第十話:ドMと姫騎士とようじょ悪魔
周囲は、兵士、兵士、兵士、時々アルフォンシーナ、兵士、兵士、兵士、兵士だ。
対して僕たちは、丸腰のエカテリーナ様、平常運転で丸腰の僕、そして棒きれを持っている熊岡くんと、棒きれを持っている富田くん。新聞屋は何故かナイフとか持っていて、一番装備が充実している。でもこいつは戦いが始まると真っ先に後ろに隠れる。僕は知ってるぞ。階さんと出羽亀さんは戦闘向きの能力じゃないけど、この二人がやられると色々詰む。
大変なことになってしまったぞ。
「張井くん、あっしにいい考えがあるっす」
「僕知ってるよ。そのセリフを言った後に出てくるのは、必ずろくでもない提案なんだ」
「アルフォンシーナ様に土下座するっすよ!!」
「ほらあー!」
「そして油断して近づいてきたところをぶすりっとやるっす!!」
「ひぇっ、思った以上に鬼畜だった!」
僕たちの漫才みたいなやり取りをみて、アルフォンシーナは額に青筋を浮かべる。
「何をやっているの!? わたくしはそんな漫才を見に来たのではないわよ!! ええい、者共、エカテリーナ……いや、牢破りの反逆者を抹殺するのよ! 見事首を上げたものには、褒美は思いのままよ!!」
おおおお、と兵士達が歓声をあげる。
その中、何故だか階さんがぼそっと言った言葉が妙に響く。
「いえ、常識的に考えて、口封じで全員殺されますよね。王族のスキャンダルを下々の者が知って無事でいられるはずないですから」
すっと兵士達が真顔になる。
そして、「え、マジ?」って顔でアルフォンシーナを見る。
多分、アルフォンシーナの性格や、自分たちの身分を考えると、階さんの正論は笑い飛ばすには重過ぎるんだと思うな。彼女はこうやって、盛り上がっているところに水を差すのが天才的にうまい。なのでいじめられる。
「なっ!? そ、そんなことは無いわ!! お前たち、私の言う事を聞かないというのなら、この場で首を跳ねてやっても……」
「ヒャッハァー! 隙ありっすう!! ”土の弾丸”ぉ!! 死ねアルフォンシーナぁ!!」
新聞屋が生き生きとしながら、土の弾丸を創りだしてアルフォンシーナめがけて放つ。
汚い。
流石新聞屋汚い。
弾丸はアルフォンシーナに到達すると、目の前に突然現れた見えない壁みたいなのにぶつかって、ぺしょんと弾けた。
「なっ、なっ、なっ」
アルフォンシーナが驚いている。
「ひぇっ」
新聞屋が逃げ出した。こら、逃げるな!!
「ええい、殺せ!」
アルフォンシーナの号令に合わせて、槍が投げつけられてくる。
このままだと新聞屋が串刺しタヌキになりそうだったので、僕は前に立ちふさがった。
ちくっと来た。
多分4点くらいダメージを受けたな。
「ばかな、槍投げを受けても傷一つつかないだと!?」
「ひええ、張井くん恩に着るっすー!!」
「うわっ、足にすがりつかないでよ、避けられないでしょ!? 早く離れ……いやもっと胸をこすりつけて!!」
次々に僕に向かって槍や矢が飛んでくる。
痛い!
さすがにざくざく刺さると痛いぞ。
だが背中が気持ちいい。新聞屋は人間性は最低だけどプロポーションは最高だな!
あれで性格がまともなら、マドンナに変わってクラスのアイドルになれる逸材なのに!
「はぁーっはっはっは! ぬるい! ぬるいっすよー!! こんなことでは、あっしを倒すことなんて出来ないっすよ? アルフォンシーナ様、それがおたく兵士たちの限界っすかねー? プークスクス、へそでぶんぶく茶釜が沸いちゃうっすよ!」
「新聞屋、攻撃を受けてるのは僕なんだから無駄な挑発しないで!」
「おや、張井くんは痛いことをされると気持ちいいんじゃないっすか」
「男はいやだ」
僕はきっぱりと言った。
エカテリーナ様は、僕にぶつかって地面に落ちた槍を手にしている。
「ふむ、これなら、戦えそうだ」
何度かひゅんっと音を立てて槍を振る。
「げえ、エカテリーナが武器を!」
明らかに焦るアルフォンシーナ様。
そりゃそうだよなあ。一撃でダイヤーウルフを吹き飛ばすような技を使える人が、武器を持っちゃったら僕だって怖い。
わあっと声をあげて、兵士たちがにじり寄る。
だが、斬りかかってこない。
エカテリーナ様が怖いのだ。
戦争ならともかく、こんな王族の争いに巻き込まれて死んだら、手柄にもならない。
やるだけ損なのだ。
兵士たちは、俺ちょー頑張ってますよ! ってポーズだけ見せて、攻撃してこない。
たまにおざなりに、僕に向かって武器を投げつけてくる! 痛い!
「いひいい! あ、あっし、何故か恨まれてるっすよー!?」
「うん、新聞や、自分の胸に手を当てて考えてみようか」
とかやっていたんだけど、明らかに膠着状態。
これは日暮れまでかかるぞお、と思っていたらだ。
「ベルゼブブからたのまれてやってきたのですけど、なんなのですかこれはー」
ちょっと舌っ足らずな声が戦場に響いた。
くんくん、これは幼女の香り!
「どうしたっすか張井くん! いつになくシリアスな顔っすよ!」
「すまないが年増は黙っていてくれないか!」
僕は理不尽な一喝で新聞屋をたしなめると、声のする方向を向いた。
そこは僕たちを見下ろすような空の上。
なんと、ジャンパースカート姿の小さな女の子が浮かんでいるではないか。
頭には、羊みたいなくるりんとした角が生えていて、肌の色は血が通っていないかと思えるくらい白い。
赤く輝く瞳が僕たちを見回した。
「おや、戦いは終わりなのです? 続けてもいいですよ。グレモリーは手出ししないです。存分にころしあえーです」
「な……、七十二柱の悪魔の一人、グレモリーだと!? まさか、ハリイたちを助けに来たのか?」
「バカな、どうしてグレモリーがここに!?」
エカテリーナ様とアルフォンシーナはよく知っているみたいだ。
兵士たちは、悪魔らしいようじょを見上げて、あわわわわ、と後退り。
グレモリーちゃんはそれを満足げに見てていて、突然手を振り上げて、
「わっ!!」
と大声をあげた。
これで兵士たちは肝を潰したようで、ひえー、とか、うわー、とか言って逃げ出してしまう。
「ひいいー! 悪魔っすー! あっしは美味くないっすよー!? 食うなら張井くんを食うっすー!!」
「えっ、食べられるのかい!! 僕も一度ようじょに美味しくいただかれたかったんだ!!」
やばい、興奮してきた!
「うわっ、変態なのです」
ようじょの軽蔑した視線!!
『魔力がアップ!』
『魔力がアップ!』
『魔力がアップ!』
くう、体内に力がみなぎってくるぞ!
「うわ、きしょいのです。めざわりなのです! きえるです!」
ようじょが両腕に力をみなぎらせる。
凄い魔力みたいなのをビリビリ感じるぞ!
「ひ、ひい! やるなら張井くんをやるっす!!」
うわ、押すなよ新聞屋!
「さあ、グレモリーに色目をつかうへんたいさんは、きえてなくなるがいいです! ”爆噴射”!!」
次の瞬間、僕たちの足元が大爆発を起こした!
「ぎょえー!!」
「うわあああ!」
僕と新聞屋は空に舞い上げられ、
「ぎょぎょ!? な、なんでこっちにくるです!? グレモリーを巻き込むですか!? うきゃああああ」
ようじょを巻き込んで、遠く遠く飛ばされていく!
「ハリイ! アミ!」
エカテリーナ様の声が聞こえた気がした。
これにて姫騎士編が終わりです!