2-16
――あの場所から魔の森へは直接転移したからね……。比較対象がなかったから、気づかなくても仕方ない。
――だがな、ハル。街は薄かっただろう?
言われてみれば、と思い出す。街は確かに魔力濃度が薄かった。
――もしかして……。あれが、標準?
――そうだよ。覚えておくといい。
「じゃあここの魔獣は……」
「はっきり言って、魔の森と比べると弱いよ。ハル君なら余裕だろう?」
余裕かどうかは遭遇してみないと分からないが、がんばってみる、と言っておいた。
「それじゃあ、ティア。よろしく」
「分かりました」
タグラスが小さなスプーンをティアナに渡した。不思議そうにするハルへと、ティアナが微笑む。そして複雑な言葉で詠唱を始めた。
――ほう……。探索魔法を使えるのか。
――なるほど、なら捜索に適任だ。
――探索魔法って?
――何かしらの物に最も縁の強い相手を探す魔法だ。便利な魔法ではあるが、詠唱が複雑なものでな。上級魔法に分類されているはずだ。
そんなに難しい魔法なのか、とハルが内心で驚いていると、ティアナが突然顔を上げて、ある一点の方角を見つめた。
「あちら、ですね。一時間ほど歩いたところです」
「意外と近いな……。生きているかは分かる?」
「まだ……生きています。ただ感じられる縁が弱いので、急がないといけません」
ティアナが沈痛な面持ちで言った言葉に、だがタグラスは嬉しそうだった。その表情に気づいたのだろう、ティアナが怪訝そうに眉をひそめて、言う。
「どうしてそんな顔をするんですか。危ないんですよ」
「落ち着いてくれ、ティア。正直、手遅れの可能性もあったんだ。だからまだ無事だったことに安堵したんだよ」
「それは……。そうかも、しれませんけど……」
「とりあえず急ごうか。ここでのんびりしているわけにもいかない」
タグラスが森の奥へと進み始め、ティアナが慌ててそれに続く。ハルもその二人の背を追って、森の中に入った。
――どう思う? アーク。
――色々と思うところはあるね。討伐依頼を受けるはずが何故か捜索依頼だし、危険度もまた未知数なのに受けているし。
――場合によっては危険度はかなり高い。中級の依頼とは思えないな。さて、どうなることか。
――なるようになるだろうね。ふふ、楽しみだ。
――ああ、楽しみだ。
森に入ってすぐに、多くの魔獣が襲ってきた。ただ魔の森の魔獣と比べると大した敵はおらず、タグラスとティアナの二人がほとんど片付けてしまう。ハルは少し退屈に思いながらも、タグラスの動きを観察していた。
動きから見て、確かにティアナよりも強いのだろうとは思うが、ハルにとってはこの程度か、というものだ。簡単に勝てるとはさすがに言えないが、負けるとも思えない。最も、環境次第とも言える。
タグラスとティアナの二人で危なげなく倒せるのが、この森の魔獣たちだ。ハルにとっては驚異にすらならない。
――ねえ、アーク。
――ん? どうかした?
――ぼくってもしかして、ちょっと強い?
――超級らしいアレンといい勝負ができるんだ。強いに決まっているだろう?
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ではでは。




