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そうなのか、と素直に驚く。確かにハルがまともに力量を知っているのは、話で聞くだけだがアークとヴォイドの二人、そしてつい先日戦ったアレン、その三人だけだ。その三人と比べることがまず間違っているのだろう。
そう納得しかけて、だがすぐにハルは眉をひそめた。
――じゃあティアは誰に誘拐されたの?
――不意打ちもあるだろうけど……。誰だろうね。
考えても答えは出ないだろう、ハルはその思考を早々に打ち切り、ティアナへと視線を戻す。ティアナは困惑しつつこちらを見つめていた。
「ごめん……。少し、考え事……」
「そうですか……? 何かあったら言ってくださいね。それで、どうします? 受けてみたい依頼はあります?」
今度はしっかり考える。だがどういった依頼があるのかもハルには分からない。それに、よくよく考えればギルドの登録はアークに勧められたものだ。今すぐ、ティアナと共に決めなければいけないものでもないだろう。
けれど、ハルには気になることが一つあった。
「ティアは……どの依頼?」
「私ですか? 薬草などを集めに行ったりもしますし、誰かと一緒に魔獣の討伐に行ったりもします」
ぴくり、とハルの眉が動いた。魔獣の討伐。誰かと組むとは言っていたが、やはり危険な依頼のものだろう。そんな依頼を受けているのかと驚くと同時に、ハルの答えは決まった。
「ティア。次討伐の依頼を受ける時に教えて。一緒に行く」
「はい! 分かりました! 一緒に行きましょう!」
瞳を輝かせて、嬉しそうな表情のティアナ。
「それじゃあ、美味しいもの、食べたい」
「はい。ではご案内しますね」
ティアナがハルの手を取り、引っ張っていく。ハルはそれに逆らわずに、ティアナに連れられるままギルドを出た。
二人が去った後、
「まるで嵐だな……。それにしても、超級の魔力か……」
「これからが楽しみね。良くも悪くも」
そんな会話が交わされていたのだが、二人が気づくことは当然、ない。
石畳で整備された大通り。その両脇には様々な屋台が並んでいる。特に多いのが、食べ物の屋台だ。魔法で熱した鉄板を使って料理をしている露店や見たこともない食べ物を売っている露店など、ハルの知らない食べ物が数多くある。
「何か食べたいものがあれば言ってくださいね」
「お金は?」
「お礼も兼ねていますから、気にしないでください。お父様からたっぷりともらってきました」
街ではお金というものが必要だと聞いていたのだが、どうやら今日はティアナが出してくれるらしい。ハルは素直に礼を言うと、周囲の露店へと視線を巡らせる。どの食べ物もハルにとっては未知の食べ物だ。全部食べてみたいと思ってしまう。
だが、ティアナはお勧めの店に案内してくれるらしい。ということは、ここで食べるよりももっと美味しいものが出てくるはずだ。なら今食べるものは最小限に留めるべきだろう。結局ハルは串にさした焼き肉と黒い何かがかけられたパンを買ってもらった。
「その焼き肉、美味しいでしょう? あの屋台は昔から焼き肉を売っているお店が出しているもので、焼き鳥のたれもそのお店で使われているものなんです」
「うん。美味しい。ところで、これはなに?」
焼き肉を頬張りながら、ハルは持っている紙袋を持ち上げる。中に入っているのは、パンだ。パンを食べたことがないのでティアナに食べてみたいと言ってみたところ、このパンを勧められた。先ほどから、その袋から甘い匂いが漂ってくる。
「上にかかっているのはチョコレートです。知ってますか?」
「知ってはいるけど、初めて見た」
パンもチョコレートも、当然ながら森で手に入るものではない。パンに限ってはうち捨てられた馬車から見つけたこともあったが、そのどれもが緑色の何かが生えていたりしてアークから食べることを禁止されていた。今回のこれももしかすると止められるのではないかと思ったが、どうやらこのパンはいいらしい。
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ではでは。




