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1-8


 それをもう少し説明できれば良かったのだが。ティアナは小さくため息をついて、ハルの姿を探した。何かの魔力の反応を調べに行ったようだが、あれからずいぶんと時間が経つのに戻ってこない。ティアナが不安で眉を下げるのと、その魔力の反応が起きたのは同時だった。


「これ……もしかして……」


 心当たりのある魔力だ。そしてすぐに、最悪の可能性に思い至る。

 ハルが殺される。

 ティアナは慌ててその魔力反応の元へと向かった。


   ・・・・・


 周囲の木々が明々と燃え盛る。ハルを囲む木々だけが燃える不思議な炎。使われて改めて思う。魔法剣は卑怯だと。これが普通の魔法なら、対象の指定などできない。


「君は強いね……。ここまでとは思わなかったよ」


 だがここまでだ。男は獰猛な笑みを浮かべる。ハルは小さくため息をついた。ハルの体にはいくつもの傷があり、中には血が流れ続けているものもある。致命傷になるものは避けているが、そろそろ体も限界だ。


「潮時、かな」

「ようやく諦めるのかな?」


 男が意地の悪い笑みを浮かべる。ハルはそれには何も答えず、足下に視線を落とす。すぐに拾える木の枝の中でほどよい長さのものを選び、これでいいかと小声でつぶやいた。男が怪訝そうに眉をひそめる。


「まさかそんなもので戦おうというのかい?」


 ハルは声には出さず、頷きだけを返す。男はやれやれと落胆したように首を振ると、改めて剣を構えた。


「そろそろ終わらせようか」

「そう……だね」


 男が一歩踏み込み、さらにハルに近づこうとして、


「……っ!」


 すぐにその異変に気が付き、足を止める。ハルは、するどいなと残念そうにつぶやいた。

 ハルの持つ木の枝が白く変色していた。その白はゆっくりと枝から溢れて、枝を包んで剣の形で結晶化した。ひんやりとした冷気が手から感じられ、ハルは満足そうに頷いた。


「まさか……魔法剣? どうして君が……」


 氷の剣を構えて、ハルは言った。


「ハル……」

「ん?」

「ぼくの名前……。ハル」


 男が目を大きく見開いた。次に顔を大きく歪ませる。後悔がにじみ出る表情だ。男は何かを口にしようと口をもごもごと動かしていたが、やがて小さくかぶりを振った。表情を引き締め、ハルを見据えてくる。


「イクス国聖騎士団団長、アレン・メルロスだ。勇者の末裔、の方が分かるかな?」


 メルロス。ティアナもメルロスと名乗っていたなと思い出し、やっぱり家族かと納得する。我を忘れるほどに焦っていたのだろう。今はもうそれなりに落ち着いているかもしれないが、ここまで来てしまうとお互いに引くに引けない。なぜならば。


 ――引いたら負けの気がする。

 ――それは彼も思っているだろうね。いや、よく分かるよ、うん。


 アークがため息交じりに笑い、肩をすくめた。そんなアークに対して、ヴォイドが冷たく言い放つ。


 ――勇者の末裔、だそうだな。

 ――言ってたね。

 ――お前の子孫はどうなっているんだ? 勇者様よ。

 ――いやあ、はは……。全くだ。


 アーク・メルロス。三百年前に魔王を倒した伝説の勇者。救世の英雄。異世界より召喚され、魔法剣を編み出した者。今はハルの体に居候中。


 ――でも君にだけは言われたくはないかな、魔王様。


 ヴォイドが鼻を鳴らして、黙り込んだ。

 魔王ヴォイド。三百年前に人族を恐怖のどん底に落とした魔族の王。勇者に討たれ、そして今はやはりハルの体に居候中。


「さあ、いくよ」


 アレンの言葉にハルは目の前の敵へと意識を集中する。そして、お互いに動き出した。


誤字脱字の報告、ご意見ご感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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