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第03話

 黒い霧、いや粒子状の炎術が接触した瞬間、寸断の炎術が消滅した。


「なっ、そんな馬鹿な」

「ちっ、こっちもだ」


 万が一、樹連がこちらに来た時の為に具現させたままの剣が消失した。

 悲鳴に似た驚きの声があちこちから聞こえる。


「たしかなの、宿木!」

「よーく知ってる炎気ですからね。それにこんな真似出来るDFは私は一人しか知りませんよっ!

 くそっ、なんだっていまごろになって!」


 宿木が頭を抱える。

 八識も頭を抱えたかったが、ふともう一つの変化に気付いた。


「樹連……もしかして、正気になってる?」

「なにっ?!」


 先ほどまでの哄笑は消えていた。

 無差別な破壊も止めて、喜色を浮かべている。


「アハッ、やはり、牙翼は嘘をついていた。あの方が、刃烈がアタクシをおいて消える訳がないのよっ」


 両手を挙げて歓声を上げる。

 が、次の瞬間きょとんとする。

 身に纏っていた雷が、片手にもっていた小太刀が、そして彼女の炎術の《鞭》が霧にかき消されていく。


「刃烈?」


 霧の奥から影が飛び出して来る。

 しかし、それは彼女が待ち望んだ存在ではなかった。


「牙翼、まだアタクシの前に立ちふさがるの?」


 炎術の《魔獣》に乗った健太郎は、樹連の少し手前で止まり、魔獣からおりた。


「健太郎! 炎術を解除しろ! 食われるぞ!」

「……いや、斬場さん。少し変ですよ」

「なに?」

「食われるなら、我々同様とっくに食われてます。いや、それ以前にこれが《捕食》の炎術なら、我々の器や本体も食われているはずなんですが」


 宿木の言葉に残る3人は、向かい合う健太郎と樹連に目を向けた。


「この嘘つきが。なにが刃烈というDFはどこにもそんざいしない、よ。

 見なさい、この《捕食》の炎術。刃烈が存在するという証拠」

「ウソは言ってないよ」

「言ってなさい、永遠に!」


 樹連は炎術の《鞭》を具現する。

 すでに《捕食》の炎術によって食われているのに、それは身を切り骨を削るような真似だった。

 そして、また《捕食》の炎術に食われる前にと素早く健太郎へと放った。

 しかし、健太郎の一撃のほうが早かった。


「え?」


 樹連の鞭を持つ腕が消失した。

 魔獣ではない。

 魔獣と鞭では鞭のほうが圧倒的に早いはずだ。

 そして、健太郎へと目を向けた。

 その手には鞭が握られていた。樹連の炎術の《鞭》が。


「え、え、え?」


 健太郎の手にした鞭が霧散し粒子と化し別の形態へと変化する。


「あ、あ、あああああっ」


 何かに気付いてしまったのだろう。

 樹連は蒼白な表情で後ずさった

 だが、それより早く健太郎が間合いを詰めて、炎術の《剣》で残ったもう片方の腕を切り落とす。


「し、知らなかったんです。ご無礼をお許しください。お怒りを納めて下さい」

「別に怒ってなんていない」


 ただ、底なしに哀しいだけ


 魔獣が走りだした。

 中空より現れた刃が切り裂き、矢が貫く。

 馬やオートバイが踏みにじり、そして。


「じ、刃烈……」

「捨て駒に……、気にかける覚えはないんだろ?」


 衝撃の表情で健太郎を見る樹連。

 そして、その真上に生まれた巨大な火球が落下する。


「お前は食わない。お前の炎術も返しておく。

 一片たりとも僕の中に残しておくものか」


 断末魔を上げる暇もなく樹連はその瞬間消滅した。



*---*


 夏はもう過ぎて秋口へと入りかかっていた。

 健太郎と八識、そして斬場が道端に立っていた。

 3人は並んで雑居ビルを見上げていた。

 以前の興信所の事務所が樹連に破壊された為、少し間が空いたが本日新しい事務所に移転となったのだ。

 ちなみにビルの一階は、これまた樹連によって破壊されたグルメ通りのオレンジバーナーが一足早く開店している。

 ちなみにこのビルのオーナーは《操音》の炎術を使う、あのウェイトレスだとか。

 事務所移転といっても、ほとんどが破壊されたため、机やPCなどはほぼ新品でダンボール箱に入ったものを宿木の指示で元《紅》のメンバーが非常階段から運び込んでいる。


*---*



 今日、健太郎がここに呼び出されたのは【紅】を追放されたDF全員が【燈火】への加入を望んでいる為、健太郎に依存はないか確認する為だった。


「ええ、かまいません」


 なんでもないかのようにあっさりと返答をする彼に、八識が


「間接的に智子ちゃんの仇でも?」


 と念を押した。


 自分には敵討ちの資格などない


 それが健太郎の意思だった。

 智子から人間の前畑健太郎を奪った自分が何をしてやれようか。

 斬場からは器を替えるか? と言われたが健太郎は断った。

 自分はこのまま健太郎として生きる。

 器が滅ぶその時まで。

 それこそが贖罪。


 どうして、自分達のような生物が存在してるのか?


 そう呟く健太郎に八識は投げやりに呟いた。


 それは神のみぞ知るといった所かしら


 斬場がそれにつけたした。


 もっとも、俺達に神なんぞいればの話だがな。



 第七章(最終章) 完


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