2-5
それら全員の視線が、部屋に入ってきたハルへと集中する。思わず身を硬くしてしまったが、側へと寄ってきた屈強そうな男は優しげな笑顔を浮かべた。
「どうした? 迷子か? 両親の名前さえ教えてくれれば探してやるけど」
ハルはこの建物がどういった場所かを、アークから簡単にだが聞いている。ギルド。有り体に言えば、何でも屋が集まるところだ。そこから考えると、この男はハルが依頼を持ってきたと思ったのだろう。こんな子供に何を求めているのかと呆れてしまいそうになる。
だが、ハルのその予想はどうやら外れていたらしい。
「何やってんだい、そんな子供から金を取ろうとしてるるのかい?」
「違う! ただの善意だ、金なんていらねえよ!」
ハルが目を瞠り、それに気づいた男が苦笑。男に声をかけた鎧姿の女は腹を抱えて笑っていた。
「き、気を取り直して……。迷子の親探しなら、今なら無料で請け負うぞ。はっきり言って今日は暇だからな」
「迷子じゃ……ない」
緊張しながらも、勘違いされたままでは話が進まないので先に訂正する。男がそうか、と頷いて、
「それじゃあ別の依頼か? 内容にもよるが、格安で……」
「登録……したい」
ハルが何とかそう伝えると、男があからさまに目を見開いた。いつの間にか、部屋は水を打ったように静まりかえっている。そしてすぐに、目の前の男が目を細めた。ハルを睨んでくる。
「ここは子供の遊び場じゃないぞ」
とても低い声に、ハルは表情を引きつらせ、一歩引いてしまう。アークとヴォイドが情けないと嘆くが、それを気にする余裕すらない。どうやら自分にはここは早いようだと考え、ハルは立ち去ろうとして、
「ハル君!」
背後からの声にびくりとハルの体が震えた。おそるおそる振り返ると、息を切らしたティアナがそこにいた。じっとこちらを見つめているティアナ。そこでようやく、ハルは気がついた。ここに来る前に、ティアナに何も言っていないことを。
怒らせてしまったかなと不安になったが、しかしティアナは小さく安堵のため息をついて、すぐに笑顔を浮かべた。
「ここにいたんですね。急にいなくなったので心配しました」
「ごめん……」
「別に怒っているわけじゃないです。でも、次からは一言言ってくださいね。ちゃんと案内、しますから……」
「うん……」
ティアナは心からハルを心配してくれているらしい。それが何となくだが察することができるために、余計に申し訳ない気持ちになってしまう。普通なら怒られてもおかしくないと分かっているために、怒られるより心配される方が堪えるものがある。
肩を落としているハルにティアナは首を傾げながら、ところで、と言葉を続ける。
「ハル君はどうしてここに? ここはギルドといって、何でも屋の人たちが集まる場所です」
「何でも屋と断言してほしくないんだけどなあ、ティア」
え、とハルが驚いて振り返る。声の主は、先ほどハルに話しかけていた男だ。すぐにティアナに視線を戻すと、ティアナもどうしたのかとハルをじっと見ていた。うまく言葉にできずに男とティアナを交互に見ていると、やがてティアナがもしかして、と言う。
「私も一応ギルドに登録されているので、ここの人たちのことは知っています」
「仕事、してるの……?」
「はい。父に勧められて。ただ一人で受けることは許可されてなくて、誰かのお手伝いになっています」
「もうお手伝いの力量じゃないけどな」
男が苦笑交じりにそう言うと、部屋にいた全員が同意するように頷いた。ティアナが、そんなことはないと首を振る。
「私もそれなりに自信はありましたけど、自惚れでした。今回のことで思い知りました……」
「今回のことが例外だと思うけどなあ……」
男が困ったように頬をかいて、ふと何かを思い出したかのようにハルへと目を向けた。それにすぐに気がついて、ハルは思わず身構えてしまう。男はしばらくハルをじっと見ていたが、その間にティアナが割り込んできた。
誤字脱字の報告、ご意見ご感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




