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第一話:ドMとディストピアと異世界転移

今日中に三話くらいアップ予定です。

 ディストピアって知ってる?

 理想郷って意味の、ユートピアの逆の言葉なんだって。

 意味は合ってるか分からないけど、僕はまさにディストピアにいた。


 それって、つまりは僕がいるクラスのこと。

 ちょっとアニメが好きで、ラノベが好きで、そしてレトロゲームをこよなく愛する僕は、いじめられっ子だった。


 いじめられた理由は簡単。

 僕がひょろくて弱そうだったからだ。


「おい張井、パン買って来いよ。お前の金でな」


「ええっ!? なんで僕のお金で、君みたいな醜いオークにパンを与えなきゃならないのさ!? 豚なら豚らしく残飯食ってろよ富田くん!」


「は、張井ー!! こ、ころすーっ!!」


「きゃあ、な、なんで殴るのさ!」


「おい、張井のやつ生意気だぞ! みんなでやってやれ! パンツ脱がしてやれ!」


「やーめーてーよー! 男子の前でパンツを脱ぎたくないよう!」


「お前のちんこを女子に見せてやるよ!」


「えっ」


「うわ、張井が真顔になった」


「キメエ」


「やっぱこいつ変態だわ」


 結局僕はパンツを脱がされてしまい、我が愛らしきちんちんを、クラスの女子たちに見られてしまった。

 彼女たちになじられて、凄く興奮した。


 このように、僕はいわれのないいじめを受けていた。

 学校はディストピアだ!

 ひゃっはー! 学校は地獄だぜー!


「ちょっと辰馬! また学校でいじめられたんだって? ほんとなっさけないわねえ」


 そんな僕は、家に帰ってからもいじめられるのだ!

 目の前にいるのは、姉の同級生で、高校生二年生の小鞠(こまり)さん。

 僕は中学二年生だから、ちょうど三歳年上。でも背丈は小さくて、僕よりもちょっと小さい。

 胸も小さい。


「胸のこと言ったわね!! 辰馬ころす!」


「きゃー!」


 小鞠さんはプロレス技が上手くて、僕によくコブラツイストをかける。

 これがなかなかツボを心得た技で、僕の体はぎしぎし悲鳴をあげるのだ!


「いたいいたい!」


「いたい!? じゃあギブアップして、ごめんなさい小鞠お姉さんっていいなさい!」


「いや、ギブアップはしないです! 小鞠さんのおっぱい当たってるから! むしろもっと締めて!」


「たーつまー!!」


「うきゃ―――!!」


 こんな小鞠さんは僕の幼馴染でもある。

 僕は素敵なプロレス技でいじめてくれる小鞠さんが大好きだ。


 でも、どうしてだろう。

 クラスの男どもにいじれられても、痛くてむかつくだけなのに。

 クラスの女子たち……委員長や、新聞屋、マドンナたちになじられると、いじめられているのに気持ちよくなってきて元気になる。

 同じいじめっこでも、違うんだろうか。

 不思議だ。

 一生をつうじて研究する価値があるね。


 そんな灰色なのかばら色なのか分からない生活をしていた僕なんだけど……ある日のこと。



「みんな! クラスの外が!」


「窓から何も見えないわ! どうして!?」


「窓が、扉があかない!!」


 僕たちはクラスごと、どこか訳の分からないところに飛ばされてしまったみたいだ。

 あれだ。

 僕が愛読しているネット小説に出てくる、クラス転移というやつだ。


 このまま行くと、僕たちは何か大いなる意思に導かれて異世界に行って、色々あって僕がいじめっこを虐殺するのだ!

 み な ぎ っ て き た!


 クラス中がパニックになる中、僕だけテンション高くしていると、突然教壇に、誰かが現れた。

 僕たちくらいの年齢の男の子だ。


「やあ諸君」


 銀髪のおかっぱみたいな頭で、金色の瞳をしている。

 すごい美少年だ!

 彼にならいじめられてもいいかもしれない。


 女子たちも僕と同じ感想を抱いたみたいで、ぽーっとなって少年を見つめている。

 男たちは凄く反感を持った目だ。

 世界の美形はみんな彼らの敵なんだ。


「単刀直入に行こう。僕の名はベルゼブブ。君たちを今まさに、異世界に召喚しようとしている存在さ」


「ど、どうして私たちをしょうかん? しようとしているの?」


 勇気を出してたずねたのは委員長。

 ショートカットでメガネの、気が強そうな女の子だ。

 体つきはまだあんまり女の子っぽくないけど、いつも背筋が伸びていてかっこいい。

 一番豊富なボキャブラリーで僕を罵倒する子だ!


「うん、いい質問だね」


 銀髪の少年、ベルゼブブは人差し指を立てて、委員長に微笑みかけた。

 それだけで、委員長はほっぺたを真っ赤にしてぽーっとなる。

 意中の女の子を美形に(かす)め取られた気分だ!

 胸がちくっとして、これはこれでなかなか気持ちいい……!


「僕はね、このガーデンと言う異世界を管理しているんだ」


 ベルゼブブが指を鳴らすと、黒板がスクリーンみたいになった。

 突然、そこに映像が映し出されたんだ。

 見えるのは、空中に浮かんだ巨大な空飛ぶ世界。


「もう五百年以上管理していてね……いささか、飽きてきた」


 彼はじろりと僕たちを見回した。

 涼しげな目線なのに、込められた力の強さを感じて、男たちはうっと呻いてうつむいてしまう。

 なんだい、だらしがないやつ。

 僕は目線があったとき、ウインクしてやった。

 ベルゼブブもウインクを返してくる。

 女子たちから黄色い声があがった。


「そんなわけで、君たち、僕の暇つぶしに付き合ってくれない? ルールは簡単。誰かが僕のところまでたどり着いて、僕を倒すことが出来たらクリア。そういうゲームさ」


「ゲームっすか!? っていうか、バトルでロワイヤルなんすか!?」


 この下っ端口調なのは新聞屋。

 ふわふわヘアでおっぱいも大きい、一見すると可愛い女の子なのに、ゴシップ情報を集めてひどい新聞を作ることに情熱を傾ける変態さんだ。

 小鞠さんいわく、三下っていうキャラなんだって。


「そうだよ。君たちは戦って、僕を倒せばいい。僕は強いけど、なんとかなるようにしてあげる」


「げげーいっ!? あっしたちはただの中学生なのに、戦えなんてとんでもないっすよー!?」


「そこはお約束と言うやつだね。僕が君たちにそれぞれ、力を与えよう。使えば使うほど強くなる力だ。これを鍛えて、僕までたどりつくといい」


 一方的にそれだけ言うと、ベルゼブブは僕たちを見回した。


「そ、そんなことできないわ!」


 突然、女子たちから否定の声が上がった。

 あっ、あれはマドンナさん!!

 腰まである、綺麗な黒髪にぱっちり大きな目をした女の子で、実際いいところのお嬢さん。

 男子たちの人気ナンバーワンで、女子の中でも最大の派閥の主!

 だけど、僕を見る時は(さげす)む視線を隠そうともしない!


「できるさ」


 ベルゼブブはマドンナの言葉をすぐに否定した。

 これに怒り狂ったのは、男子グループでも体の大きな橋野本くんだ。

 僕をいじめるグループの鉄砲玉みたいなやつで、良く僕を面白半分に殴ってくる。

 こいつに殴られてもちっとも気持ちよくないから、いつか彫刻刀で切ってやろうと思っている。

 具体的には、ちんちんの皮を切ってやる。

 僕は修学旅行までその機会をうかがっていたんだが。


「てめえ!! 間戸さんの言うことに逆らうのかよ!!」


 間戸さんってマドンナのこと。

 橋野本くんは、拳を握り締めて、机を蹴り倒しながらベルゼブブに殴りかかる……!!

次回で特殊能力に目覚めます。

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