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第09話

 ウェイトレスの炎術がなければ店中の人間の注目を浴びたろう。

 殺気に近い視線にさらされながら、八識は平然とさっきの衝撃で飛び散ってブラウスについたソースを拭った。

 上から突き刺すような視線を下から覗き込むように受け止める。


「付け加えるならば、この問題自体は【燈火】ともう一方の【紅】というグループ間で発生している問題。

 本来ならば健太郎君にはまるで関係のない話。

 ただし、私達はそれに対して最大限の誠意をもって対応しているわ」

「誠意?」


 疑わしげに問い返すが、次の瞬間智子は八識の瞳に圧倒された。そこには揺るがぬ確信があった。


「さっきも言ったけど健太郎君は【燈火】とは関係ない。

 事態そのものは私達のグループが招いたとはいえ、どこのグループにも属していないDFはかかる火の粉は己で払うのが当然というのが暗黙のルールよ。

 つまり、【燈火】は健太郎君に対して何らフォローをする義理も義務もないわ。

 それにそもそも、私達が始めて会った工事現場。あなた達は、何しに来たの?」

「それは……死体の確認を」

「そうだ! 死体!」


 急に健太郎が叫んだ。


「健太郎?」

「智子! あそこに死体がなかったよね!」

「あっ!」


 色々あって忘れかけていた。

 二人はあそこに死体があるか確認にいったのだ。


「でも、じゃぁ、もしかして、あの死体はあなた達が」

「ええ、【燈火】が見つからないように処分したわ。

 他にもあの辺りで悲鳴を聞いたとか、工事現場から逃げるように出て来た男女を見たって情報が警察に流れたけど、もみ潰した。

 それくらいの力を【燈火】はもっている。

 そして、今【燈火】の長である八識が直々に事情を説明し、情報提供している。それでもまだご不満?」

「っ………………」


 智子は悔しそうに唇をかんだ。

 やがてテーブルを叩いたきり握り締められていた手は緩んでほどけ、テーブルに伏せられた。


「ごめんなさい。……話を続けて下さい」

「謝る必要はないわ。健太郎君の為に怒ったのよね? 嫌いじゃないわ、そういうの ん?」


 八識も雰囲気を和らげたが、健太郎が凍りついたままなのに気付いた。


「あらら、当の本人が凍りついたままだわ。

 智子ちゃんを庇ってた時はなかなかかっこいいナイトぶりだったのに」

「え?」


 まるであの夜の事を見ていたかのような言い方に、自然と硬直が解けて疑問が口をついた。


「なんで、その事を? それに僕や智子の名前を知っていたし」

「そうね。そろそろ次のステップに移ろうかしら」

「次のステップ?」

「DFのこと、炎術の事。今日の本題と言ってもいいわ」


 今までも現実離れした話だったのに、さらに本題と言われ二人とも空気が緊迫する。

 が、八識はその空気を払うように笑った。


「そこまで構えなくていいわ。

 さっきまでは生死が関わる話だけど、今から話すのは恐らくこれから知っているべき話と、それに付随する話だから」

「はぁ」


 さっきまでの長としての威厳はどこへやら、くったくない八識に二人は毒気を抜かれたように頷いた。


「さて、まずDFについて。

 まずDFとは何かは言ったと思うけど、私や斬場は勿論DFなんだけど、健太郎君はDFというには中途半端な状態なのよね」

「え、どういう事ですか?」

「そもそもDFとして覚醒というのはもっとゆるやかに時間をかけて行われるの。

 健太郎君は襲われる以前に炎術を使えた? それとも炎気を感じる事ができた?」

「いえ」

「でしょうね。もっと以前に覚醒していたなら、違う対応も出来たでしょうし。

 何より不思議な事にグループやテリトリーといった知識は、誰に教えられる事もなく自然に身に付くものなのよ」

「えっ、どうして」

「さぁ、こればっかりは分からないわ。ただ、私が中途半端と言ったのはそういう事。

 炎術や炎気の感知といった力を持ちながら、知識面はからっきし。

 恐らく襲われた時に時間をかけて覚醒するべきところをスキップしちゃったせいだからと思うのだけど。実際の真偽は分からないわね」

「あの……」


 何か迷ったように智子が声を上げた。


「私がDFって可能性は――」

「ないわ」


 最後まで言う前に八識は言い切った。


「やさしいのね。健太郎君と同じ立場になれれば、辛さを共有できる?」

「い、いえ。そんな。違います。

 ただ、健太郎はこれまで普通の人間として生活してきました。なら、私だって」

「可能性がもしあるのなら、同じ危機に際して覚醒かそれに近い変化があるはずよ。特にあのDFに襲われた時、健太郎君は炎術に包まれたでしょ?

 健太郎君に対して強い責任感を持つあなたが、DFとしての可能性があったのならあの状況で何も起きないはずはないわ」


 言われて智子はあの時の状況を思い返す。

 健太郎が黒い炎に包まれた時に感じた絶望感、無力感。

 もし、自分に隠された力があったのならば、絶対に使えていたはずだ。確信できる。


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