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始動 中編

残りの午後の授業が終わり、今日は新入部員の紹介もあるので真っ直ぐ部室である空き教室へ向かおうと、俺は手早く帰り支度をして教室を出た。

まだ放課後に残って友人同士でゲームをしたり、会話をする生徒で教室内は賑わっていたが、生憎俺にはそんなことが出来る相手がいない。

…べっ、別に寂しくなんかないんだからね!


空き教室は学校の中庭を超えて、今までいた本館の向かいにあるプレハブ棟と呼ばれる古い建物の二階にある。

丁度中庭を突き抜けようとしたとき、こちらへと歩いて来る美羽に出会した。

色白の額には薄っすらと汗が見えている。

何やら忙しそうにしている様子が、見た目から取れた。


「よう。忙しそうだな生徒会長さん」


片手を上げて挨拶をされて初めて俺に気付いたのか、美羽は少し驚いて後ろず去りした。危うく彼女の片手に抱えられたファイルを落としかけるところだった。


「っと。…いきなりビックリさせないでよ、エロ眼鏡。不審者かと思った」

「…ただ挨拶しただけでそこまで言われるのかよ。あとお前はそのあだ名使うな、リボン付きのブスが」

「リボン付きのブスって何よ⁉︎」


新たに今誕生したあだ名に対して、美羽は酷く憤慨しているようだ。

結構良いと思うけどな…「リボン付きのブス」。


そこで急に、後ろからいきなり頭を小突かれた。


「いてっ!」

「なーに校内のど真ん中でイチャついてんだ?」


頭を摩りながら振り返れば、そこには浅田が呆れ顔で立っていた。

背中には通学鞄替わりに使っている黒いリュックがある。


「痛いじゃないか。急に殴るなよ」

「部活にも行かずに、こんなとこでイチャついてる奴を見たら、そりゃ殴りたくもなるぜ。このバカップルがーー」

「「カップルじゃねぇ!(じゃない!)」」


見事にハモってしまい、互いに顔を背けてしまう俺らを見て、浅田は小さく笑みを浮かべ肩を竦めて見せた。

クソッ、コイツ内心で必ず俺らを笑ってやがる!

学校の人間相手にしたことはないが、一発殴ってやろうか?

そんな物騒なことを考えていると、浅田は視線を美羽へ移した。


「美羽はこれから生徒会か? 今の時期だと…八月の体育祭か」

「ううん、違う。体育祭ももうすぐ準備しなきゃだけど、その前にこれがあるんだ」


美羽は手持ちのファイルを浅田に手渡した。俺も横からそれを覗き込む。


「アンタは見なくていいよ」

「うるせぇ」


絡んでくる美羽に舌打ちしながら、ファイルの文字に目を通す。

なになに…「新入生オリエンテーション」?

聞いたことのない言葉に、俺と浅田は顔を上げて首を傾げた。


「なんだこれ? 俺らのときはこんなんなかったぞ」

「今年から出来たのよ。内容は…簡単に言えば、二年の生徒何人かが代表して新入生たちの前で学校生活について語るの」

「そんな行事いるか?」

「知らない、私に聞かないでよ」


俺が訝しげな顔をしながら聞くと、美羽は拗ねたように言って、浅田の手からファイルを取り上げてしまった。


「もしかして、そのオリエンテーションの二年が見つからなくて困ってるのか?」


浅田の問いかけに、その場から去ろうとしていた美羽はピクリと震えて動かなくなった。

…あー、図星だったか。コイツも容赦ねぇなー。

コイツはこういった場合では、必要以上に感が働き、オマケにそれを口から出して相手にトドメを刺す。

俺も浅田には、何度も心にキズを負わされたもんだ。


「しょーがないじゃない! 誰もこんなのやろうとしないでしょ!」

「あー…。まぁ、そりゃそうだわなー」


俺はなんとも言えない顔をしているが、浅田は何か思い付いたように面白そうな顔をしている。

ーー何故か、俺のほうを見ながら。

それを見た美羽も、浅田と同じような表情を浮かべながら頷いた。

二人の背後から黒いオーラが見えた気がし、本能が警鐘を鳴らし始めたため、俺はプレハブ棟のほうへ去ろうとした。

が、美羽が前に立ち塞がる。


「因みにね、あと足りない人数は二人なんだよね~。私とアンタを入れたら、丁度足りるんだけどな~」

「その問題が解決すれば、美羽は部活のほうに集中出来るんだよな~?」

「それはもう、今日からでも参加出来ますよ~」


二人とも、肝心の目が笑っていないぞ。

よく出来た猿芝居だ…。

この状況を打破する為に、俺は必死に抜け道を探した。

中2から習い続けている総合格闘技の飛び横受け身により、目の前に立ち塞がる美羽は回避出来るにしても、浅田に関しては中学のときにやっていた軟式野球でキャッチャーを務めていた為にガタイはかなり良い。

彼から放たれる見えない迫力感から、恐らく逃げ延びるのは困難だろう。


「しゃーない。だが、その代わり貸し1だからな?」

「なに? エロ眼鏡のことだから、また嫌らしいことを私にさせるの?」

「えっ…? またって、お前まさか…っ!」

「紛らわしい言い方すんじゃねぇよ! お前みたいなブスには何もせんわ!」


…何はともあれ、これで美羽が部活に積極的参加出来ることになった。

俺の犠牲と引き換えにな。

美羽は生徒会長と言う立場上、部活としてはプラスアルファになる人材だろう。

備品の貸し出し、また部費についてなど。


ーーしかし、オリエンテーションでの話についてはどうしたもんかね~…。

悩みが増えたことによって、俺は深く溜め息を尽きながら部室へ向かった。


後編へ続く。

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