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第十四話:ドMとようじょと巻きの入ったバトル

「ええい、こんな鎧と戦って楽しいはずがあるか! 僕は巻きを入れさせてもらう!!」


 僕は怒った。

 必ずや、この萌えのない鎧をさっさと下してやろうと決意した。

 誰がこんなごっついゴーレムと戦って楽しいんだよ!?


「うおおっ!? 張井くんが本気になったっす! あっしはこんな張井くんは初めて見るっすよ!」


「いままで、じょうきょうにながされるだけだったハリイがひょうへんしたです! いったいなにがおこるです!?」


「ひいっ!? わ、私は悪くないですからね!?」


 みんなが戸惑うのも無理は無い。

 僕は、可愛い女の子たちにいじめられていればそれで満足だったのだ。

 だが勘違いして欲しくない。

 僕は、男にいじめられても全く面白くないし、ましてや相手が無生物なら、このどこに喜びを見出せというのか!

 世の理不尽に、僕は怒る!


 そしてこの状況で、鎧の前に踏み出すのは、僕!

 以上!


「こらー! そんなに数がいるのになんで出てこないんだー!」


 僕は、ベレッタさんの後ろにいた百人近いお付きの人を叱る。

 彼らは顔を見合わせて、


「だ、だってなあ」


「あのゴーレムでかいし、怖いし」


「あなたたち! 私を守る為に戦ってもいいんですよ!」


「いっそ、姫がやられている隙に逃げると言う手も……」


「ひい! わ、私、部下に裏切られそうですよ! ピンチですよ!」


「人望がないっすねえ」


「ぶかにたてにされるひめって、グレモリーはじめてみたです」


 ほへーっと感心した顔をするグレモリーちゃん可愛い。


『もがー!』


 そうこうしていたら、鎧が襲い掛かってきた!

 僕はそいつが振り下ろす斧を、反復横とびの要領で回避しようとして……斧の真下に飛び込んだ。


「あいたっ!」


 HPが50くらい減った!

 くっそー、なんて狙いが的確なやつなんだ!


「うへえ、張井くん攻撃に自ら飛び込んだっす! ほんと、痛めつけられるのが好きっすねえ」


「違うよ! 僕は君たち女の子にいじめられるんじゃなければ、気持ちよくないんだ!」


 次々に繰り出される攻撃を受けながら、僕は高らかに宣言する。


「うわっ」


「ひえっ」


「ハリイ、どうどうとそんなこというの、グレモリーもどうかとおもうです!」


 あっ、引かれた!


『魔力がアップ!』


『グゴゴゴ……何故だ、何故倒れん! ならばこれでどうだ!』


 鎧は殴っても切っても、僕が傷一つ付かないことに焦ったようだ。

 意思とかあるみたいだ。

 そして、そいつは兜についたバイザーをパカーンと展開すると、僕目掛けてそこから赤いビームを放ったのだ!


 大振りの斧だって全く回避できない僕が、光の速さっぽいビームを避けられるはずがない。

 なので僕は、腰だめに拳を構えた。


「クロスカウン……むぎゃあっ」


 だめだー。

 ビーム相手にはクロスカウンターが出来ないみたいだ。それとも、相手が無生物だから出来ないんだろうか。

 これはいけない! 詰んでしまったぞ。

 なんとかあいつに近づければ、河津掛けが出来るんだけど……!


「うおーい、張井くん頑張るっすよー」


「新聞屋こっちにきて回復魔法使ってよ!」


「ええーっ! あっし、ビームでまた裸に剥かれるのはいやっすよ!? それにこの服きついから、派手に動いたら胸と尻が破けるっす!」


「ぐぎぎ……!」


 中学生離れしたナイスプロポーションであることが、さっき裸になって判明した新聞屋。

 ベレッタさんが世界全てを憎むような目で見ている。

 そんな事より、いい加減ビームが痛いんだけど!


「くそっ、このビームに対抗する手段があれば! 僕はこんな楽しくない戦闘、巻かなくちゃいけないんだ!!」


 強い決意と共に、僕は叫んだ。

 すると、その意思にこたえるように、僕の頭上でピコーンとなにやら閃いたではないか!

 僕の体は、鎧が放つビームに合わせて、流れるような動きで足元の石ころを拾った。


『反応射撃』


「ア”ァ”イ”ッ!」


 僕は名状しがたい声をあげて、ビームの反撃に石を投げつけた。

 この石が、どういう原理かビームと同じ速度で鎧にぶつかる!


『ウゴゴオ!』


 鎧の兜の一部が吹っ飛んだ。

 石は高速すぎて、大気摩擦と鎧にぶつかった衝撃で砕けてしまった。

 むむっ、これ強いぞ!

 一見すごくかっこわるいけど!


「石でゴーレムを!」


「どういう原理なんだ!」


 わからん!

 だが、一瞬攻撃が止まった鎧だ。

 僕はこの機会を見逃さない!


『もがー!』


「いたいいたい!」


 攻撃があっという間に再開したけどもうどうでもいいよ!

 僕はガンガン攻撃を受けながら鎧にしがみついて、相手に足を引っ掛けた。


『河津掛け』


「しゃー! こらー!」


『ウゴオ!』


 僕の気合と共に、鎧ごと後ろへ倒れこむ。

 僕も鎧も後頭部を強打してダメージを受ける!

 なあに、僕はHPが多いから大丈夫!

 この一撃で、鎧の上半身が壊れかかった。


「ヒャッハァー!! 今っすう!! ”石つぶて(ストーンブラスト)”ぉ!!」


「うわー! 新聞屋、僕がいるってばー!?」


 新聞屋が全力を込めた、範囲魔法で石つぶてを降らせる。

 僕ごと巻き込まれた鎧は、


『ガガガ、ピー!』


 叫びながら、全身を砕かれて戦闘不能になった。


『HPがアップ!』

『精神がアップ!』

『愛がアップ!』


 鎧にやられてもちっとも強くならなかったのに、新聞屋にフレンドリーファイアされた途端に強くなった。


 僕はこの戦闘の中で、とりあえず魔法への対抗手段を覚えたぞ。

 ではチェックしてみよう。



名前:張井辰馬

性別:男

種族:M

職業:M

HP:3041/6888→9888

腕力:3

体力:79

器用さ:5

素早さ:3

知力:4

精神:0→4

魔力:67→70

愛 :75→88

魅力:18


取得技:ダメージグロウアップ(女性限定、容姿条件あり)

    クロスカウンター(男性限定、相手攻撃力準拠)

    河津掛け(相手体重準拠)

    反応射撃(射撃か投擲できるものが必要、相手攻撃力準拠)


 腕力とか知力がちっとも上がらないのはとても悲しいけど、強くなった!

 強くなったぞ!

 ちなみにこのHP、新聞屋が僕に与えたダメージが3000くらいだ。

 いつか新聞屋にやられる気がする。


「ふへへ! あっしの力で勝ったっすよ! 張井くん感謝するっす!」


「あと一撃新聞屋の魔法を食らったら僕が死んでたよ!!」


「だ、誰にだって間違いと言うものはあるっすよ!」


「おほほ! あなたってドジなんですね! 私ならそんなミスしないですけどね!」


「なにー! あんたなんか見てただけじゃないっすかー!?」


 むきー、と新聞屋とベレッタさんが争いだした。

 とりあえず、僕は一息。

 そこへグレモリーちゃんがトコトコやってきて、


「グレモリーは、ハリイがえらいとほめてあげるです。ひとりたちむかったのは、おとこのかがみです!」


 近くの踏み台になりそうな石に登って、僕の頭をなでなでする。

 わーい、ようじょのなでなでだ!



『我を倒した者よ。汝を約束の勇者と認めよう。予定の刻限よりも500年ほど早いがまあ良かろう』


 さっきの鎧みたいな声が響いた。

 ピカッとどこからか光が差し込み、僕を照らし出す。


『約定に従い、汝に魔王レヴィアタンの力を貸そう』


 ゴゴゴゴゴ、と音を立てて、目の前にあった岩壁が開いていく。

 ここは丸ごと、巨大な扉だったのだ!


「一体どういうことだい」


「ハリイはみとめられたです。これはすごいことです!」


 興奮気味のグレモリーちゃん。石の上でぴょんぴょん跳ねるので、滑って「きゃ」と落っこちかけた。


「おおっと!」


 僕は素早くキャッチする。

 こういうときだけは、僕は神速で動く事が出来るのだ。戦闘では亀くらいの速度だ。

 僕に抱きかかえられて、足をぷらーんとさせているグレモリーちゃん。


「ふう、たすかったです。とっさだったので、とぶのもわすれてたです! ハリイ、れいをいうです!」


「どう致しまして」


「さあ、レヴィアタンにあいにいくですよ!」


「あいさー!」


 僕はようじょに導かれ、巨大な扉の中に踏み出した。


「ああっ、ま、待って欲しいっすよー!」


「私を置いていくなんてありえないですよ! レヴィアタンに用があるのは私ですよ!」


 新聞屋とベレッタさんも慌ててついてくる。

 僕たちが入った後、お付きの人たちは安全を確認して、それから入ろうとしていたみたいだ。

 だけど、すぐに扉が閉じてしまった。

 何人か閉じる扉に跳ね飛ばされて、「ぶぎゃー」とか悲鳴を上げていた。

 まあ、いてもいなくてもいい人たちだったし。


「ああっ、私のファンクラブが!」


「ファンクラブだったの!?」


 そもそもそんなものが、こんなファンタジーな世界にあることが驚きだよ!

 だけど、こんな驚きもすぐに塗り替えられてしまう。

 なぜなら、振り返った僕たちの目の前に、とんでもないものがあったからだ。

 それは、視界いっぱいを覆い尽くす、巨大な青いもの。

 まるで蛇のようで、竜のようで、だけどそうじゃない。

 遥か頭上から、声が聞こえた。


『よくぞ参られました。約束の勇者よ……』


 これが、魔王レヴィアタンとの邂逅(かいこう)だったんである!

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