2-11
ハルには聞こえないように、アークとヴォイドは会話を交わす。ようやくハルの言葉の衝撃から立ち直りかけているところだ。
――ハルは、ティアナのことを気にかけていた。心を許していると、思っていたよ。
アークのつぶやきに、ヴォイドは神妙な声を返す。
――俺もだ。守ろうという意思を感じたからこそ、気を許したのだろうと思っていたのだが……。
――僕の依頼の延長線上。ただ、それだけか……。
――確かにある程度気を許しているようではあるが……。少しだけ、だろうな。
ハルのティアナを守りたいという意思。それはハル自身の意思ではなく、アークの依頼によるものらしい。アークとしては街まで送れば十分だと思っていたのだが、何を思ったのかハルはもう少し様子を見るつもりだったようだ。それに気づかず、アークとヴォイドは、ハルがティアナに心を許し、守りたい存在になっていると誤解した。
――会って一週間と少し。そんな信頼関係が生まれるはずもなかった、かな。
――残念だ。独り立ちのためにギルドを勧めたが、森に帰るのなら意味がなくなったな。
二人そろってため息をついた。
ティアナとタグラスの二人と約束をした以上、ハルは明日のギルドの依頼は共にするだろう。だがおそらく、そこまでだ。その翌日には森に帰ることになる。食べ物に魅力は感じているようだったが、人間社会そのものには大して興味を持てなかったのだろう。
ハルを独り立ちさせるいい機会だと思っていた二人にとっては、肩すかしもいいところだ。二人はもう一度、そろって大きなため息をついた。
・・・・・
ハルに対する父と自分の共通認識。それは、このままではいけない、というものだ。ハルが何故、魔の森で一人で暮らしていたかは分からない。ティアナには想像することもできない、複雑な事情があるのかもしれない。だがそれでも、あのまま森で暮らしているハルを見過ごすことはできない。
父に相談すると、同じようなことを考えていたらしい。それどころか、父はどうにかしてハルを引き取ろうとしているらしかった。理由を聞けば、手元に置いておきたいのだそうだ。そこまで評価していることに逆に驚いたものだが、父はハルと直接戦ったことがある。何か思うところがあったのだろう。
だが二人がどれだけそんな意思を見せようとも、ハルにその気になってもらわなければ意味がない。故にティアナは、今日一日、ハルのために街を案内した。途中ギルドに立ち寄ったり、ギルドという存在を知っていることに驚いたものだが、概ね成功したと言えるだろう。ハルはこの街の料理を気に入ってくれたようだった。
それ故に、帰宅した後に言われたハルの言葉は衝撃だった。
『明後日、森に帰る』
あまりに突然で、不意打ちで。ティアナは何も言えなかった。どうして、と理由を聞くと、真顔で、帰りたいからと返されてしまった。
その後の夕食では、ちょっとしたご馳走が出されている。ハルがまだ食べたことのないだろうものを中心に運んでもらったのだが、やはりハルの意思を変えることはできなかった。
夕食後の今は、ハルはすでにあてがわれた部屋で就寝している。森にいる頃の生活リズムで行動しているらしく、夕食後はすぐに休んでしまった。最も、そのおかげで父と話ができるわけだが。
「それにしても、不思議だね。どうしてギルドのことは知っていたんだろう?」
「分かりません……。どうして依頼を受けようとしていたのかも」
「もしかすると、ハル君も森の外で暮らそうとしている意思はあるのかもしれないね」
「それだと楽なんですけど」
「ともかく、タグラス君がいるなら大丈夫だとは思うけど、明日は気をつけて。できればハル君とも色々と話をしておいてほしい」
「はい。善処します」
ティアナはしっかりと頷くと、その場を後にした。
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ではでは。




