3-1
最初にハルの元にやってきたのは、ヴォイドだ。
――お前か、俺を呼んだのは。
自分には理解できない儀式を終えて眠りについた夜、突然そんな声が頭に響いた。突然の声にその時ばかりは本当に驚いたものだ。自分が戸惑っていると、声は苛立たしげに続けてきた。
――答えなければ分からんだろうが。まあいい。記憶を見るぞ。
その言葉の直後、激しい頭痛に襲われた。悲鳴を上げそうになるのを必死に耐える。それほど時間を置かず、痛みはひいていった。そしてまたすぐに、あの声が聞こえてきた。
――なんという……。
先ほどとは打って変わり、声はどこか悲痛そうだった。
――名前を、聞かせてくれ。
声の問いに、少年は頭を軽く振りながら答える。
「晴斗」
――声に出さなくてもいいぞ。はると、か。俺はヴォイドだ。しばらくお前の体に居座らさせてもらう。
それがどういう意味か分からなかったが、断る理由はないので頷いておいた。
次に訪れたのは、それから一週間後。
――急に呼ばれたけど一体何が……。ヴォイドの気配まであるし。
次の声はどこか軽い調子のものだった。ヴォイドの呆れたような声が続く
――お前も来たのか。まさかこんな形で会うことになるとは……。
――ああ、久しぶりだね、ヴォイド。今回の悪巧みは?
――そんなものをしたことはない。していたとしても、今回は別だ。
勝手に盛り上がる声二人。二人と言っていいのかは分からないが。やがて、今回出てきた声が、では改めてと咳払いをした。
――僕はアークだ。よろしく。では早速だけど、記憶を見せてもらうよ。
この声たちはどうしてこう簡単に記憶を見られるのだろうか。そんなことを思っていると、またあの時の頭痛に襲われた。しばらく耐え、痛みがひくのを待つ。今度はどんな反応を示すのだろうと思っていると、
――まさか……。
アークの声は、震えていた。まさか、まさかと何度もつぶやいている。
――どうした、アーク。
――いや……。気にしなくて、いい。
気になるに決まっているだろう、とヴォイドがため息をつき、自分は心の中で強く同意した。気にしないでとアークが朗らかに笑いながら言う。だがそれは、自分でも分かるほどに作り物めいていた。
――ヴォイド。先に宣言しておく。
――ふむ。聞こう。
――僕は今後、何があろうとこの子の意思を尊重する。僕の力が及ぶことならどんなことでもする。僕はこの子に、全面的に協力する。
どうして急にそんな話になっているのか。よく分からないが、しかしヴォイドは何も聞かずに頷いたようだ。
――お前が言うまでもなく、俺もそのつもりだ。
――へえ……。意外だね。
今度こそ、アークは楽しげな笑い声を上げた。それじゃあ、と続ける。
――改めてよろしく。晴斗、ヴォイド。何かあれば、遠慮なく相談してくれ。
アークとヴォイド。勇者と魔王との出会い。ハルはこの出会いを、決して忘れることはしないだろう。
・・・・・
朝。ハルはいつも通りに朝日が昇ると同時に目を覚まし、ベッドの上でゆっくりと伸びをする。ベッドは仕方なく使っているが、ハルにとっては柔らかすぎて正直気持ちが悪い。ハルはベッドから出ると、体をほぐすために軽い運動をして、その後に静かに部屋を出る。
「おはようございます、ハル様」
昨日と同じメイドがすでに扉に前に立っていた。ハルはげんなりとしつつも、すでに諦めもあるのでため息をつくだけにとどめる。メイドは、では着替えましょうとハルを部屋に戻した。
3開始です。
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ではでは。




