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ティアナの側に座り、彼女の肩を揺する。そんなハルの表情は緊張して引きつっており、それを見ているアークとヴォイドは必死に笑いを堪えているのだが、それにハルは気が付かない。ハルが肩を揺すり続けると、ティアナがうっすらと目を開けた。
「……っ!」
ハルの体が一瞬強張り、次の瞬間には梯子の側へと飛び退いた。今度こそアークとヴォイドが笑い転げるが、そんなことを気にしていられない。
――魔獣を簡単に切り伏せるのに、女の子に怯えるなんて……!
――言うな、アーク。これ以上、笑わせるな……!
ティアナが体を起こし、ハルの姿を認める。しばらく呆けたような表情をしていたが、やがて柔らかく微笑んだ。
「おはようございます、ハル君」
「おはよう……。朝ご飯、ここ」
ハルは梯子の側に果物を置くと、すぐにその部屋を後にした。
――ハル。あの娘を護衛してこの森から出るのだろう。そんなことで大丈夫なのか?
――が、がんばる……。
ハルが自信なさげにそう言うと、ヴォイドはそうか、と言っただけだった。
ハル自身も朝食の果物を食べ終えてから、三階に戻る。顔をのぞかせると、ティアナも食べ終わったところだった。
「食べ……終わった?」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ……準備ができたら……下りてきて」
ハルがそう言って梯子に足をかけると、ティアナはすぐに立ち上がるとハルを追ってきた。もともとの持ち物がないのだから当然の行動とも言える。いきなり近寄られたハルは緊張に体を硬くしながらも、一段ずつしっかりと梯子を下りていく。
――ハル。何か入り用になるかもしれないから、その辺の石を持っていこう。
――別にいいけど、何に使うの?
――換金だよ。後で分かる……かもしれない。
ハルは首を傾げながらも、二階で足を止めた。邪魔にならない程度の大きさの布袋に、棚に並べられている石を入れていく。小石程度の綺麗な石が五個。それらを入れた布袋は、服のポケットに無造作に突っ込んだ。
「二階は宝物庫だったんですね。気づきませんでした」
梯子の方から声がする。振り返ると、ティアナが興味深そうに部屋を見回していた。ティアナの言葉に、ハルは怪訝そうに眉をひそめた。
「宝物庫……? ただの……物置」
「え? でも宝石がこんなにたくさん……」
「その辺で……拾った……。ただの、石」
「え……」
ティアナの表情がわずかに引きつった。周囲を改めて見るティアナは、何と言えばいいのか分からないといった、困ったような表情をしていた。
――やはりあの娘には価値が分かるようだな。
――宝の山に見えているかもしれないね。
アークとヴォイドがそう会話をしている中で、ティアナの動きがある一点で止まった。彼女の視線の先を見て、ハルは不思議に思いながらもそちらへと向かう。ハルが向かった先には、いくつかの剣が並んでいた。
「剣……使えるの?」
「はい……。少しだけですけど。あの、森を出るまででいいので、お貸しいただけませんか?」
ハルは返事をせずに、並べられた剣の中から一振り選ぶ。それはアークが絶賛していた剣で、何でも聖剣と呼ばれるほどのものらしい。白銀の鞘には銀で装飾が施されている。鞘から抜くと、刀身も白銀で、魔法をかじった者なら魔力を帯びていることに気が付くはずだ。
この剣もうち捨てられていた馬車にあったものだ。その馬車はほとんどの荷物が荒らされていたが、この剣だけは無事だった。
刀身を鞘に戻し、ハルは剣をティアナに渡した。受け取ったティアナは、少し困惑したような表情を見せてくる。ハルは何も言わずに、梯子に足をかけた。
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ではでは。