第十五話:ドMとようじょと再生の砂漠
「あなたがレヴィアタンですか」
『いかにも、私がガーデンを支える魔王、レヴィアタンです』
「ほー」
「張井くん! そんなポカーンと口開けてないで何か聞くっすよ!?」
「いや、だってさ、なんか凄いなーって」
僕たちの目の前にいる、その青い竜みたいなものは、優しげな言葉を伝えてくる。
本当に大きい。
多分、長さだけでも何百メートルもあるんじゃないか。
『あなたたちに、私は特別な力を感じました。きっかけは与えられた力なのかもしれませんが、既にあなたたちは自分のものにしていますね』
対象は、僕と新聞屋だ。
うん、多分こっちの世界にやってきた仲間で、一番強烈な体験をしてる二人だね。
ヒュージスライムっていう、何もかも溶かしてしまう魔物に襲われても、新聞屋すら服しか溶けなくてピンピンしていたから、結構強くなってるんだと思う。
『あたなたちには、運命に抗う力を感じます。だからこそ、私はあなたたちに力を貸すのです。さあ、望みを言いなさい。なんでも一つだけ叶えてあげましょう』
「んんん?」
「んん?」
僕と新聞屋は微妙な顔をした。
竜の姿の凄い存在。
一つだけ叶えてくれる願い。
なんかデジャブ。
「ひ、一つ願いを!? うひひ! 私ですよ! 私が願いを言いますよ!」
「はあ!? ちょっと待つっすよ! あんた何にもしてないっすよね!?」
「何を言うんですか! 私は元々ここに来たかったんですよ! というわけでこの場で望みを叶えるのは私なんですよ!」
「わっかんねー! 全然あっしにはわかんねえっすー!?」
「まあまあ」
僕はまたキーキー争い始めた二人の間に割って入った。
おうふ!
左右から繰り出されるパンチが僕を襲う!
『HPがアップ!』
『体力がアップ!』
『愛がアップ!』
『魅力がアップ!』
そろそろHPが1万の大台を超えたかもしれない。
どれくらいが標準なんだろうなあ……。
「ベレッタさんの望みって、そもそもなんなのさ」
それを聞かない事には始まらない。
「はーい! あっしは酒池肉林っす! 美少年を侍らせて金貨のプールで泳いで、パラソルの下で金箔を浮かべたコーラを飲むっすよ!!」
ひどい!
新聞屋らしいけどあんまりすぎる願いだ。
君は本当に女子中学生なの!?
「ふふふ! 小さい! 小さい願いですよ!」
「な、な、なにが小さい願いっすかー!」
「確かに小さいよねー」
「こんなちっぽけなねがい、ひさびさにきいたです!」
あ、新聞屋がいじけた。
あっしなんて、あっしなんて、って言いながら、隅っこでのの字を書いてる。
「ふふふ! 私の願いを話しますよ! 聞きたいですか!? 仕方ないですね!」
何にも言ってない。
でもベレッタさんが言いたいならどうぞどうぞって感じだ。
「私は、この砂漠を豊かな森にしたいんです! そして民が食べる者に困らない国を作りたいんですよ!」
「えっ!」
「えっ!」
「えっ!」
僕、新聞屋、グレモリーが愕然とした顔をした。
「な、なんですかその顔! 何かおかしい事言いましたか私!」
「お、おおお、おかしいっすよおおおおお!? あんたそんなキャラじゃないでしょおおおおお!?」
ベレッタさんに飛びついて、首をがっくんがっくんやる新聞屋。
あ、激しい動きをしたから、お尻が破けた。
「なななななな、ににににがががががおおおおかかかかしししししいいいい」
「新聞屋ストップ! ベレッタさんがいい感じにシェイクされてる!」
「ふう、はあ、おかしい。絶対におかしいっすよ。こんな頭おかしい系女子がまともな願いを持ってるなんて」
「一応王女ですからね!」
ベレッタさんはあっという間にシェイクから立ち直ると、薄い胸を張った。
とりあえず、そういう真面目な願いなら僕としても問題ない気がする。
僕が欲しいものは、現状満足に得られているしね。
「張井くんは良かったっすか?」
「ハリイはむよくなのです」
「僕はいいんだよ。いつでも望むものは得られるからね」
いつだって可愛い女の子にしばいてもらえるこの世界は、まさにパラダイスだ。
「そ、それじゃあ、レヴィアタン様! 私の望みを伝えます!」
『どうぞどうぞ』
なんかレヴィアタンが軽いなあ。
「この砂漠を、一面のっ」
「ジャングルに」
あっ! 新聞屋がボソッと一言挟んだ!!
「こらーっ!! きさまーっ!!」
「ぎゃあ! いたいいたい! フゥハハアー! あんただけをいい子ちゃんにはさせないっすよぉー!!」
『聞き届けました。人間はまたも試練を求めるのですね。物好きな』
「え、ちょ、ちょっと待ってください!? 今のなし! 今のはなしです!」
『だめです』
「レヴィアタンは、げんかくなまおうです! ぜんげんてっかいは、できないです!」
「そうかそうか」
胸を張るグレモリーちゃんを、可愛いねーって撫でてあげる。
彼女も撫でられて嬉しそうだ。
かなりなついて来たぞ。
しかし、愉快な……いや、大変な事になってしまった!
地上は今頃どうなっているんだろう。
『では、あなたたちを地上へ帰しましょう。私はまたしばらく眠るとします。願わくば、ガーデンに繁栄のあらんことを』
ゆっくりと、この空間が暗くなっていく。
魔王っていうけど、全然魔王らしくない魔王だったなあ。
むしろ、神様みたいだ。
背後で激しく、ぐるぐるパンチを応酬する新聞屋とベレッタさんを無視して、僕は物思いにふけった。
かくして、僕たちは地上へ転移した。
他人をテレポートさせる魔法かな?
「ゲートというです! グレモリーもつかえるですよ! ただ、こんなにだいきぼなゲートはできないです!」
ゲートとやらいう魔法で、ベレッタさんのファンクラブ百人くらいも一緒にテレポートしてきていた。
そして、目の前の風景を見て唖然とする。
「み、水がああああ!? 水が湧き出していますよおおお!? っていうか砂漠の何もかもが水に流されていきますうううう!!」
「姫! これで砂漠は変わりますね!」
「さすが姫です!」
「えっ、さすがですか?」
慌ててたベレッタさんだったけど、ファンクラブによいしょされてちょっと頬が緩んだ。
「さすがです!」
「誰にもできない事をやってしまった! これはもう姫はもう族長の娘じゃないですよ!」
「そうだ! 王様だ! いや、皇帝だ!」
「おほほほほ! やっぱり私って、やるときはやる子ですね! さすが私ですね!! じゃあ、もう、やっちゃいますか? 帝国作っちゃいます?」
「ええ、この洪水で既存のものは全部流れていますからね。今ならどさくさにまぎれて帝国を作れるはずです!」
わーっとベレッタさんたちが盛り上がった。
なんだか大変な事になってきた。
でも、これで砂漠の件は一件落着かなあ?
「ふう、いいたいけんができたです!」
グレモリーちゃんもご満悦。
「それじゃあ、もとのところにもどるですか? ゲートでいくですよ?」
「それもいいなあ」
「いや、それはまずいっす! あっし、戻ったら反逆者っす! 処刑とかされそうでいやっす!!」
うん、新聞屋は罪に問われるね、確実に。
「なので、あっし、亡命を希望するっす!」
「そうかあ、行ってらっしゃい」
「何を言うっすか!! 張井くんも来るっすよ!!」
「えっ!?」
僕たちのやり取りを見て、グレモリーちゃんは頷いた。
「わかったです! グレモリーが、ちがうくににおくってあげるです!」
「ヒャッホウ! 新たな旅立ちっすう!」
視界の端で、流れる水の間から、ニョキニョキと木が生え始めている。
まだはしゃいでいるベレッタさん一行。
ジャングルになるってことは、もっと大変なことになる気がするんだけど……。
いいや、気づかないうちに逃げちゃえ。
「仕方ないなあ、じゃあ、僕たちは行くよ!」
「はい、お世話になりましたハリイさん! 今度いらっしゃったときには、ぜひ、我がガルム帝国に立ち寄って下さい! 私の凄さを見せますよ! うふふ!」
最後まで変な子だったなあ。
「それではいくです! つぎのもくてきちは……」
僕たちは光に包まれ、新たな国へ飛んだ!
次回、委員長とマドンナ再登場でシュラバックスな予感です