2-10
「上級と言っても、下位だけどね」
「へえ……。上級、なんだ……」
ハルはタグラスをじっと見る。その体つきや持っている武器の状態など、得られる情報は数多い。そしてそれらの情報から、ハルはタグラスの評価を定めた。はっきり言ってしまえば、この程度か、と。もっとも、実際に剣を交わしたわけでもなく、ただの見た目での結論だ。実際は予想より強いのかもしれない。
それからしばらくは、ティアナとタグラスの雑談を黙って聞いていた。最初こそティアナはハルも会話に入れようとしてくれていたみたいだが、ハルが反応しないと察するとハルには話を振らなくなった。もっとも、未だにこちらをちらちらと伺ってきているが。
少し前にハルの前に出された料理は、当然ながら初めて見るものだった。底の浅い丸皿に、とろとろに溶けた何かが載っている。一緒に出されたスプーンですくってみると、中には米がつまっていた。
――ドリアか。懐かしいな。
――確かこれも貴様が伝えたものだったな。
――ああ、そうだよ。ハル、後で一瞬だけでいいから、僕も食べたい。
――待て、アーク! ハルよ、できればでいいのだが……。
二人の反応にハルは内心で苦笑しつつ、しかしハルはそれを拒否した。やはりだめか、と二人とも断られることを予想していたようだったが、それでも残念には思っているらしい。ハルはせめてものお詫びとして、味や食感のイメージを二人に伝えた。
――むう、余計に食べてみたくなるな……。
――そうだね……。ハル、材料だけ後で買おう。作ることはできるから。
――分かった。必ず買って帰るよ。
そんなことを約束しておく。それだけで二人から嬉しそうな気配が伝わってくる。安いな、と思ってしまうが、ほとんど娯楽のない森から出たところと考えれば普通なのかもしれない。
「ハル君。聞いていますか?」
不意に、目の前から呼びかけられ、ハルは慌てて意識をティアナに向けた。心配そうにしていたティアナだが、ハルがしっかりとティアナへと視線を向けたことで、安堵のため息をついていた。
「ハル君。明日は討伐依頼に行きませんか? タグラスさんが一緒に行ってくれるそうです」
「噂を聞く限りだと、護衛はいらなさそうだけど……。よければ一緒にどうかな?」
ティアナとタグラスの続けての言葉に、しかしハルは無言。先を促す意思を込めて、視線だけはタグラスへと向けている。
「依頼は中級、ハル君にとっては初めての依頼だからね、難しくせずに行こう。どうかな?」
やはり答えずに、今度はティアナの方へと目を向ける。
「いつも一緒に……行ってるの?」
「普段、ですよね。よく一緒に行っています。私もまだまだ未熟なので……。だからですね、タグラスさんはちゃんと信用できますよ」
「そう……。分かった。一緒に……行く」
決まりですね、とティアナが嬉しそうに言って、タグラスは小さく安堵の吐息を漏らしていた。
「続き……。食べて、いい?」
「あ、はい。気に入ってもらえたようで良かったです。どうぞ」
ハルはすぐに二人を意識から追い出し、食事を再開する。今まで食べたことのない食感と味に、ハルは夢中になっていた。それでも会話程度なら本来ならできるのだが、今はアークたちとの会話で忙しい。
――ハル。タグラスを気にしているみたいだけど、どうかした?
アークの問いに、ハルは肯定の意思を示す。
――あの人、ティアと仲が良さそうだよね。僕、もういいんじゃないかな?
――え?
――護衛、もういいよね。ねえ、アーク。明日……は約束したから、明後日帰るよ。いいよね?
確認を込めてハルが聞く。だがアークからの返事がない。それどころか、ヴォイドも一言も発しない。伝わってくる気配は、絶句。何をそんなに驚いているのだろうか。疑問に思いながらも、ハルは食事を続ける。結局その後、アークとヴォイドは無言を貫いた。
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ではでは。




