第十一話:ドMとようじょと砂漠の国
ひょんなことから、僕たちは今、空を飛んでいる。
突然現れた悪魔っぽいようじょが、魔法を使ったのだ。
魔法は大爆発を起こして、その場から、僕と新聞屋、そして空中にいた悪魔ようじょを巻き込んで、どこかへと吹き飛ばした。
今まさに吹き飛ばされる最中。
「ええい、ばかばか! なぜグレモリーをまきこむですか! にんげんのくせに、なまいきなのです!」
グレモリーちゃんと言うらしい。
ようじょがぽかぽかと僕を叩く。
痛い痛い。結構痛い。
つまりご褒美だってことだよ!
ヒャア! ようじょの折檻だ、たまらねえ!
『HPがアップ!』
『HPがアップ!』
『HPがアップ!』
『体力がアップ!』
『体力がアップ!』
『愛がアップ!』
もりもり強くなるぞ。
グレモリーちゃんは、赤髪に羊の角を生やした、ジャンパースカート姿の美幼女である。
透き通るくらい色が白くて、表情は小生意気そう。
小さな手が、悪魔ハーフで僕をよくどついていたイヴァナさんくらいのパワーを持って、ぽかぽか叩いてくる。
あれっ、もしかしてここは天国ですかな?
「ひい! 張井くん何をヘブン状態になってるっすか!! あんたが死んだらあっしは誰を盾にしたらいいんすか!? おのれ、回復、回復!! ”ピカッと回復”!!」
新聞屋の回復魔法で、僕のHPがどんどん回復していく。
その回復魔法、名前が適当でも発動するんだなあ。
さて、いい塩梅でボコられたので、今のステータスを確認してみよう。
何、地上に激突するまではまだ時間があるし、焦ることもないよ!
ちなみに、戦場で兵士たちから攻撃されたけど、僕は男から受けたダメージで成長するのは断固として拒否している。
美少女だけが僕をいたぶりなさい。
名前:張井辰馬
性別:男
種族:M
職業:M
HP:2471/848→2471
腕力:3
体力:34→48
器用さ:5
素早さ:3
知力:4
魔力:20→46
愛 :38→50
魅力:7→10
取得技:ダメージグロウアップ(女性限定、容姿条件あり)
クロスカウンター(男性限定、相手攻撃力準拠)
河津掛け(相手体重準拠)←NEW!
おっ!
新しい技が増えてる!
僕知ってるよ。この河津掛けって、かつて伝説にうたわれた身長二メートルのジャイアントなBBなレスラーが使っていた、相手と肩を組んで倒れ込む技だ!
……ま た 素 手 の 技 か !!
実に地味で、いぶし銀な技ばかりが増えていく気がする。
「おっ! あっしも魔力と愛と魅力が超上がってるっす! 日頃の行いっすなあ」
「愛は納得いかないなあ」
「おっ、おまえたち! なにをのんびりしてるですか!! いま、グレモリーたちは、らっかしてるところですよ! おちたらしぬですよ! むきー!! おまえたちグレモリーをたすけるですー!!」
おおー、ようじょが癇癪を起こした!
可愛いなあ。
僕たちが飛んでいるのは、海の上。
上空から見ると、イリアーノ王国ってなんだか見たことがある形をしているなあ。
あの長靴みたいなのってなんだっけ?
「パスタの国っすよ!」
「おお、パスタの国かあ」
「砂漠でパスタを茹でて水が無くなって撤退したっすな、あっはっは」
「あっはっは、そりゃおかしい」
「なーにーがーおかしいですかーっ!!」
グレモリーちゃんは、いつの間にか僕のお腹の上に馬乗りになっている。
はっ、これはマウントポジション!!
そこから回避できないパンチを僕に見舞うんだね!
「よし来い! 君のパンチを存分に打ち込むんだグレモリーちゃん!」
「いやあああああ! このにんげん、きもいですううううう!!」
ぽかぽかと殺意の篭ったようじょパンチが僕を襲う!
『HPがアップ!』
『HPがアップ!』
『HPがアップ!』
『体力がアップ!』
『体力がアップ!』
『愛がアップ!』
『愛がアップ!』
「はいはいー。”適当に回復”っすよー」
うわあ、おざなりな回復魔法なのに物凄く治る!!
「おっ、そろそろ地上が見えてきたっすね。張井くん、このままだと地上に激突っすけど、その落ち着きようだと何か策があるっすね? えっへっへ、あっしもその策に一枚噛ませてくださいよう」
僕の背中にしがみついた新聞屋が、この体勢で器用に揉み手する。
長いふんわりヘアで、むちむちで、出るところでて引っ込むところが引っ込んだ、けもみみでちょっと垂れ目気味で唇がややぽってりした美少女が、下卑た笑顔を浮かべてへりくだってくる。
これが新聞屋クオリティ。
僕は彼女を安心させるべく、力強く口を開いた。
「ノープランだよ!!」
「ぎょええええええ!!」
大空に新聞屋の絶叫が轟いた。
「なんであんたはそんなに落ち着いてるっすかあああ!! 落ちたらぺしゃんこっすよお!? のしイカならぬ、のしタヌキっすうう!! ああああああいやだあああ死にたくないっすうううう!」
新聞屋が涙とか鼻水とか流して、おぎゃあああと叫ぶ。
必死に僕の体をよじのぼって、あろうことか僕の顔に腰掛けた。
「ふう、ふう、す、少しでも地上から遠ざかるっす!」
「ええい、うえにあがってきたら、グレモリーのじんちがへるです!! タヌキはしたにいるです! むだなにくをつけてるんだから、クッションになるです!!」
「い、言うたなこの幼女めえええ! あっしは悪魔に逆らってでも生き残るっすよおおお!!」
新聞屋が僕の顔の上でもぞもぞ動くので、大変心地いい。
やはりここは天国だったのだ。
「わが生涯に一片の悔い無し……!」
僕はギュッと拳を握り締め、天高く突き上げ……というところで地面に激突した。
「うっぎゃああああああああ!!」
「あきゃあああああああああ!!」
「もごー」
ドカーン! と爆発するように砂が噴き上がる。
どうやら僕たちは、砂丘に落っこちたようだった。
僕は無事に落下のクッションの役割を果たしたみたいで、僕のHPは流石にボロボロだよ!!
「アオウ……し、尻が……! 尾てい骨が折れたかもしれないっす……」
「ひいい、おしりが、おしりがいたいですう……!」
「新聞屋、一気に範囲回復魔法とか使っちゃいなよ!」
「うひょおお! 尻の下で喋らないで欲しいっす!? 全く、しょうがないっすねえ……。ええと、範囲回復? そんなんあったっすかねえ? えーと、”領域を癒す光”?」
ぽわあーっと表現するような光が広がり、僕の体が急速に癒されていく。
「おしりのいたいのが、きえたですう……!」
「おっ! あっしの光魔法のレベルが上がったっすよ!! やればできるものっすなあ!」
新聞屋は人間としてはどうかと思うけど、本当に能力だけは有能だね。
新聞屋とようじょは、ようやく僕の上から立ち上がった。
お尻の具合が落ち着いたらしい。
特に新聞屋は、年頃の男子の顔に座っていたわけだから、もっと年頃の女子として気にするべきことがあると思うな!
「ここはどこですか? さばくがあるっていうことは、もしかしてみなみです?」
「おっ、南国っすね! ワイキキでビーチでバカンスでアロハオエっすよ!」
「ハワイっていうかこれはアラビアとかサハラ砂漠かなあ」
僕も体を起こして周囲を見回した。
僕たちが落下した跡はクレーターみたいになっていて、これで良くぞ生きていたものだ。
周りに砂を跳ね除けて、その下にある地面がむき出しになったようだ。
黒い地面が見えていて、これは割りと普通の土みたい。
「砂漠の下ってこうなってたんすねえ」
ぺたぺたと興味深そうに地面を触る新聞屋。
ふと、グレモリーちゃんが可愛い鼻をひくひくさせた。
「むむっ、べつのにんげんのにおいがするです! でてくるですよ!」
そう声を発した。
すると、なにやら回りに盛り上がった砂の上から、人が現れたではないか。
頭の上からフードをかぶっていてよく分からないが、女の子のようだ。
「うふふ! オアシスを視察に来ていたらとんでもないものに遭遇してしまいました! この豪運、さすが私ですね!!」
フードの隙間から垣間見える、褐色の肌の女の子が、乏しい胸を張った。
また変な子が増えたぞ!