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第04話

 はぁ、と八識はため息をついた。

 こんな事ならしばりつけても斬場をつれてくるんじゃなかったと後悔した。


「なんなのよ、あんた達」

「それを説明したい所だけど、少し長い話になるしこちらにも事情があってね。

 場所変えたいんだけど……」

「………………」

「信用できません。はい、そうですね。ごめんなさい」


 智子の表情を読んで諦めのため息をつく八識。

 健太郎のほうを見ると先ほどダメージが少しは回復したのか、今は一人で立っている。

 表情は智子ほどではないが、それでも不審の色が見てとれる。


 さてさて。どうしたものか……


 八識は思案する。

 今現在の【燈火】のテリトリーの状態を考えると健太郎を放置するというのは、健太郎にとってはマイナスである事は間違いないし、【燈火】の懸案事項に関わっている可能性を低いながらも否定出来ない以上、手元においておきたい事情もある。


 とは言え、下手な事を言おうものならこちらのお嬢さんにかみ殺されそうだし。


 熟考の末、八識は懐から名刺ケースを取り出した。そこから名刺を一枚取り出して裏面を指先で軽くなぞる。


「っ!」

「あー、大丈夫だから警戒しないで頂戴。……後生だから」


 感じた炎気に敏感に反応した健太郎と、それに習ってにらみ付ける智子に懇願するようにしながら、名刺を差し出した。


「藤華……興信所?」


 受け取った健太郎が読み上げた。

 裏を向けるとこちらはまるで手書きっぽい数字が並んでいた。恐らく先ほど炎術を使って焼き書いたのだろう。


「まぁ、探偵のようなものと思っていいわよ。

 一応、そこの所長なの」


 確かに名前のところに藤華八識と書かれている。


「裏面のこれは……携帯の電話番号ですか?」

「私の携帯よ。炎術の事でも分かると思うけど、私達はまっとうでない。興信所も表向きの看板よ。

 ただ、表向きと言ってもちゃんと仕事してるからあんまりそっちで裏向きの話はしたくないのよ」


 まっとうではない。

 いまさらな話ではあるが健太郎はショックを受けていた。

 先ほどもどうだ?

 しかけてきたのは斬場が先だったが、もしあの剣で斬場が炎術を破らなければどうなっていた。

 また、殺していた?

 胃が痛い。のど元に胃液の味がする。

 顔色が青い健太郎に変わって智子が問う。


「で、携帯番号にかけてどうしろって言うんですかっ?」

「あら、それは逆よ」

「逆?」

「そ。あなた達は何も知らない。炎術の事も、私達DFの事も」

「DF?」

「黒い炎を操る者達の総称よ。

 まぁ、さっきも言ったけど少し長い話になるからまたいずれという事で。

 あなた達の都合に合わせてくれていいから。健太郎君も智子ちゃんも学生よね?」

「なんで私達の名前?!」

「これでも興信所長だから。

 なんて、とぼけてまた不審がられてもあれだからタネはあるとだけ言っておくわ。

 それを含めて次会った時にね、斬場の事があったから不信感もたれるのは仕方ないと思うけど、私達はあなた達の知らない情報を知っている。

 知らないままでいるよりは一度しっかり話を聞く方がメリットがあると思うけど」

「……あなた達のメリットは?」

「はぁ、かしこいのね。メリットはないわ。

 正確にはデメリットになる可能性を失くしたいのよ」

「デメリット?」

「さっきの斬場の行動は極端だけど、今ちょっとこの近辺はDFにとって微妙な状況になっててね。

 そこへ、事情、状況がわからない健太郎君にウロウロして欲しくわけ」


 話は終ったという風に八識は背を向けた。


「あ、そうそう。勿論、電話をくれないというのも選択肢の一つだけど、それは大きなリスクを抱え込むわよ。

 無知というリスクをね」


 背中越しに手を振って八識はシートの向こうに姿を消した。


「無知……リスク」


 呟きながら健太郎は名刺を見つめた。


「まさか、電話するつもり?」


 斬場は元より八識に対しても大きな不信感を抱いているようで、智子の問いは咎めるようだった。


「分からない。分からないよ……」


 そう、僕は何も分かっていない。



*---*



 灰色のシートを背にして、立ち去ろうとした八識は足を止める。


「帰ったんじゃなかったの?」

「確か命令はビルから出ていけ、だったな」


 両腕を組んで八識を待っていた斬場がそこにいた。

 健太郎達を前にしていた時とは違って、炎気を限界まで抑え込んでいる。


「またあの子達を襲うつもりだったんじゃないでしょうね?」

「まさか、【燈火】の長殿が心配だっただけだ」


 少し拗ねているのか、らしくなく言葉がトゲトゲしい。


「記憶障害起こしてるような子相手に過敏すぎなのよ。

 確かに炎術はそこそこのようだけど」

「そこそこ、か。今はまだそうだろうがな」

「斬場?」

「炎術をぶつけ合ったんだ、良く分かる。

 あいつ自身すら気付いていないかもしれないがまだ底じゃない。

 お前が割って入らなくてもあいつは身を守れたろうよ」

「まさか」

「可能性。時間が経ち過ぎてオレはゼロだと思い込んでいたようだが、ここに来て急上昇した訳だ。だがな」


 斬場はいくつもの修羅場を潜り抜けた鋭い眼光で八識を見据える。

 【燈火】の長は確かに八識だ。

 だが、【燈火】最強のDFとして、戦陣の先に常に立ってきたのは斬場だ。


「心しろよ。

 伏せられたカードはエースかジョーカーか、どちらか分かっていないという事をな」

「忠告、心に留めておくわ」


 【燈火】の長、それに相応しい表情に満足したのか、斬場は背を向けた。


「支部の様子を見てくる」

「私は事務所に戻ってるわ」


 二人はビル建設現場を出たところで分かれた。


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