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第二十九話:ドMと騎士団と初めての魔法

「せつめいするまえに、ちょっとじゅんびするです」


 僕の魔法の師匠になったグレモリーちゃん。

 普段は舌足らずな口調で喋っているけれど、これで長文を話すのはきついらしい。

 何か魔法をゴニョゴニョっと唱えると、もくもくと湧き上がった煙に包まれてしまった。


 後から現れたのは、グレモリーちゃんに良く似た妖艶なおねえさん。


「この姿で説明をするのですよ」


 おお、それとなく声にもグレモリーちゃんの面影が。

 彼女本来の姿はようじょだけど、こういう大人モードになって、人間の間に紛れ込んだりするらしい。

 子供が一人で歩き回っていると目立つからね。


「ハリイとニッタ、つるぺたとぽちゃ。ベルゼブブが異世界から召喚した者たちには、みなベルゼブブの”ルール”が施されているのです」


「ルール? それって、法律とか決まりとか言う?」


「言葉は同じです。でも、意味は違うのです。ベルゼブブはこの世界を管理する黒貴族と呼ばれる存在の中でも、頂点に位置する悪魔。魔王と呼ぶものもいるのです。本来魔王の役割を果たすものは、レヴィアタンの他、ベリアルが現存していますがあれについて今語るのは辞めておくのです」


「なるほどー。それでそれで?」


「ハリイたちは、存在をこの世界の人間とは違うものに歪められているのです。例えば、ハリイがニッタに魔術をかけられるほど強くなる事や、ニッタが使う誰も見たことの無い魔術などです。つるぺたやぽちゃも、オリジナルの魔術に目覚めつつあります。あれらは見た目こそ現存するものに近いのです。でもそのあり方は全く違うのです。詠唱を経ず、魔力を消耗せず、ただ使用回数によってのみ管理される異形の魔術。これはハリイが使う体術にも似た事が言えるのです」


「ええと、じゃ、僕たちはこの世界の人が使ってるような魔法や、技は使えないっていうこと?」


「そうです。ハリイたちは言うなれば、ベルゼブブの使い魔、もしくはゲームのコマとしてこの世界に存在しているのです。そしてそれぞれ、強くなっていくルールが違うのです。ハリイは攻撃を受ける事で強くなるのです。自分から身につけようとしてもあまり強くはならないのです」


「じゃあ、僕は魔法を身につけられないっていうことなのかな? ガーンだなあ」


「そうとも限らないのです。何か、ハリイが使える魔術があるはずなのです。それは無意識の内に使っている可能性があるのです。例えば、あの集団に向かって反撃する技とか」


「全体カウンターか!」


「集団を守る技もです。あんな技は不可能なのです。既に一種の魔術なのです。でも、今存在する魔術の系統とも属性とも違う。あえて名づけるなら、”気の魔術”」


「気! なんか急にオリエンタルな感じになった!」


「意識してアレを出すつもりで使うことで、魔術として完成するはずです。グレモリーはハリイに、精神を統一する方法は教えるのです。でも、魔術を発現させるのはハリイしか出来ないのです」


「そうか……! ありがとうグレモリーちゃん!」


「何、グレモリーの役目は、ハリイたちが詰まったらちょっと手助けするのもあるのです。ただの人間がどこまでいけるのか見せてもらうのです」


 そんなこんなで僕の修行が始まった。

 巷では、ついに東原の遊牧民とイリアーノ軍の小競り合いが始まったという話で持ちきりだ。

 だけど、僕は今はやらなくちゃいけないことがあるのだ。


「とりゃっ! ”腕力強化”!」


 攻撃力アップのために始めた気の魔法だけど、これがなかなか難しい。

 イメージ的には、自分の一番高いステータスを上乗せして腕力を強化する感じ。

 一番高い……。体力かなあ。

 だけど、それなりには強いものの、まだ石の壁をぶち抜くくらいのパワーにしかならない。

 これって多分、ザンバーさんよりも全然弱いような。


「おっ、何をやってるっすか張井くん。はっはっは、張井くんの仕事は肉の壁っすよ! 修行なんかしたって意味は無いっすよー!」


 新聞屋が安定してひどい事を言ってくる。

 ああ、心が安らぐなあ。

 僕をリスペクトするつもりの無い彼女の言葉は、一服の清涼剤だ。


『精神がアップ!』


「大体、能力を載せるなんて言っても高が知れてるっす。張井くんのとりえなんて、そのとんでもなく高いHPしかないっすからねえ」


「新田さん!! 幾らなんでも言いすぎです!!」


「新田、あんたしばくよ!」


「ほっほーう、今のあっしは強いっすよー? ずっと支配者やっててサボってたあんたたちが勝てるっすかねえ?」


 僕は衝撃を受けていた。

 新聞屋が言ったひどい言葉にではない。

 アレはいつも通りだし、むしろご褒美だ。

 衝撃を受けたのは別の事だ。

 ステータスって、能力値のことだけじゃないよね。

 だったら、一番高いのを載せるなら、HPだっていいんだ。


「よおし!! ”腕力強化”!」


 僕は魔法を念じた。

 ステータスを思い浮かべる。

 この拳の上に載せるのは、僕の有り余るHP……!!

 次の瞬間、僕の拳がまばゆく光り始める。

 なんか、これ、物凄く熱い。


「うわっ、なんだこれ!」


「きゃっ!?」


 委員長が悲鳴を上げた。

 僕が軽く振った手が空気を打った瞬間、その辺りの空気が爆ぜたのだ。

 ちょっと吹っ飛ばされた委員長を、マドンナが抱きとめる。


「すご……! 何、それ……!?」


 僕の手から光は消えていた。

 どうやら、意識して一発ぶっぱすると消えてしまうみたいだ。

 同時に、物凄い脱力感が襲ってきた。

 これってもしかして……。



名前:張井辰馬

性別:男

種族:M

職業:M

HP:1/109450

腕力:6

体力:450

器用さ:8

素早さ:6

知力:4

精神:190→206

魔力:115→140

愛 :344→498

魅力:25


取得技:ダメージグロウアップ(女性限定、容姿条件あり)

    クロスカウンター(男性限定、相手攻撃力準拠)

    全体カウンター(男性限定、固定ダメージ)

    河津掛け(相手体重準拠)

    反応射撃(射撃か投擲できるものが必要、相手攻撃力準拠)

    全体ガード

    気魔法行使レベル1


 うわあっ、HPが1だ!


「ま、マドンナ! 回復魔法かけて!」


「分かったわ! ”水の癒し(ヒールウォーター)”!」


 モリモリ回復する感じ。

 うわあ、やばかった。

 HPを上乗せすると、物凄い効果がある。

 だけど、上乗せされたHPは消費されてしまうんだ。

 さっきの一撃は、多分新聞屋のこの間はなった魔法だって真っ向から打ち消せるだろう。

 でも、同時に僕はHPのほとんどを失ってしまう。

 そこで体力を抜ける攻撃をされたら、おしまいだ。

 僕もカードになってしまう。


「ありがとう、マドンナ」


 ちょっとフラッとしたら、マドンナがどっしりと僕を支えてくれた。

 彼女、ちょっとふっくらしたけど、その分重心がしっかりしたみたいだ。

 ふかふかしてて柔らかい。


「もう、仕方ないわね。この魔法を使うときは、必ずあたしが傍にいてあげるわ」


「うん、そうしてもらえるとありがたいよ。これ、すっごくリスクがあるみたいだ」


 体力や他の能力値を載せるだけなら、大した威力はないけれどリスクも無い。

 HPを載せたら一撃必殺。だけど、僕も一撃で必殺されそうなHPになっちゃう。

 回復してくれる仲間は大切だ。

 新聞屋はあてにならないしね。


 委員長は、マドンナが僕を支えながら嬉しそうに笑っているのを見て、ちょっとフクザツそう。

 委員長が今使えるのは炎の魔法だから、回復とかができないのだ。

 その代わり、炎の鎧を作ったり、逆にものの温度を奪って凍りつかせたりと、幅広い応用ができるようになってきている。


「委員長もお願い。多分僕を守ってもらう事になるかも……」


「もっ、もちろんです!! 任せてください!」


 自分の居場所があるって分かると、俄然張り切る委員長。

 マドンナもニコニコしてるし、いい雰囲気じゃないか。

 今まで僕は、可愛い女の子に蹴られたり殴られたり、なじられたりする事に喜びを覚えてきたけど、そろそろこういう普通の環境に慣れてもいいのかもしれない……!

 そういえば、新聞屋は。


「ひっ、ひいいいーっ! 張井くんが恐ろしい技を身につけたっすー!? ま、まさか今度あっしが裏切ったら、あれがあっしに向けられる……!? うひいー! 恐ろしいっすー!!」


 腰を抜かしてあわあわしている。

 平常運転だ。

 そもそも裏切らなきゃいいんじゃないかなあ。

 とにかく、僕的にこれで準備は出来たと思う。

 向こうでようじょモードに戻ったグレモリーちゃんに頷いて見せた。


「よし、いこう! エカテリーナ様を戦争から助けるんだ!」

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