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そうなのか、とハルは意外に思いながらも納得した。比較対象がほとんどいないので、いまいち自分の実力というものが分からない。ただ、どうやらそれなりに戦える力量だと思っていいようだ。少しだけ嬉しそうに表情を崩したハルに、ヴォイドがため息をついた。
――なぜいつも自分に対しては過小評価なのか……。
――まあ……。慢心するよりはいいと思うけど……。
そんな会話を聞き流しながら、戦い続ける二人の後を大人しくついていく。
「ティア!」
「え? わ……!」
ティアナの背後の茂みから、大型の魔獣が飛び出してきた。反応が間に合わず、魔獣の爪がティアナの背中を深くえぐった。タグラスが慌てて駆け戻り、ハルは大きく目を見開く。あれぐらい反応してほしい、と少しだけ思ってしまった。
「あぐ……ぅ……」
そんな考えも、ティアナの苦悶の表情を見て吹き飛んだが。
「くそ! ハル君! すまないけど少し……」
タグラスの言葉は、最後まで聞かなかった。ハルは即座に剣を抜き、ティアナを襲った魔獣へと一瞬で距離を詰める。そして、次の瞬間には魔獣の首が飛んでいた。
「は……?」
タグラスの間の抜けた声が聞こえる。しかし剣を抜いたハルにそんなものは聞こえない。視界に入っていた魔獣の首を次々に飛ばしていく。
――待った! ハル、落ち着いて! そんな大した怪我じゃないから!
アークの慌てたような言葉に、ハルは動きを止めた。最も時すでに遅く、周辺の魔獣は片付けた後ではあったが。ハルは高ぶった感情を落ち着かせるように大きく深呼吸すると、ティアナたちの元に戻った。
タグラスがティアナに治癒魔法をかけていた。ハルが戻った時にはすでにティアナの表情は和らいでいる。どうやら無事に治療は終わりそうだ。
「戻ったか、ハル君」
タグラスがハルを睨み付ける。首を傾げるハルに対して、タグラスは声に怒りをにじませて、言う。
「君の気持ちは分かる。だが単独行動は控えてほしい。君は治癒魔法も使えると聞いていたから、援護をお願いしたかった」
「…………」
ハルは黙ってその言葉を受け止める。もともとハルは誰かと戦うということが初めてだ。素直にタグラスの言葉を受け止めていく。
「一人の勝手な行動が仲間を危険にさらすこともある。確かにハル君は強いけど、もしここに他の魔獣が来た場合、対処が間に合わなくなる」
なるほど、とハルは頷いた。常に誰かに気を配りつつ戦え、ということか。それを聞いて、ハルは即座に結論を出した。
無理だ、と。
「ぼくはそんなに……器用じゃない。できない」
「いや、周りを気にすればいいだけだよ。仲間を見捨てるのは嫌だろう?」
ハルはそれは嫌だけど、と同意を示し、しかしすぐに、でもと首を振った。
「できるだけ……守る。それ以上は、無理……」
「いや、だから……」
「だから……間に合わないなら、呑み込む」
「は? なんだって?」
ハルはそれ以上は何も言わず、向かっていた先へと歩き始めた。
・・・・・
治療を終えて、すみませんと謝ってくるティアナに気にするなと笑いかける。ティアナはハルの背中を少し不安そうに見つめていた。
それにしても、とタグラスは考える。ハルの実力は予想以上だ。魔の森で暮らしていたのも頷ける。最も、周囲に対する配慮や警戒は足らない気もするが。
「そう言えば、呑み込むって何か分かるかい?」
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ではでは。




