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第十七話:ドMと内政と三人の魔女

「でえいっ、”光の放電撃(ライトニングプラズマ)”っすー!!」


「あぎゃぎゃぎゃぎゃー! しっ、新聞屋、僕を実験台にして魔女という事を照明するのはいかがなものだろう! いや、なんか今の電撃で肩こりが取れた気がする」


『HPがアップ!』

『力がアップ!』

『体力がアップ!』

『きようさがアップ!』

『すばやさがアップ!』

『精神がアップ!』


 あっ!!

 ついに始めて、力ときようさとすばやさが上がったぞ!

 なんか、今の電撃で神経を刺激されたりなんかしたのかもしれない。

 これでもう、上がってないのは知力だけだ!

 知力なー。


「お、おおお、確かに魔女だ……! いえ、魔女ブンヤー殿! ようこそアッブートの町へ! 従者殿も歓迎いたします!」


 兵士の人がいきなりへりくだった。

 そりゃ、目の前でいきなり、物凄い光をバリバリ見せられたら態度だって変わるよね。

 えっ、従者って僕のこと?

 新聞屋が、僕をドヤァッていう顔で見る。


「ふっふっふうー! 張井くん、ようやくあっしの偉大さが分かってきたみたいっすね! そう! これが世間一般の判断なんすよ! そおれ、門を開けるっすよ! 魔女ブンヤー様のお出ましっすー!」


 新聞屋が音頭をとり、おそらく魔女ブンヤー派閥最初の一人となる、門番の兵士の人が恭しく扉を開けた。


 町の中は、なんていうか静かなものだった。

 人は歩いているんだけど、会話がない。


「妙に静かですね」


「は、外で余計な事を話すと、魔女の耳に入って粛清されてしまうのです」


「え、それは魔女イイーもマドーも?」


「マドーの耳と呼ばれる連中があちこちに潜んでおりまして」


 でも、今こうして僕たちに教えてくれてる兵士の人、立場が危なくなったりはしないんだろうか。


「いいんですか、僕たちにそんなこと教えて。今も誰か聞いてるかも」


「ハハハ、私は新たな魔女ブンヤーの派閥に下った身。他の魔女など恐ろしくはありませんよ!」


 なんて言ってたら、遠くからシュピッと何やら跳んできて、すとんっと兵士の人の背中を射抜いた。


「ぎゃああああ!」


 矢だ!

 兵士の人がのた打ち回る。

 周囲の人々は怯えた目でそれを見る。

 これが、魔女マドーの耳って連中が行う粛清なのかもしれない。

 だが、我らが魔女ブンヤーこと新聞屋。

 ドヤ顔のまま歩み出る。


「どーれ、あっしの魔法を見るっすよ! うりゃあ、”光の治癒(キュアライト)”ぉっ!」


 最近では、HPを回復させるのみならず、毒や病気にも効くことが分かってきた、新聞屋の超高性能回復魔法である。

 たちまちの内に、兵士の人の背中の肉が盛り上がってきて矢を押し出した。

 すっかり傷が治ってしまう。


「お、おお! すごい!」


 立ち上がって、驚きと喜びに飛び回る兵士の人。

 兵士の人だと呼びにくいので、僕たちはこの人をソルさんと呼ぶ事にした。ソルジャーのソル。


 矢で射られたソルさんがすぐに回復魔法で癒されたのを見て、周りの人たちの目の輝きが変わる。


「ひょ、ひょっとして新しい魔女……!?」


「こんどは、癒しの魔術を使える魔女が!」


「イイーやマドーとは違うみたいだぞ!」


 集まる人々目掛けて、矢が射掛けられる。

 うへえ、徹底してるなあ。


「何をぼーっとしてるっすか張井くん!! あっしも狙われてるに違いないっすよ!! ええい、あんたが肉の盾になれっすー!!」


「きゃー!」


 新聞屋が僕を蹴っ飛ばした!

 僕は見事に、射られた矢の前に転がり出てきて、全ての矢が命中である。


『HPがアップ!』

『体力がアップ!』

『愛がアップ!』


 愛とは一体。

 例によって、僕のステータスがアップする。

 外見上は、僕に当たった矢が折れ曲がり、ぽろぽろと零れ落ちるように見える。


「矢が効かない!」


「不死身の少年だ!」


「魔女と不死身の少年が現れた!」


「みんな、こちらの魔女はブンヤー様だ! 我々を助けにきてくれたぞ!!」


「うおおおおお!」


 なんか、ソルさんが叫んだら、集まったみんなが盛り上がっている。

 まあ確かに、委員長やマドンナと比べると、新聞屋の親しみやすい外見は武器になるだろう。

 いっつも顔は緩んでるし、おっぱいも大きい。


「あーっはっはっは! あっしを崇めるっすよー! 奉るっすよー! ふうーははははは! ゆかいゆかい!!」


 めちゃくちゃ調子に乗ってる。

 僕たちはあっという間に、大きな派閥になってしまった。

 これを黙ってみている、残り二つの派閥ではないらしい。

 すぐに、怪しい一団が姿を現した。


 ひとつは、全員が白ずくめで、びしっと体にフィットした服を着こなす連中。クールな感じのイケメンが多い。

 もうひとつは、やたらキラキラした宝石を身につけた、露出度多目の連中。ワイルドな感じのイケメンが多い。


「何事だ! 静まれ!」


「散れ、散れ!」


 彼らは大声で言うのだけど、民衆がいう事を聞かない。


「今までお前らにビクビクして生きてきたが、これからはそうはいかないぞ!」


「わしらには新しい魔女様がついているんじゃ! お前らの指図は受けん!」


「なんだと! 貴様ら、明日から生きてはいけぬぞ!」


 喧々諤々(けんけんがくがく)

 物騒な言葉が飛び交っている。

 新聞屋、ドヤ顔のままでイケメンたちを指差す。


「んー。あんたたちもさっさとあっしに付いた方がいいっすよ? 何せあっしは、魔女ブンヤー様っすからね! うふふふふはははははは!」


 これほどまでに、立場で人格が変わる人がいるだろうか。

 まさに魔女になりきった新聞屋、悪の女幹部みたいな様子だ。


「ええい、魔女などと!」


 いきり立ったクールイケメンの一人、剣を抜いた。


「げげーっ!! い、いきなり剣を抜くっすか!? は、話し合おう!! ええい張井くん、あっしの盾になれーっ!」


「ぎゃーっ」


 また新聞屋が僕を盾にした!

 剣は僕をなで斬りにした後、ぽっきりと折れた。

 例によって僕には外傷がない。

 HPが15点くらい減っただけだ。


「ば、馬鹿な……!!」


「ど、どうっすか! あっしには無敵の従者もいるっすよ! あんたたちじゃ、何人集まっても傷一つつけられないっす! 一昨日きやがれっすよ!」


 僕を使った肉の盾は、非常にいい宣伝になったみたい。

 民衆がワーッと盛り上がる。

 スゴスゴとイケメンたちは去っていった。

 魔女にお伺いを立てるのかもしれない。


 僕たちは、魔女が来る前は町長が住んでいたという屋敷に案内された。

 屋敷って言うかもう、これ廃屋だよね。

 ひどい有様だ。


「魔女たちは、町の西と東にそれぞれ豪勢な家を構えて住んでいるのです。我々はどちらに加勢しても命が危なく、地獄のような日々を送っておりました……!」


 ソルさんが説明してくれる。

 この町の産業なんかも、魔女たちが奪い合っていて、民衆には降りてこないらしい。

 だから、町の人たちは干上がりながら、なんとか今日の命をつなぐだけで精一杯の日々を送っている。


「それはかわいそうだね……! 僕たちでなんとかしなきゃ」


「おおっ、張井くんには何か手立てが?」


「うん、僕にいい考えがある。ソルさん! 頼みがあるんだ!」


「はっ、なんでしょうか」


「加虐嗜好が強い人と、被虐嗜好が強い人を集めて欲しいんだ!! 僕は、SMクラブで内政する!!」


「な、なんだってーっ!!」


 新聞屋の叫びが轟いた。

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