第二十六話:ドMと騎士団と不本意ハーレム
グレモリーちゃんのゲートでワープした僕たち。
次はどこに行くのかしらと、お気楽気分でいたのだけれど。
「ひいいっ、あ、足元がないぃっ!!」
「わあああっ! 張井ぃっ! 離さないでええっ!!」
「わぎゃー」
委員長とマドンナが、物凄い力で僕にしがみついてくる。
そうか、彼女たちはゲートで移動するのは初めてだったね。
僕と新聞屋も二回目だけど、見ろよ新聞屋の余裕っぷりを。
上下逆さになって結跏趺坐のポーズして遊んでるよあいつ。
「うーん、いつもながらこの空間は何か悟りそうっすねー。楽して一生生きられる方法を悟れたら最高っすねー」
「ニッタはぞくっぽすぎるです」
悪魔であるグレモリーちゃんに言われるくらい新聞屋は俗な人間なので、悟るのは一生無理だと思う。
そんな風に思いながら、僕は委員長の肉が薄くてちょっとごつごつする感触と、マドンナのちょっと肉がつき過ぎてむにむにする感触を味わいながらゲートの中を飛翔した。
割と長い時間飛んだなーなんて考えてたら、突然ポコッと出口から飛び出してきて、僕は地面に頭から突き刺さった。
「いたい!」
普通だったら首が折れてる気がする。
やっぱりこの移動手段って人間向けじゃないんじゃないか。
「ひえー」
「ぎゃー」
委員長とマドンナも投げ出されて、地面をゴロゴロ転がっていく。
激突の衝撃は僕で吸収できたから、怪我は無いはずだ。それ以前の怪我でボロボロの二人だけど。
「うおわあああああ!! 張井くんどくっすよぉぉぉー!?」
うわっ、新聞屋が降ってきた!
僕は頭が地面に刺さってるからどけないぞ!
「くっそ、こうなれば張井くんを吹き飛ばしてあっしだけは無事に! えーとえーと、どれかいい魔法があったはぶげらばあっ」
魔法選びに迷ってる間に落下した新聞屋が僕の足に突き刺さった。
そのまま、ぷらーんと力を失って僕の突き出した足に引っかかっている。
死んだかな?
「危ない危ない……! こ、この宝石袋がなかったら即死だったっすよ……!」
あ、生きてた。
「宝石袋?」
「いかにも!! 混乱に乗じて、間戸さんや井伊さんの屋敷からかっぱらってきた……いや、かっぱらわせた宝石っす!!」
「いつの間に……!」
戻ってきた委員長とマドンナが唖然としている。
「ふふふ、あっしも生き汚さには定評があるっすからね! こうして宝石を確保して……うぎゃああああ砕けてるっすううう」
着地のクッションにした時に、ショックで壊れちゃったみたいだね。
新聞屋はショックに打ちひしがれて、
「うおおおーん、あっしの、あっしの宝石がああ」
「それはそもそも私の部下が集めた宝石だったはずです、この泥棒」
「半分はあたしのものでしょうに。盗人猛々しいわ。火事場泥棒」
口々に新聞屋を泥棒呼ばわりして罵るが、なんだろう。二人から、険のようなものが取れている。
なんていうか、元の世界で学校にいたころのような二人に戻っているのだ。
「張井くんも、よくこんな人と一緒にいられたわ。でも安心して。これからは私がきちんと管理してあげるから」
「あ……あたしだってそれくらいできるわ。それよりも、あたしは新田と違って、いつでも回復魔法を使ってあげるわ」
……なんだろう、この違和感は。
おかしい。二人の様子がおかしい。
「んん――――? あんたたち、なんか態度が変じゃないっすかねえ? 妙に張井くんに優しすぎないっすかねぇー?」
ねっとりした口調で新聞屋が追求してくる。
こんな嫌らしい声色を良く出せるなあ。
でも、確かにその通り。委員長も新聞屋も、僕をゴミクズのように蔑んでくる視線や罵倒こそが至高だったのに、なんだかこんな、まるで好意を持ってるみたいに言われると困ってしまう。
僕は別にそういうものは望んでないのだが。
「うん、まあ適当によろしくね。それよりも二人とも、無理しなくていいんだよ。もっと前みたいに僕を蔑んだり罵ったり蹴ったり殴ったりしていいんだよ。むしろそうしなさい」
「そ、そんなことできないわよ!」
「そうだよ……! 私たちは張井くんに命を助けられたんだから。恩人だよ……!!」
ああああああああああああああああ!!
なんて、なんてことだ!!
僕が彼女たちを助けてしまったばかりに、僕は彼女たちの心に存在する、僕に対する蔑みと言う最高のかちあるものを、自らの手で砕いてしまったのだ。
僕はゆっくりと膝をつき、うなだれた。
「もうだめだあ……おしまいだ……!」
「ぬおっ! 張井くんが打ちひしがれてるっす!! 今がチャーンス!! 食らえ、宝石の恨みっすー!! 死ねえ!!」
「新田! あんた空気読め!!」
「新田さん馬鹿なことしないで!」
新聞屋が宝石袋を振り回して襲い掛かってくる……のを、マドンナと委員長がダブルのラリアットげ迎撃する。
「げぼはあっ!」
新聞屋は二人の腕を支店にくるっと一回転して、後頭部から地面に落ちた。
「ぐおおおお! 頭がー!! あっしの脳細胞が今一千万くらい死んだっすー!!」
ラリアットはダメージになっていないのか。
恐ろしい。
振り返った二人は、戸惑い顔だった。
「だったら、どうすればいいのよ。あたし、その……よく、男の子の事わかんないから……」
「わ、私だってそうです。こういう気持ちって初めてで、どうしたらいいか……」
「おやおや、あおいはるのにおいがするです! でもハリイはへんたいです! これはむくわれないこいのにおいです!」
グレモリーちゃんが超嬉しそう。
この子、こういうゴシップ好きだよなあ。
とにかく、僕は二人をこのままにしておけないので、無理に笑顔を作って言った。
「大丈夫だよ、気にしないで。二人は今までどおり……そう、僕たちがこの世界に来る前と全く同じようにしてくれていればいいんだ」
本当にそうして欲しい。
切に願うよ。
だけど、僕の思いは通じたのか通じてないのか微妙。
「そ、そう? じゃああたしはこのままでいいのね……?」
「元のままの私を受け入れてくれるって……そういうことなんですね……。張井くん、優しい……」
あああああああああああ!!
違うよ!! 全然違うんだよおおおおお!!
くっ、なんてことだ!
この世界は、委員長とマドンナを変えてしまった!
とんだディストピアだ!
こんな世界にいられるか! 僕は帰るよ! ……帰る手段があれば。
「おい、お前たち、何をしているんだ……?」
騒いでいる僕たちだったが、そこがどこなのか、考えてもいなかった。
そういえばこの場所には壁があって、天井こそないものの、屋内の中庭のような場所だ。
僕たちに声をかけたのは、浅黒い肌の体格のいい男性。
「子供……? 子供ばかり、どこから入ってきたんだ?」
彼は戸惑った顔をして、辺りを見回している。
最近分かったんだけど、僕たち日本人の顔は、年齢よりもずっと年下に見えるみたいだ。
ましてや、永遠のリアルようじょグレモリーちゃんもいる。
「ええと、魔法で飛ばされてきてここに来ちゃったんですけど……すみません、ここはなんていうところなんですか?」
僕が質問すると、男の人は得心したようで頷いた。
「なるほど、先刻東方であった爆発に関係しているんだな? よくぞここまでやって来たものだ。この地は聖王国エルベリア。私とお前たちがいるのは、王城グレートホーリーの練兵所だ」
聖王国というところまで、どうやら僕たちは来てしまったらしい。




