日常
僕が帰る頃には、辺りはすでに暗くなっていて、家に着くと母親の靴と見知らぬ男物の大きな靴があった。
ああ、またか。
母親は僕が高学年に上がる前に離婚した。いわゆる『バツイチ』で、その日から、次から次へと男をとっかえひっかえ、家に上がらせた。
『僕のため』と言いながら。
知ってる、本当は自分の為だと。
音を立てずに玄関の扉を閉め、足音を消しながら自分の部屋、もとい押入れの中に隠れた。
そこだけが唯一の僕が心を休める場所。
離れたこの場所でもあの母親の甘える声が聞こえる。
僕はこの時の猫を被ったような声が嫌いだ。それに答える人間の心理が僕には理解できない。否理解したくもない。
そんな母親の声から逃げるように僕は睡魔に身を委ねた。
眩しい。
顔にライトの光を浴びせられて強制的に起こされた。
「早くご飯たべなさい」
「はい」
やっと帰ったのか。と僕は安堵しつつ台所へ向かう。
今日のご飯はコンビニの親子丼だった。
まあ、コンビニならあまりハズレはないし僕は好きだ。
付属のスプーンで口に運びつつ、母親の様子を疑う。
(今日は、良かったのかな?)
機嫌が悪ければすぐ僕に何かしら暴言を吐く。
母親は単純なのだ。
「ねぇ、新しいお父さんができたら嬉しい?」
「ゴフッ」
急にそんなことを言われて別な所に入ったみたいで苦しい。
それを肯定と受け取ったらしい母親は、やっぱりね、と顔を綻ばせていた。
正直、僕は人と関わることが苦手だから父親なんていらない。
でも、母親一人じゃ、生きていけない。
働かず、男に依存しているこの人は。
「貴方の為にも、お母さん頑張るね」
僕のため?
『頑張る』の方向間違ってる。
何かと僕のためと理由を付けるくせに、
息子の名前すら呼んでくれない母親なんて。
残りを掻き込み逃げるようにして押し入れに戻った。
風呂は母親の後と決まっているから万が一寝過ごしてもシャワーで良いや、と思いこのまま早いが眠ることにした。
そうしないと、体も、心も持たないから。
ああ、嫌だ。明日が来るのは。
でも、早く大人になりたい。
僕の苦痛も知らず、テレビと母親の笑い声が木霊した。