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3-3

 朝食後。どこか満足そうな表情なハルと、少しだけ引きつった笑みのアレンとティアナ。ハルはあの後、三度もお代わりを頼んだ上で、さらに少しだけ余ったジャムを全て舐め取っていた。ここが普通の貴族の屋敷なら間違いなく叱責を受けるだろうが、アレンたちにそういった意志はないようだ。

 もっとも、お代わりの回数にはかなり驚いていたようではあるが。


「さて、ハル君。少し話があるんだけど、いいかな?」


 アレンの言葉に、ハルは小さく頷いた。姿勢を正し、アレンの言葉を待つ。


「今日、森に帰ると聞いているけど……。その意志は変わらず、かな?」

「残ってくれてもいいんですよ?」


 真剣な瞳で見つめてくる二人。ハルはそれをしっかりと受け止めた上で、答えを告げる。


「いい。出て行く」


 ハルの答えに、ティアナとアレンは揃ってため息をついた。ハルの答えが変わらないと察しているのだろう、それ以上は何も言ってこなかったが。


「何か欲しいものはあるかな。できる限り用意させてもらうよ」


 この問いは予想されていたものだ。なので何を要求するかすでに決めてある。ハルはすぐに、決めてあった言葉を言う。


「あの剣……。高いものって分かってるけど、できれば、欲しい」


 ハルが要求したものは、先日受け取った剣だ。アレンからもらえるとは聞いているが、今回はここを出て行くことをはっきりと告げている。それなら返せ、と言われる前に要求させてもらうことにした。

 アークたちが認めるほどの名剣だ。今だと断られるかもしれない。そう考えてもいるので、次の要望も決めてある。アークたちには、最初からそちらの要望を言うべきだとは言われているが。


「だめだ」


 やはり関わりがなくなる以上はもらえないらしい。剣にさほどこだわらないとはいえ、少しだけ残念に思いながら次の要望を口にしようとする。だが言葉を発するよりも前に、アレンが苦笑していることに気が付いた。


「あの剣はもう君に上げたものだよ。だから要望として聞くことはできない。他に何かないかな?」


 ハルが目を丸くすると、アークとヴォイドまで笑っていた。


 ――だから最初から二つ目を言えばいいと言ったんだよ。

 ――全く、無駄な時間だったな。


 二人の物言いに少しだけ腹を立てながらも、もっと二人の話を聞いておけば良かったことでもあるので何も言わずにおいた。


「じゃあ、お金」


 二つ目の要望を口にする。ハルから金という言葉が出てくるとは思っていなかったのか、これにはティアナとアレンは驚いたようだった。


「構わないけど……。何か欲しいものでもあるのかな?」

「ん……。帰る前に、ちょっと食べ歩き」


 それを聞いたアレンはしばらく呆けた後、噴き出して笑い始めた。すぐに頷いて、使用人を呼ぶ。やってきた初老の執事に何かを告げると、執事はすぐに恭しく一礼して部屋を出て行った。笑いを堪えているアレンがハルへと向き直り、言う。


「ここを出るまでには用意しておくよ。他には何かないかな?」


 三つ目を聞かれるとは思っていなかった。ハルが言葉に詰まると、アークが助け船を出してくれる。


 ――ハル。地図が欲しい。この街とその近辺の地図を要求して欲しい。


 その提案にハルはすぐに頷いた。


「この街の……地図。あと、街の近辺の地図……。ある?」

「ああ、もちろんだとも。すぐに用意させるよ。他には?」


 どこまで聞いてくれるつもりだろうか。さすがにこれ以上は申し訳ないのでハルは首を振った。そうか、と残念そうにしているアレンを見ていると、まだまだ聞いてくるつもりだったことが分かる。何かハルにやらせたいことでもあったのだろうか。


「昼食ぐらいは食べていってくれるかな」


 昼食、と聞いてハルは先ほどの朝食を思い出した。きっと昼食もハルの知らない、森では食べられない美味しいものを出してくれるだろう。しかしハルはその誘惑に首を振った。


「いらない。すぐに、出て行く」


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ではでは。

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