人じゃないんでしょ? 可愛いし」


「あっ、撫でていただいてありがとうございます!!」


「かわいー! 声も高くて女の子みたい!」


 あっあっ、そんなに撫で撫でされるとーっ。


 しばらく僕を愛でて、マリアンジェラ様は人心地ついたみたいだ。

 

「私ね、ずーっとお馬鹿の振りをしていたのよ。王宮って魔窟なの。賢かったり優れていたりすると、殺されてしまうわよ。だからこの目の力も隠して、ずーっと息を潜めて生きてきたの。私、お兄様方やお姉様方が思うよりも、何でも知っているのよ」


 なるほどー。

 結構大変な人生を歩んできた人みたいだ。


「そんな私の勘が、あなたに色々吹き込むと面白くなるぞって伝えてるの! だから重要な情報をぶちまけちゃうのよ!」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 そんな訳で、僕はマリアンジェラ様からエカテリーナ様の事情を聞いた。

 イリアーノ王家には、結構な頻度で忌み子とされる、悪魔のような力を持った子供が生まれてくるんだとか。

 その一人がマリアンジェラ様。

 彼女はありとあらゆる隠されたものを見つける目を持っていた。

 でも、賢かったマリアンジェラ様は、すぐにその能力を隠して、お馬鹿なお姫様を演じて生きてきた。

 エカテリーナ様が授かったのは、あの類稀なる戦闘能力。

 だけど彼女は真面目だったので、能力を隠さなかったみたい。この力を国のために役立てようとしたんだね。

 だけどそれを、兄の王子たちや姉の王女たちに目を付けられてしまって、嫌がらせされている。

 何よりも、エカテリーナ様には双子の妹がいて、彼女は今も塔に幽閉されているとか。


「その娘の名前は、エリザベッタって言ってね。エカテリーナは彼女を人質にされているから、お兄様お姉様の理不尽な命令に従わざるを得ない。その臣下の言葉にもね。エリザベッタが解放されれば、エカテリーナは自由になれることでしょう」


「なるほどお」


「だけど、誰もエリザベッタを解放できないわ。だって、エリザベッタにはとびきり忌まわしい力が備わっているの」


「ほうほう。そりゃなんですか」


「それはね」


 そんな話をしながら、僕はマリアンジェラ様と一緒にエカテリーナ様の寝室前まで戻ってきた。

 ちなみに今、僕は、マリアンジェラ様に着せられたメイド服姿である!

 うわあ、スカートで足がスースーするぞ!!

 しかもなんか体にフィットしている。

 鏡に映った自分を見て、ちょっと惚れ惚れしちゃったぞ。

 変な趣味に目覚めそうだ!

 うっふーん!


 そんな事をしてる暇じゃなかった。

 マリアンジェラ様の目が細められた。


「いけないわね、いるわ。エカテリーナを殺す為に、あれほどの相手を雇うなんて」


 なにやら暗殺者みたいなのがいるらしい!

 僕には見えないけど。

 僕はもう、姿隠しの魔法を解除しているから、一見すると普通のちっちゃいメイドだ。

 ちっちゃい、という辺りが悲しい。僕はマリアンジェラ様より小柄だからね!


「よし、僕がやっつけてきます」


「あら、あなたってそうは見えないけど強いの?」


「一応、そこそこやれますよ!」


 日本人的な謙遜を述べて、僕は走り出した。

 スカートがまとわりつくなあ。あんまり上手く走れないぞ!

 よし、スカートの裾を持ち上げるんだ!

 ひゃあ! 風が通り抜けるぞ!! 涼しい!


 次の瞬間、僕の体にナイフが突き刺さろうとして、ポロッと落ちた。

 暗殺者が攻撃してきたのだ。

 ちょっとHPが減ってる。

 うん、ステータスが伸びないから暗殺者は男だな!

 手加減抜きだ!

 見えないけど。


「エカテリーナ様!」


 扉をバンバン叩いて中に飛び込んだ。


「!?」


 下着姿で目を丸くしているエカテリーナ様。だけど、既に剣を手にしている。


「どうしたのですか!」


 出羽亀さんが声をあげた。

 なかなか堂に入った侍女ぶりだ。

 そして彼女は僕を見るなり、ステータスで判別したらしい。


「張井くん!? な、なにその格好!? ぷぷっ、に、似合ってる……!」


「それどころじゃないってばー! ええい、”全体ガード”!!」


 僕が叫ぶが早いか、複数のナイフが飛んでくる。

 全部エカテリーナ様狙い……と思いきや、あぶねー! 一本が出羽亀さんに向かってた!

 とりあえず、ナイフはみんな軌道が変わって、僕にぶつかってぽとぽと落ちる。

 先端がぬらりっとしてるから毒が塗ってあるね、これ。

 毒耐性があるから僕にはもう効かないけど。

 でも、相手の姿が見えないとどうしようもないなあ。

 このままじゃ逃げられちゃう。


「張井くん、いたわ、あっちよ!」


 そうしたら、出羽亀さんが僕の手をギュッと握ってきた!

 うひゃー! 柔らかいなあ!

 でも、これで出羽亀さんが目にするステータス表示を共有できる。

 いた、いたぞ。



名前:アンドロス

性別:男

種族:人間

職業:暗殺者

HP:4600/4600

腕力:60

体力:55

器用さ:85

素早さ:90

知力:50

精神:30

魔力:30

愛 :15

魅力:40


取得技:ナイフスナイプ

    ポイズンマスター

    闇魔法レベル4



 ステータスが丸見えになったから、これで攻撃できる!

 なんだい、なんか自分のステータスに見慣れると、しょっぱいステータスだなあ。


「張井くんと亜美がおかしいのよ。みんなあんなものよ!? あ、エカテリーナ様も突出してるけど」

 

 相手の姿は見えないけど、ステータスの方向で大体分かる。

 なんか、ステータスが遠ざかっていくような……。

 あっ、逃げてる!?


「サトコ! 私に透視の力を与えてくれ!」


「あ、はいっ」


 エカテリーナ様に声を掛けられて、出羽亀さんが彼女にくっつく。

 エカテリーナ様は出羽亀さんを片手で抱きながら、剣を振りかぶる。


「”隼斬り(ファルコンスラッシュ)”!!」


 超高速の飛ぶ斬撃だ!

 それは狙いを過たず、逃げようとする暗殺者にぶつかり、ズバッと何か切れた音がした。


「あ、HPゼロ……」


 すぐにそいつは姿を現した。

 右半身と左半身が泣き分かれになって、地面にどさっと落ちる。

 うん、やっぱりエカテリーナ様は強い。

 僕が感心していると、彼女は僕の肩をぽんと叩いた。


「助かったぞハリイ。その格好は気になるが、おかげでサトコを失わずに済んだ」


「いえ、どういたしまして!」


 うわ、エカテリーナ様おっぱい大きいな!


「それよりも、エカテリーナ様にお話したい事があります!」


「? なんだ?」


「それは私からもあるわねえ。いいかしら、エカテリーナ?」


 マリアンジェラ様が部屋に入ってくる。


「姉上!?」


「この子たちなら、あなたを解放してくれるわ、エカテリーナ」

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