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1-7


 魔法剣はその名の通り、魔力もしくは魔法を剣に纏わせる技術だ。それは簡単なように思えるが、実際は使える者が限られている。この世界の人間ではイメージすることができないらしく、魔法剣は一子相伝の技だ。

 魔法剣を使える者はある一族だけであり、例外は一人を除いて存在しない。


 ――ほう……! 魔法剣! 珍しいものを見たな。


 ヴォイドが嬉しそうに言って、アークが呆れたようにため息をついた。

 ハルの目の前で、男が大剣を振るう。男の大剣は、巨大な魔獣を易々と切り伏せた。男が小さく吐息をつき、そしてすぐにハルに気が付く。男の表情が険しいものに変わった。


 ――どうする、ハル。逃げる?


 アークの問いに、ハルは首を振った。論外だ、と。


 ――ここで逃げたらティアが捕まっちゃうよ。ここで抑える。

 ――分かった。がんばってみるといい。


 その心配は杞憂だけど。アークが小さくつぶやいた言葉は、ハルには聞き取れなかった。

 ハルがゆっくりと男に近づいていく。男が眉をひそめ、大剣をこちらへと構えた。


「こんな森で何をしているんだい?」


 お前が言うな、と言いたくなったがぐっと我慢。ハルが答える。


「女の子……連れて行く」

 ――ハル、その言い方だと……。


 アークが慌てたように言ってくる。アークの言いたいことは分かるが、何故かうまく言葉が出てこなかった。いや、理由は分かる。男の眼光に萎縮しているのだと。その上での対人恐怖症だ。出すべき言葉は思い浮かぶが、口が動かない。


「連れて行く? どこにだ? 君の飼い主の元へか?」


 男の目が吊り上がる。案の定勘違いされて、ハルは自分の情けなさに泣きたくなった。しっかりと説明できれば、相手を怒らせずに済んだだろうに。

 男の反応から、どうやらティアナの関係者なのだろうと予測がつく。姿を消したティアナを心配して、ここまで来たのだろうか。どういった関係かは分からないが、少しだけティアナが羨ましいと思う。


「黙っているということは、そういうことだね?」


 男が大剣を構える。その大剣が再び炎に包まれた。剣を纏う炎の熱で、周囲の温度が一気に上がる。


「違う……! 連れて行く……! ちゃんと!」


 男をのんびりと観察している場合でないことを思い出し、慌ててハルが説明を試みる。だが男はハルの言葉には耳を貸してはくれないようだ。


「心配しなくても、殺しはしない。抵抗しなければ、すぐに楽になれる」

 ――なるほどな。

 ――焦ってるね……。かなり、焦ってる。ハル。何を言っても無駄だよ。


 男とティアの関係は分からないが、男はティアを心配するあまり冷静さを欠いているようだ。ハルが何を言っても無駄だろう。まずはハルを無力化する、今はそのことしか考えていないのだろう。ハルは小さくため息をつくと、剣を持ってくるべきだったと後悔しながら拳を構えた。

 素手での戦い方など我流もいいところだが、黙って斬られるつもりは毛頭ない。ハルは男へと意識を集中させ、じっと相手の出方を待った。


   ・・・・・


 しばらく座り込んで休んだためか、ようやく落ち着いてきた。ティアナはゆっくりと立ち上がり、深呼吸する。激しい動きはまだできそうもないが、とりあえずは歩けるだろう。

 余裕がなかったためにハルには説明できなかったが、ティアナには憶えのある苦しみだった。何かしらに魔力を使っていないと定期的に起こる発作で、原因は魔力のため込みすぎだ。ティアナはまだうまく魔力を放出する術を持っていないために、定期的に父や魔術師の世話になっている。

 人は周囲に漂う魔力を少しずつ取り込んでいる。その魔力を使わずにいるとティアナのような発作が起きるのだが、本来ならちょっとした魔術でも使えば事足りるものだ。だがティアナの家系は人よりもずっと多くの魔力を取り込み続けるらしく、放出する術を学ぶまではこの発作に定期的に襲われることになる。


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ではでは。

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