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異世界ものを書いてみたくなりました。
文才の欠片もない駄文ですが、暇つぶしにでもどうぞ……。
――聞いた?
――聞いたよ。
――聞いたとも。
闇に浮かぶのは意識のみ。聞こえるものは彼らの声だけ。それ以外は何も聞こえず、そして何も見えない。それが彼の世界の全て。
――どうしよう。
――任せるよ。
――好きにするがいい。
彼らは道を示さない。全てを彼に委ねてくれる。彼らが与えてくれるのは力と知識だけだ。そのことに少しばかり不満も抱くが、与えられるだけでも十分だろう。
――死にたくない。
――当然だね。
――ならばどうする?
彼らの口調は楽しげですらある。少年がどのような答えを出すのか楽しみなのだろう。
――行くよ。
――うん。分かった。
――共に行こう。
黒一色の闇の中。少年がゆっくりと目を開けた。
彼を管理する者が、与えられた命令に暗い表情をしながらも彼の部屋を訪れる。そして彼に次の命令を与えようとして、しかしすぐに怪訝そうに眉根を寄せた。いつもなら部屋の中央に佇む彼が、どこにもいない。すぐに男の顔色は真っ青になり、慌ててその部屋を飛び出した。
長い戦争が終わりを告げたその裏で、一人の少年が姿を消した。
それから時は流れ。
巨大な木々が鬱蒼と生い茂る森の中、その少女はひたすらに走っていた。時折背後を振り返り、すぐに泣きそうに顔を歪めて視線を戻す。そんなことをずっと繰り返している。
この森は魔の森と呼ばれ、凶暴な獣や魔獣が生息している。そのためほとんどの人が森に入ることはない。少女もそれは知っており、ここには自らの意思で入ったわけではない。自分を誘拐した者たちから逃げた時に、偶然迷い込んだだけである。あの魔獣が出るまでは、ここが魔の森だと気づいてすらいなかった。
どうして、と少女は思う。どうしてこうなったのか、と。
少女は街を歩いていただけだ。確かにいつもなら護衛がいて、今日は家を抜け出してきたために一人きりであったが、まさか誘拐などされるとは思わなかった。隙を見てなんとか逃げ出せたにもかかわらず、今度は魔獣により命を奪われようとしている。
どこに逃げればいいのかも分からず、必死に足を動かし続ける。だが体力が限界に近づいたのか、それともその極限状態故か、足をもつれさせて勢いよく倒れてしまった。痛みで顔を歪めながら、しかしすぐ背後から聞こえた足音に顔を強張らせ、振り返る。
巨大な獣が、目の前にいた。
「あ……」
あまりに近すぎる。どのような行動を起こそうとも、獣が自分に食らいつく方が早いだろう。獣もそれは分かっているのだろう、まるで少女の恐怖心を煽るかのように、ゆっくりとその巨大な口を開き、少女へと近づいてくる。
「やだ……いやだあ……」
涙を流し、首を振る。そんな行動を獣が理解するはずもなく、巨大な口が少女へと迫り、少女はすぐに襲いかかるだろう苦痛を予想して強く目を閉じた。
だが予想していた苦痛は訪れず、代わりに響いてきたのは、獣の悲鳴。
「え……?」
少女が恐る恐る目を開けると、白い髪の少年がナイフを片手に持って立っていた。