2-13
「どうぞ」
差し出されたそれを受け取ったものの、どうしていいのか分からず助けを求めるかのように視線を彷徨わせ、最後にティアナへと行き着いた。どこかおかしそうに笑っているティアナをじっと見つめると、楽しげな声音で、
「お父様からハル君へ、です」
首を傾げながら、ティアナに促されて布の中身を見る。鞘に収まった一振りの剣。それを見て、ハルはきょとんとしたままだったが、
――へえ……。
――これは、なかなか……。
中の二人は、感嘆のため息を漏らしていた。
――なに? どうしたの?
――ハル。これは素晴らしい剣だ。ティアナに渡した剣と同等か、それ以上。
――これから討伐依頼だからな。さすがに貸してくれるだけだろうが。
「ティアナがいい剣をもらったみたいだからね。その代わり、にはならないだろうけど、ハル君に使ってほしい。今回の件の報酬の一つ、として思ってくれればいい」
――報酬……って、まさかっ?
アークが驚きを口にして、ヴォイドは絶句する。ハルはアレンへと疑わしげな目を向けた。
「くれる……の?」
「ああ。ティアがもらった剣に勝るとも劣らない名剣だよ。是非、君に使ってほしい」
ハルはアレンの目をじっと見つめた後、剣に目を落とす。布を全て取り払い、黒い鞘から剣を抜く。刀身は白銀、のようでうっすらと青みがかっていた。きれいだ、と素直に思う。
「もらってくれるかな?」
ハルにはアレンの意図が分からない。確かにティアナに渡した剣は、ハルが持っていた剣の中では一番良いものだった。アークとヴォイドのお墨付きなので、剣の良さは正直あまり分からないが、かなりの業物だったはずだ。そして今渡された剣は、アークとヴォイド曰く、その剣以上とのこと。そんな剣を何故ハルに渡してくるのか。
この剣の代わりに何か無理難題を言われるのでは。そう考えたハルは剣を鞘に収めると、それを布に包もうとして、
――待って、ハル。
アークの言葉で動きを止めた。
――もらっておこう。今回は大丈夫だよ。
――本当に……? いい剣なんだよね?
――ああ。でも大丈夫。僕を信じて。
ハルは怪訝そうに眉をひそめる。突然に表情を変えたハルにティアナたちが驚くが、ハルはアークとの会話でそれに気づかない。
――そうだね。もしこれで何かあったら、僕が責任を持つよ。
――具体的には?
――今この場にいる者全て、その者から話を聞いた可能性がある者も全て。いや……。
アークはそこで言葉を句切り、しばらく考えるように静かになる。しかしそれはさほど長い時間ではなく、すぐにアークは続けた。
――この街にいる全ての人間を、殺す。
およそ勇者らしくない言葉に、ハルはわずかに目を瞠る。アークのこの言葉は決して嘘ではないだろう。やると言えばやる、それがアークだ。
ハルはアークの提案を受けることにして、アレンへと向き直った。
「使わせて……もらいます」
ハルがそう言うと、アレンは満足そうに微笑んだ。
朝食後、ハルとティアナはギルドへと向かった。ギルドの周辺は、昨日と違いかなり落ち着いている。露店なども少なくなり、いつもの日常に戻ってきた、とはティアなの言だ。
ギルドには冒険者らしき者が昨日よりも大勢訪れていた。一人、また一人と何かしらの依頼を受けてギルドを出て行く。ハルとティアナはその流れに逆らい、部屋の隅へと移動した。
「タグラスさんはまだみたいですね」
「そうだね」
「少し待ちますが、大丈夫ですか?」
「うん。問題ないよ」
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ではでは。




