2-22
「お前は、俺を殺せない……。俺を殺すと、情報を得られないからなあ……!」
「………」
「俺はただ依頼を受けただけだよ……。ふふ、さて、誰からの依頼だろうなあ……。ははは……」
ハルは小さくため息をつくと、髪の毛を離した。地面に顔をぶつけながらも、へらへらと笑うタグラス。タグラスはハルへと顔を向け、
「ほら、腕の傷を塞げよ。魔法でも何でもいい。死んでしまうよ?」
「その前に一つ……。ティアを裏切って何とも思わなかったの?」
タグラスが目を見開き、言葉を詰まらせた。何かを言おうとして、だがすぐにハルを睨み付ける。
「思わなかったな。ただのいいとこの嬢ちゃんだし。分かったらさっさと」
「うん。じゃあかわいそうだけど、調べるよ」
「は?」
影がタグラスの周囲を巡る。唖然としているタグラスへと、ハルは冷たく言い放つ。
「生きたまま影に取り込む。そこでゆっくりと、記憶を調べるよ」
「どういう……」
タグラスの体が影に沈み始めるう。ひっ、とタグラスが短い悲鳴を漏らし、
「待ってください、ハル君!」
ようやく我に返ったのか、ティアナの声が上がった。億劫そうに振り返り、首を傾げる。
「なに?」
「何をするつもりですか……?」
「呑み込む。つまりは殺す」
ティアナが表情を歪め、タグラスが愕然と目を見開いた。
「そ、それはだめです! ハル君、お願いします、どうか……」
「狙われたのがティアだけならティアに従う。けど、ぼくも襲われた。だから、だめ」
タグラスの体が影に沈んでいく。今度は止まることはないと察したのか、タグラスが叫び始めた。罵倒や命乞いなどあらゆる叫びだが、ハルはそれを全て聞き流す。これから殺す相手に興味などない。
「ハル君! やめてくだ……。え?」
こちらへと駆け寄ろうとしたティアナが、しかし動けずに足下へと視線を落とした。氷に張り付いた自分の足を。ティアナはそれを見た後、ハルへと視線を戻す。今にも泣きそうな顔だ。
「ハル君……」
ハルはタグラスへと目をやる。すでに顔以外が影の中に沈んでしまっている。タグラスは怨嗟の籠もった目をハルへと向けて、しかし言葉は発しない。もう諦めたのだろう。ハルはタグラスの耳元へと顔を近づけた。
「小屋の子は……ちゃんと助ける」
タグラスが目を見開く。ハルはそれ以上は何も言わず、立ち上がって小屋の方へと歩いて行く。
「ああ……。すまないけど、頼んだよ」
そんな言葉を残して、タグラスは影の中に沈んでしまった。
・・・・・
暗い暗い闇の中。タグラスは微かに残る意識で今までの人生を思い出していた。いや、思い出させられていた。
周囲の闇はタグラスの体を呑み込み、細胞一つ一つと同化していく。本来なら泣き叫ぶほどの激痛を感じるものなのだが、ハルの最後の情けなのか、痛覚は完全に麻痺していた。だが、痛みで狂うこともできず、ゆっくりと死へと向かう恐怖だけを感じてしまう。
それでも、こんな恐怖では足りないとも思う。妹のように思っていたティアナを裏切ったのだから。ティアナが受けたであろう心の傷を思えば、この程度の恐怖は当然だろう。呑み込まれる直前まで心残りが、後悔があったが、それもハルの言葉で消え失せている。
過去の記憶を早送りで見ながら、タグラスは自らを嘲った。
・・・・・
もう少しプロットを練るべきでした。
ご都合展開すぎますね……。




