きついお仕事
少なめです。
燦々と輝く太陽。遮るもののない青空は、木陰でうたた寝するにはこれ以上ない好条件だった。森もそんな日光を受けていると恐ろしい様子もなく、ただの木々の集まりにしか――少なくとも伝説上の化物が住んでいるようには――見えなかった。
そんななか、王都の外れ、平民街郊外の荒野で一人の青年が汗を流していた。
「……ふ……ッ!!」
ルクスである。尋常じゃないほどの汗を流し、平民街の方へと向かっていた。しかし、その速度は常の三分の一以下であった。
体内の暑い気体を呼気として吐き出し、ときたま悪態すら吐き出すルクスは、余裕というものが完全に欠如していた。
そこまでルクスが疲弊している理由は、そのルクスが運んでいる物にあった。
ルクスは自分の身長程もある丸太を引きずっていたのである。太さもしっかりしたもので、重さはどう軽く見積もってもルクスの三倍近くはあるだろうというものだった。
「くぅ……!」
苦悶の声を漏らすルクスを助ける者はいない。この荒野は人が通ることがめったにないのである。逆を言えば平民街にさえたどり着けばエンケにでも助けてもらえばいいのだが、それまでは一人だった。
顎先から滴り落ちる汗が絶えず乾燥した道に印をつけていくが、平民街は遠かった。ルクスはなるだけ下を見ないように丸太に結びつけた紐を引っ張った。
手がしびれてきた。紐を持ち直すのがもう何回目かわからなくなった頃、ようやく平民街が目前となる。ルクスはやっとか、と達成感めいたものを感じた。
平民街に入ると、人々の活気に包まれる。それに合わせてルクスの気持ちが緩んだ。
再び気合を入れ直して平民街を抜けようとする。するとちょうどいいところにエンケが店先に出ていた。
「エンケさん」
「……ん? おう、ルクスか。どうした?」
ルクスがかくかくしかじかを伝えると、エンケは男らしく返事を返した。
「おう! 手伝ってやるよ。困ったときはお互い様だかんな」
予想以上の言葉ももらって嬉しくなったルクス。その手にある紐をエンケが取って、ルクスは丸太の後ろへと回り手を添える。
ふんっとエンケが力を込める声が聞こえると同時、ルクスが普通に歩くのとさほど変わらない速度で丸太が動き出した。
知り合いの店先を通り過ぎるたびにかけられる挨拶に、一つ一つ返事をしていきながら平民街を抜けていく。
瞬く間に商店通りへ到着。これを過ぎると、貴族区への入口である庭園が見えてくるのだ。そのままエンケに協力してもらい、運んでもらう。
「いたッ」
しかし、半ばまで来たというところで、ルクスは足を丸太にぶつけた。丸太の動きが止まっていたのだ。
ぶつけた脛をさすりつつ、ルクスは前を向く。そこでは頑張って丸太を引いてくれていたエンケがいるのだが、そのエンケは、
「……」
何故か背筋を伸ばして「気を付け」をしていた。
「? どうし――」
「二人とも何やってるのかしら?」
ルクスが疑問を発する前にそれを遮る声。それはサラのものだった。ここにきてようやくルクスは納得する。
「よ、よよよ、よう、サラ!」
「ふふ。今日も元気そうね、エンケ」
いつも以上に血色が良いエンケに心中で苦笑をしながら、ルクスはサラにざっと状況の説明をした。エンケに対するお礼として、いかにエンケが頼りになるかも強調しておいた。
しかし、サラはエンケに感心したふうもなく、わざとらしくすすり泣く真似をして言った。
「……ルクス、うちに来てくれたわけじゃないのね。残念だわぁ……」
なかなかエンケは前途多難なようだった。
「はは……ごめんなさい」
ぼおっとサラに見とれているエンケに対して改めて丸太運びを依頼し、サラとはここで別れる。姿が見えなくなるまでサラに会釈で返しながら、貴族区へと向かった。