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出会い

僕は人が信じられない。


物心が付いたときから僕は苛められ、人を信じられなくなった。

暴力、嫌がらせ、暴言など上げたら切りがないくらいだ。


小学生の低学年の頃、親に相談したがそんな事で泣くなと言われ逆に怒られた。

親なんてそんなものなのかと、諦めた瞬間でもある。

そんな家族ももうボロボロで、いつ離婚してもおかしくないくらい酷かった。

次に、担任の先生はどちらかと言うと「熱血系先生」で、苛められるのはその体のせいだ、とか意味のわからない事を言って、昼休みにグラウンド10周を強制的に走らせた。むろん、その現場をいじめっ子に見られ笑われながら走った。もう無理だと走るのを止めると「まだだ、まだ終わっとらんぞー!」と言う悪魔のような叫び声が後ろから聞こえてくる。先生は僕を4,5周追い越して後ろにいて、かつ叫んでくるのだ。小学生と大人とはいえ体力の桁が違うのではないのだろうか、とその頃の僕は恐怖から早く走り終わろうと努力した。

次の日に筋肉痛になり動けなくなったのは言うまでもない。またその日のことも笑い話で言われるようになった。

心も体もボロボロになることを学びそれ以降話しかけることは無くなった。それにより先生もいじめられなくなったのだなと勝手に勘違いして、走らされることは無くなった。

そんな最低最悪な環境でまともな性格になるはずもなく、あるがままを受け入れ全てを悟ったようなひねくれものになり、そのまま周りからはいじめられっ子の烙印を押された。


そんな僕が高学年にあがるころ、一人の少女と出会った。


そう、彼女とのファーストコンタクトは最悪で。

調度僕がいじめられ、女子トイレに突っ込まれてそこから出るときに出会ってしまった。距離は15センチぐらい。扉を開けて一歩前へ出た瞬間。しかもバッチリ目があってしまい重苦しい沈黙が流れる。幸いにも放課後なので彼女以外の目撃者はいないのだが、彼女は見てしまったのだ。


「「…」」


ああ、これがいじめっこだったらよかったのに。

思わずため息をついた。

赤いランドセルに黒の髪の色が映える、僕より小さい女子で、見たことのない生徒だが、名札を見ると6年と書いてあるから同学年の別クラスの子だとわかった。

これで別クラスにもこの噂が流れるのだろうか。

まぁいいや。それよりこの空気、どうにかならないかな。

目が合ったまま固まり、時だけが流れる。


「…あ、あのっ」


おそるおそるといったところか。

沈黙を破り、僕に話しかけてきた。


「何?」


わぁ、久しぶりに人と話したな。

言葉を発するのは授業で問題を当てられたぐらい。それでもボソボソと話すから聞こえないといつも言われる。まともな音量の声が出たのは奇跡だろう。

彼女はもじもじと下を向いて指をいじり始め、上目でこちらを見てきた。

あ、もしかして。

僕は扉の前から慌ててどいた。


「お花摘んできたら?」


ごめんね、僕がいたらまずかったね。

すると、違うとばかりに顔を赤らめ首を横に振る彼女。

え?違うの?


「あなたは、女の子なの?」

「は?」


何言ってんのコイツ。

僕は髪を短く切っていて声は低い方だ。

女子に間違えられる要素が無いと思う、いやそうだと思いたい。

そうだと言ってくれよ―――。

少し自信を無くすなこれ。


「だ、だって女子トイレから出てきたから。」

「それは否定できない、が、残念なことに僕は男子だ」

「あなた変態なの!?」

「信用してもらえるかわからないが、僕はついさっきまでいじめられていてね、複数の男子と女子にこの中へご招待されたところだ」


いじめ、と聞いた瞬間彼女は眉をひそめた。


「何で先生に言わないの」

「君には関係ないだろう」

「っ!」


わざと彼女を煽るような事を言ってみる。これで彼女も僕のことを何て嫌なやつ!とか思っていじめる側にまわるだろう。悲しいとは思わないし、思えない僕の心はもう既に壊れて機能していないのだろう。

もう話すことは無いとそこから立ち去ろうと足を動かそうとした時、彼女が僕の服の袖を掴んだ。


「待って」


袖を掴み、もう片方の手で僕の腕を叩き出した。

いや、違う。これは…。

彼女は僕の服に付いた埃をはらってくれていたのだ。


「やめろっ!汚れるっ!」

「!?」


急に手を離されて前につんのめる。

ああ、今日はなんて日なんだろう。

一日でこんなに話したのはもちろんのこと、こんな大声を出したのも人生で初めてだ。


「ご、ごめんなさい」


彼女の目は驚きで見開かれた後に、涙で溢れてきて今にもこぼれそうになっている。

違う、違うんだよ。

何故か僕の心臓が痛くなった。

こんなことは初めてで、僕にもよくわからない。


「ごめん、ごめんなさい」


そういいながら彼女は走り去ってしまった。

いいんだ。あのまま行ってしまえば。

僕が最初から望んだ結末じゃないか。

あのまま嫌ったままどこかへ行ってくれれば。


でも


なんでだよ


何でこんなに胸が苦しいんだよ。


走る、彼女を追うために。

この廊下玄関まで別れ道がない一方通行だ。

間に合えっ。

玄関の手前で彼女の背中が見えた。


「待ってくれ」


彼女の腕を掴んだ。

ビクリと彼女の体が震える。

あぁ、僕に怯えているのか。

そして、僕もこんな風にいつもみえているのか。と勝手に納得してしまった。


「ごめん、僕が悪かった」

「え…?」

「汚れるなんて言って。僕が汚れるなんて言ったのは君の手が汚れてしまうからやめて欲しいって意味だったんだ。誤解される様な言い方をしてしまった。」


ゆっくり彼女の腕を離すとこちらを振り返り驚いた顔を見せた。

まだ目には涙が残っていてその顔をみるとまた胸が痛くなった。

「これで、涙拭きなよ」

通学路を歩いているときに貰った無料のティッシュを一枚だけ取りだし渡した。ケチ臭い?全部あげろだと?無理だね、僕のお母さんは僕よりケチでそれすら支給してくれない。くれるのは通学に必要最低限なお金だけだ。


「ありがとう…」

「別に」


やめてくれ、その言葉は僕にとって―――――だ。


「優しいんだね」

「違う」


え?と不安げな表情になる彼女。

この子コロコロとよく表情がかわるな。

真顔か不機嫌な顔にしかなれない僕とは大違いだ。


ある意味、君が羨ましいよ。


「もう、僕とは関わらないでくれ。」

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