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始動 前編

新入部員の三人が部室を訪れた日の次の日。

退屈な午前の授業が終わり、軽く伸びをしていると教室に柏木がやって来た。

腕に沢山のファイルを抱えていることから、おそらく進路指導の仕事のついでにこちらに寄ったという感じだろう。

柏木が俺の座席の近くまで来るときには、既にいつの間にかやって来た浅田と美羽が横にいた。


「お、ちょうど先輩方三人いるじゃなぁい! 感心感心」

「感心している暇があったら早く要件言って下さいよ。飯、食いたいんで」


俺は基本朝飯を食わない派である為、正午にはいつも腹減りが凄い。だから、一刻も早く食堂に向かいたいのが本音だ。


「昨日の三人、ちゃんと入部届けだせていましたか?」

「その話をする為にここに来たのよぉ。わざわざ。えっと、吉本君と牧島さんはちゃんと出してくれたんだけど、菅田君は昨日にも言ってた通り少し迷っているみたいねぇ」

「まぁ、廃部の危機は運良く逃れられたみたいだな」


浅田の質問に柏木は手持ちのファイルから取り出した、新入部員二人の入部届けを見せながら答えた。

それを見て一つ肩の荷が取れたような気がした。


「ざーんねん。私は廃部に賭けてたのにな」

「そんなもんで賭け事すんなよ。誰としてたんだ」

「柏木と」

「アンタもグルか⁉︎」

「だって今月結構ギリギリだもん」

「しらんがな。しかも生徒にたかるなよ…」


イタズラっぽく笑う美羽を見て、俺は思わず呆れてしまう。昔はこんな冗談言う奴じゃなかったのに…。

最後には何故だがその場にいる全員で笑ってしまった。


「そういうことだから、今日の放課後の部活では最初に新入部員の紹介してあげて。菅田君は今日は用事でいけないらしいから」

「了解です」


柏木は浅田の返答を聞き「頑張ってね」と一声かけて去って行った。

しっかりしているのか、そうじゃないのかよく分からない女だ。


それから俺たち三人は食堂に向かうことにした。

いつもは浅田と二人でだが、今日はいつも自前の弁当を教室で食べている美羽が付いて来た。

どうも今朝は早く起きれなくて弁当が作れなかったらしい。

ていうか、今まで美羽が自分で弁当を作っていたことを初めて知ったんだが。


いつも座る座席には、なんと昨日の新入部員が三人座って飯を仲良く食べていた。

彼らは俺に気付くと、吉本と牧島は片手を上げて、菅田は軽く会釈してくれた。

こちらも手を振り返し、手早く昼食を受け取り席へ向かう。

そこで気づいたのだが、偶然にも全員がテーブルの上にオムライスを置いていた。なんたる偶然…。


「全員オムライスだな。お前らもそれが一番美味しそうに見えたのか?」

「小倉先輩もそれ好きなんですね。僕も入学してからずっとこれなんです」

「オムライスのご飯大盛りにして下さいってお願いしたら、ちゃんと卵も大きくしてくれたんですよ! ここの食堂の方って良い人ですよね」

「…お袋の奴のほうが美味いな」


俺が飯の感想を聞くと、後輩たちからは思い思いの回答が返ってきた。

結果、それぞれの回答は吉本には隣に座った浅田。牧島には美羽。菅田には俺がすることになり、話も各自ですることになった。


「吉本って確か歴史が好きなんだよな? やっぱり幕末の坂本とかあの辺りが結構好みだったりして?」

「そうなんですよ、よく分かりましたね! 坂本だけじゃなくて、西郷も捨てられませんね。大分昔にやっていたんですけど、幕末青春グラフィティって知ってます?」

「名前くらいは…。確かドラマだったよな?」

「そうです! 見たことがないなら絶対見ることをオススメしますよ。特に少しネタバレになるんですけど、龍馬の暗殺シーンなんですけどねー」


「…そんなに食べて太らないの、恵梨香?」

「大丈夫ですよ、多分。いつも晩はこれにハンバーグとスパゲティが付いたような感じで食べてますけど、あんまり体が重くなった感じしませんし」

「…ハンバーグとスパゲティ⁉︎ うっ、ちょっとカロリー計算させて。……四千オーバー! それにそのオムライスが付くんだよね? エグいよそれ…」

「これでも腹八分でいつも止めてるんですけどね。代謝が良いのは若い内だけですから、今の内に食べることは楽しんでおかないと!」

「なんかアンタ見てると自分の悩みがとても小さく見えてきたわ…」


「さっきオムライスはお袋のほうが美味いって言ってたけど、お袋は料理美味いのか?」

「俺、ここに入学するまで結構な田舎に住んでたんスよ。そこで家が定食屋やってて、俺はいつも食ってたお袋の料理が一番自分の中で好きッスね」

「ふーん、そうなんだ。俺もお袋の料理は好きだな。…多分、菅田のお袋みたいに定食屋とかやってないから味は劣ると思うけど…」

「そりゃ俺のお袋も銀座とかの一流レストランに比べたら味は落ちると思うッスよ。ただ、俺はお袋の料理が好きなだけッスから」

「息子がこれだけ喜んでくれたら、お袋も作る甲斐がありそうだな」

「そうっスかね?」


菅田との会話が弾んできた頃には、既に昼休みが終わろうとしていた。

俺は皆に時間を知らせて、そろそろ引き上げるように言った。

新入部員たちとのコミュニケーションを築くには良いきっかけになっただろう。


「あ、そうだ小倉さん」

「なんだ?」

「俺、今日は部活に顔出せないッスけど、明後日には出せるんで」

「わかった。でも、食堂だったら毎日会えるだろ? 明日もここに来いよ」

「…気が向いたらッスけどね」


去り際に呼び止められた菅田とそんなやり取りをして、俺は教室へ戻った。


中編へ続く…


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