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二人の返答にハルは頷く。それを見ていたアレンは自分への返答と取ったらしく、なら次だねと話を続けてくる。
「これにはお金が入っている。無駄遣いはしないようにね?」
そう言われて渡されたのは、小さな巾着袋だ。中を見ると、硬貨が十枚入っている。硬貨の種類が分からないので、これがどういった硬貨は分からない。
――困った時のアーク。
――おい。いや、いいけど。金貨だね。大金だよ。お金の種類は後で教える。とにかく、大金だ。ちゃんとお礼を言わないと。
ここまで念を押してくるということは、本当に大金なのだろう。ハルはアレンに向き直ると、頭を下げようとして、その前に上目遣いにアレンを見た。
「いいの?」
「ん? 何を聞かれているのかいまいち分からないけど、それはもう君のものだよ。遠慮しなくていい」
ハルは頷くと、今度こそしっかりと頭を下げた。
「この後の予定は決まっているんですか?」
そう聞いてきたのは、今までのやり取りを静かに見守っていたティアナだ。ハルは少し考えて、正直に首を振った。漠然としたものはあるが、それでも詳しくは決まっていない。
「よければ、途中まで案内とか……」
「それはいい」
即答されるとは思っていなかったのだろう、ティアナは言葉に詰まると、そうですかと肩を落とした。ハルは薄く苦笑して、しかし何も言わずに忘れ物がないかを改めて確認する。剣も地図も金も持った。忘れ物はないだろう。ハルはアレンに向き直ると、もう一度頭を下げた。
「お世話になりました」
「いや、それはこちらが言うべきことだよ。君には本当に色々と助けられた。もし他に何か必要なものとかが出てきたら遠慮なく訪ねてきてほしい。協力するよ」
ありがとうございます、とハルはもう一度頭を下げた。次に肩を落としたままのティアナに向き直り、
「それじゃあ、またね。ティア」
そう言って、驚いて顔を上げるティアナを視界の隅に捉えながら、ハルは屋敷を後にした。
・・・・・
「またね、と言っていたね、ティア」
父の言葉を、ティアナは神妙な面持ちで頷いた。
ハルがどういった意図を持ってその言葉を選んだのかは分からない。たまたまだったのかもしれなければ、明確にまた会おうという意図を持っていたのかもしれない。それはハルにしか分からないことだ。けれど、ティアナにはその言葉で十分だった。
「多分、ハル君はまたいずれ戻ってくるのでしょうね」
ハルにとって街よりも森での暮らしの方が好ましいようだ。そのハルが次にいつ街に来るかは分からない。すぐに来るかもしれないし、数年間森に引きこもるかもしれない。ハルの都合なのでティアナには分からないことだ。それなら、自分は今できることをするべきだろう。
「ハル君が戻ってくる前に、騎士になってみせます!」
拳を握りしめてティアナが宣言して、アレンは満足そうに微笑んだ。
執事が戻ってきたのは、そんな時だった。
「旦那様、ハル様に馬車を断られました」
「え? いや、でも歩いて帰るとなるとかなりの距離だけど……」
「私もそう申し上げたのですが、のんびり歩くとのことで……」
申し訳ありません、と執事が頭を下げる。ティアナとアレンはお互いに顔を見合わせると、ハルの意図が分からず揃って首を傾げた。
・・・・・
屋敷を出たハルは、馬車で送ってくれるという執事の言葉を必要ないと断った後、のんびりと森への道を歩く。というわけではなく。
――右よーし、左よーし、頭上よーし。
――よし、出ろ、ハル。
花粉症で睡眠不足です……。何かいい薬はないものでしょうか。
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ではでは。




