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ハル曰く。
タグラスは妹の薬と引き替えに、ティアナの誘拐を依頼されたらしい。一度目はティアナが受ける依頼を調べ、先回りして誘拐、依頼主に引き渡したが途中で逃げられていたとのことだ。その後、改めてもう一度依頼を受ける。先の失敗は依頼主の責任なのだが、まだ薬をもらっていなかったために断れなかったそうだ。
タグラスはハルのことを過小評価、とはいかなくともそれほど危険視していなかったのだろう。召喚した魔族に二人そろって誘拐させるつもりだったようだ。その召喚魔法は依頼主が用意したもので、出所は詳しく分からないとのことだった。
前回の誘拐と今回の急襲はどうやらこの依頼主が発端らしい。ハルも名前までは知らないようだった。
「ずいぶんと詳しく教えてもらったみたいだね」
「記憶を見た」
「は?」
一体何をすれば記憶を見れるのか。疑問に思うが、先に聞くべきことがある。
「それで、その子が……?」
「そう。タグラスの妹」
ソファに横になって眠っている幼い少女。ティアナはその顔をまじまじと見つめて、
「タグラスさんの面影がありますね……」
ぽつりと、そんなことをつぶやいた。
「でもどうしてあの小屋に……」
「ティアが探索魔法を使えるから。だから実際に探す相手がほしかった、と思う。依頼を出したのはタグラスから頼まれた別の人。この人の名前は……いる?」
「そう、だね……。後で教えてもらえるかな。多分事情を知らない一般人だろうけど、聞くだけは聞いておくよ」
「分かった」
そこで会話が途切れ、しばらく無言の時間が流れる。ティアナはずっと少女のことを気にしているが、ハルはそちらには一切の興味がないようだった。今回の件はあったが、今までずっとタグラスにはティアナが世話になっていた。できれば妹の薬くらいは用意してやりたいのだが、もしや手遅れなのではと思ってしまう。
「ハル君。その子は……」
「問題ない。治した」
「あ、ああ……。魔族のようになっていたのは戻してくれたみたいだね。その方法も知りたいところだけど……。病気は?」
「治した。元気」
さすがにこの言葉にはアレンは大きく目を見開いた。ティアナもハルを驚愕の表情で凝視している。ハルはその視線に戸惑っていたようだったが、やがてアレンへと言った。
「ちょっと、お願いがある」
「あ、ああ……。なにかな?」
「休みたい。少し疲れた」
それもそうだろう。まだ色々と聞きたいことはあったが、明日でもいいだろう。アレンは使用人たちを呼ぶと、すぐに部屋の準備をさせた。
その夜。アレンは執務室で一人思考の海にもぐっていた。
実を言うと、今回の急襲は予想の範囲内だ。誘拐されたティアナが無事に帰ってきた以上、そう遠くないうちに誰かが行動を起こすと思っていた。そんな時に自分がいれば犯人は出てこないだろうが、ハルならもしかしたら、と思い、二人で行動させていた。
失われた転移魔法を使ったり、ティアナ曰く影魔法を使ったりと予想外のことも多かったが、だいたいの流れはアレンの計画通りと言える。ハルを利用してしまう形になってしまい、申し訳なく思いもしているが。
何かで埋め合わせをしよう、とアレンが席を立つのと、扉がノックされるのは同時だった。
「誰かな?」
執務机の下に隠してある剣を手に取りながら問いかける。開かれていく扉の先にいたのは、
「ハル君……?」
安堵しかけ、だがすぐにそれに気づいた。
白い髪は明るい金色になり、全てを吸い込みそうだった黒い瞳は透き通るような蒼色になっている。一体何が、と思っていると、ハルらしきものが口を開いた。
ご都合主事すぎてだめだめですね! がばがばあまあますぎる……。
……本当にプロットは大切ですね……。




